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星の記憶 1 ~幼馴染~ 

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『お前の消えた記憶を返していこう。すべてだ。だが、それはお前が眠っている間だけ‥‥』

アレクシスの声が遠くで聞こえた。



ここは日本の地、北の地で産まれた如月 暁 7歳
仲睦まじい両親の下、暁は産まれた。両親は二人とも看護師だった。
そんな暁の家の隣は、お洒落な雰囲気のあるカフェがあった。一階が店で二階が自宅だ。
そのカフェを営む両親の下、星河 礼蘭は暁と同じ年に産まれ、親交のある2人の両親は仲が良く。
またその子供たちもとても仲が良かった。

「おかえり礼蘭、暁。」
ランドセルを背負い、2人は礼蘭のカフェに小学校から帰ってきた。
「「ただいまぁ」」
幼い2人の笑顔は、星河夫妻に向けられたのだった。

礼蘭はランドセルをカフェの二階にある自宅の自室へ持って上がっていった。
暁は、カフェのカウンターによじ登り、よいしょっと座った。

「すっかり暁の席だな?どうだ、今日も学校は楽しかったか?」
礼蘭の父、礼司は優しい笑顔で暁に問いかけた。

「うーん…」
そんな礼司に、暁は悩ましい顔を浮かべたのだった。
「どうした?」

暁は少ししょんぼりしながら口を開いた。

「礼蘭と席、離れちゃった・・・」
「あはっ・・・そうか、席替えをしたのか?」
「そう・・・前は隣の席だったのに・・・」
「それは残念だったな。だがな暁。席替えは何回もあるし、これから学年があがってくと
クラス替えもある。クラスが離れる事もあるかもしれないぞ?」

「えぇっ…?礼蘭と離れちゃうの?」
悲しげに暁は焦って言った。
「まぁ…ずっと一緒ってのは、まぁあるともないとも言えないなぁ。」
「そうなのぉ?・・・・僕やだよ・・・。」

しょんぼりした暁に、礼司は声を出して笑った。
「ははっ…暁、礼蘭の事好きなんだな。嬉しいなぁ。」
「そっ…////…だって幼馴染だもんっ!」
顔を真っ赤にして暁は言った。礼司はそれを穏やかに見つめ笑った。

「暁と礼蘭は産まれたのも同じ病院で、産まれた時からお前たちは一緒だったからなぁ。」

カフェの片隅には、産まれたばかりの暁と礼蘭がベビー服で隣同士で眠っているベビーフォトもある。
大きく成る度に、2人並んだ写真は増えていき、誕生日も七五三も幼稚園の園服姿も、ランドセルを背負った二人も
笑顔で二人は身を寄せていた。

如月夫婦と星河夫婦は大人になってからの付き合いだった。暁の自宅の隣にカフェが立った時、
お互い妊娠中だった妻たちは意気投合し、4人は礼蘭のカフェで親交を深めていたのだった。

如月夫婦は看護師という仕事の為、仕事は不規則で忙しい家庭だった。
そんなすれ違う生活も多かったが、礼蘭の父母が暁をカフェで預かり、2人は一緒に育っていったのだった。

そして今もこうして、我が子の様に礼蘭の家に帰ってくるのだった。

「あきらっ!」
自室から戻ってきた礼蘭は暁の隣に座った。
「礼蘭、宿題持ってきたか?」
「うんっ!一緒にやろっ?早く終わらせて公園いこうっ?」
「うんっまず国語からな!」

そう言った二人は宿題を目の前にし、急いで始めたのだった。

「ふふっ、2人とも、オレンジジュースでいい?」
礼蘭の母、楓は二人に話しかけた。楓のお腹は大きく膨らんでいて、もうすぐ二人目が産まれるのだった。
「「ありがとう!」」

2人は花が咲いた様に笑ったのだった。



そんなある日、学校が終わり、いつもの様に二人はカフェに帰る途中。
「あっ!!!見てっ!!!」
礼蘭は、慌てて指さした。その先には。
「あっ・・・何やってんだっ!?」

目線の先では、迷子犬か…まだ小さな犬が、上級生と思われる子供たちに石を投げたりして
虐めていた。

「助けなきゃっ!!!」
礼蘭は、走り出した。それに続き暁も追う。

礼蘭は、子犬をぐっと抱き上げて、上級生たちに向き合った。
「こんな小さなワンちゃんになんてことするの!?こんな事しちゃいけないっ!って
お母さんから習わなかったの!?」

すごい剣幕で礼蘭は、怒鳴った。

「なんだお前っガキのくせにっ!」
4年生くらいの男の子3人だった。
「私達より大きいくせにっ!そんなこともしらないのっ!お巡りさんに言っちゃうからね!!」
「なんだと!?ただ遊んでやってただけだろ!」
「石を投げる事は遊んでるって言わない!!!!あっち行って!!!」
震える子犬を抱きしめ、自分も震えている。

男の子一人が礼蘭に掴みかかろうとした。

「やめろっっっ!!!!!!」
その瞬間、礼蘭の前に暁は飛び出した。そして礼蘭と子犬丸ごと抱きしめた。
「あっあきら・・・・。」
今にも泣きそうな目で礼蘭は暁を見た。

「なんだよお前!!恰好つけやがってっ!」
ぐいっと暁はその背を掴まれそうになった。
「るせっー…礼蘭!!こいつ連れて家に戻れっ!いいなっ!!!!」
ぐいぐいと身体を揺さぶられそうなのを耐えながら礼蘭に笑って見せた。

「でっ・・・でもっ・・・・・。」
「大丈夫だから早く行け!!!!おじさん連れてこいっ!早く!徒競走は得意だろ?」
そっと礼蘭を軽く押した。そして男の子達と向き合って、伸びてくる手を必死で抑えた。

そんな暁を見て、一粒涙をこぼした礼蘭は、ぐっと涙を我慢して子犬を連れて走り出した。

遠ざかる礼蘭を見送り、必死に三人を相手にした。
けれど、顔を腹を殴られたり蹴られたりと、避ける事は出来なかった。

少し時間が経った頃、その場にお巡りさんが運よく通ってくれた。
「こらっ!何やってるんだっ!」

自転車を降りたお巡りさんは、男の子3人を掴まえてくれて、暁はその身を解放された。地面にパタリと倒れ込んだ。

「はぁっ・・・・いってぇ・・・・」
涙が出るくらい痛かった。


「あきらっ!!!!!!!」
そんな時、礼蘭と礼司が駆けつけてくれた。

「暁!大丈夫かっ!?」
礼司が身体を抱き起してくれる。
「あきらぁっ・・・あきらぁ・・・だいじょうぶぅ・・・っ?いっぱいケガしてるぅ・・・」
暁の傷を見て礼蘭が涙をポロポロと流した。

そんな顔を見て、暁はなんだかポカポカした気持ちになった。
「礼蘭・・・大丈夫だよ?・・・もう終わったもんっそれに俺のお母さんとお父さん看護師さんだもん!」
精一杯の笑顔を礼蘭に向けた。

「うっ・・・うぅぅっ・・・礼蘭もあきらのケガ手当するぅ・・・・・。」
そう言ってわんわんと泣いた礼蘭。胸がいっぱいだった。傷は痛いけど、礼蘭が僕を見てくれている。


そんな俺たちをよそに、礼司はお巡りさんと話をしてくれた。
子犬を虐めていた男の子3人は交番に連れていかれて、きっと両親にも怒られるし、
学校にも連絡されるかもしれない。悪い事をしたら当然罰を受けなければならない。
彼らは、そんな事も知らなかったのだろうか?暁はそう思いながら、礼蘭の頭を撫でたのだった。


その日、すぐに暁の両親に連絡してくれた礼司。暁の母、悠(ゆう)がカフェにやってきた。

「あきら!!大丈夫っ!?」
慌てて暁を見る。服をめくられたり、全身をチェックされた。
「おばさんっ・・・ごめんなさいっ・・・暁がケガしちゃったのっ・・・。」
そう言って礼蘭はまた泣き出した。自分のせいだと…。
「礼蘭ちゃん!泣かないでっ?礼蘭ちゃんにケガなくてよかったわっ。」
悠は話しながら、買ってきた包帯やガーゼを取り出し手際よく手当を始めようとした。

「悠さんごめんね?傷は洗ったりしたんだけど、看護師さんの君が来た方が適切だろうと思って。」
礼司が悠にそう言った。
「ありがとう!いつもごめんなさいっ私たちがなかなか家に居ないから・・・・」
「いいんだよそんな事は、僕たちも暁が可愛いんだから・・・」

そう言って笑いあった。

「おばさんっ!礼蘭にも手伝わせてっ?お願いっ・・・なにかっ・・・させてっ」
「礼蘭ちゃん・・・・」
悠は、ふふっと笑い、絆創膏を出して礼蘭に手渡した。

「じゃあ、ほっぺの傷、消毒して絆創膏つけてあげて?」

「…うんっ!!!!」
ようやく礼蘭の涙が止まったのだった。

「あきっ・・・消毒ポンポンするね?」
消毒液のついたガーゼを持って礼蘭が顔を近づけた。
「あっ・・・うん・・・・・」
少し恥ずかしくなって、頬を染めた。

無言で、礼蘭の手当を受けた。

「よしっ・・・・これで痛いの飛んでくよ?」
絆創膏を貼り終えた礼蘭はほっとしたように笑った。
「ありがとう、礼蘭。もう…痛くないよ。」

「はぁーい、じゃあ後はお母さんがするねっ?お腹出してっ」
2人のやり取りを見ていた大人三人がニヤニヤしていたのを、暁と礼蘭は知らない。

礼蘭家族は連れてきた子犬をお風呂場で風呂に入れていた。とても汚れていたから。
カフェの一画には暁と悠しか居なかった。

「・・・・・・」
暁はじっと・・・何かを見ていた。

「暁?どうしたの?」
悠が気づき、声をかけた。

カフェの壁に、宣伝用のスペースがある。そこには近くにある道場の張り紙だった。
「お母さん・・・・僕、あれやりたい。」
「えっ?」

悠が見たそのチラシは剣道入団希望を募るチラシだった。

「剣道・・・ねぇ・・・・暁、強くなりたくなった?」
「うん・・・・。剣道やったら強くならない?」

「そんな事ないわ?剣道やったら心も体もきっと強くなるわよ?」

「じゃあ、やれ。やりたい・・・・。」
「悔しかったのね・・・・。」

「うん・・・・・。」
暁の目には強い思いが宿っていた。

もしまた、礼蘭が危険になった時、情けなく傷を負わなくて済まないように・・・。
礼蘭が泣かないように・・・強くなって、守りたい。


「礼蘭は、僕が・・・絶対守る。礼蘭が泣かないように‥だから強くなるんだ・・・・。」
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