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強くなっただろ

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俺と同じ顔をして‥

涙を流すな‥


「っ‥‥」

フラッとして、扉に手をついた。



胸元をぎゅっと握り締める‥
「‥陛下‥‥一体な、にが‥」
冷や汗を垂らしながらフランクに問い掛けた。
「それが‥突然胸を抑えられ‥そのままお倒れに‥‥
そして、主治医が駆けつけたのですが‥なす術なく‥」


皇帝はまだ60代だったはずだ‥

でも、急性心不全や‥心筋梗塞が‥俺達の世界には存在した。この国ではまだ、医学が進んではいない‥
手術もないし、都合のいい治癒の力を持つ聖女なども存在しない‥この国はこの国ならではの、薬草治療などが主であった。

「急な事なら‥どうしようもない‥‥」
亡くなられた皇帝陛下の側へ歩み寄った。


大丈夫‥‥俺は‥‥‥強くなったじゃないか‥‥‥


「父上‥‥」


はらりとまた父上の瞳から涙が溢れる。

「看取ってやる事も出来なかった‥‥‥。」

「まだこんなに温かいのに‥‥‥。」

父上の姿に心がジリジリと痛んでいく‥‥

人が死んだんだ‥‥そう、俺のお祖父様が‥‥‥

だからだ‥‥落ち着け‥‥

俺がしっかりしなくては‥‥‥‥

「父上‥‥帝国民に‥‥」

「あぁ‥‥‥」

父上はぎゅっと目を瞑りその涙を落とした。



即日、皇帝陛下崩御の知らせが帝国民に告げられた。
城門前で胸を痛め涙を流す貴族‥
街中で、涙を流したり、悲しみに歪む民達。

数日後、皇帝陛下のアルテ神殿にて葬儀は執り行われた。
喪服に身を包んだ皇族が先に百合の花を手向けた。
その後たくさんの貴族達が、陛下の棺に花を手向ける。

神殿の外では入りきらない帝国民たちが涙を流していた。

アレクシスのステンドグラスの前に、皇帝陛下の姿絵が飾られている。

「・・・・・」

アレクシス・・・お祖父様を宜しく頼んだぞ・・・・
どうか安らかに・・・次の生へ送り出してくれ・・・・。

神殿の敷地内の墓地、代々の皇族たちが眠る一画が存在する。
横型の棹石が並んでいる。その下に深く掘られた土の中に陛下の棺が下げられた。


長い1日だった…。


俺の心臓は相変わらずドキドキしたままだった。

泣いてしまったら、また、戻ってしまう気がした。

皇帝陛下の死が悲しくないわけじゃない。

父上が泣いている姿で、俺も泣いているのだと、そう思った。


大切にしてくれたお祖父様。

でも泣いてはいけない。


影を・・・・重ねてはいけない。


指輪をずっと握りしめていた。壊れないように。




葬儀から数日後、父上の皇帝即位式が行われる。
俺が皇太子となる時が来た。

「テオドール、覚悟はいいか・・・・?」
代々伝わる皇帝の儀式服に身を包んだ父上が俺にそう問うた。
俺も、父上が着た皇太子の儀式服に身を包んでいた。
今日皇太子の冠を引き継ぐために。

「はい、皇帝陛下・・・」
「まだ父上を呼んでほしい・・・」
悲しげながら、その重圧を背負った父上が俺を見てそう言った。

「はい、父上・・・・」

もう俺は、この重責から逃れる事は出来ない。
父上が背負っていた皇太子という責務を今度が俺が、背負って生きていく。
いつか俺が皇帝となるための道筋がひとつできた。


城の玉座の間には貴族たちが集まっている。
父上と俺が玉座の間へ足を踏み入れる。
玉座の前に、大神官のサミュエルが待っていた。

父上は大神官サミュエルから、皇帝陛下の冠を被せられ、王笏と宝珠を受け取る。
そして、皆の前に堂々たる姿で顔を上げた。

「オリヴァー・アレキサンドライト皇帝陛下の即位を宣布いたします。」
サミュエルが宣布する。

そして皇帝陛下の前に跪いた俺に、父上から皇太子の冠を賜る。

「テオドール・アレキサンドライト、我が国の皇太子。その名に恥じぬよう私に忠誠を誓ってくれ。」

「はい、皇帝陛下。私テオドール・アレキサンドライトは皇帝陛下に忠誠を誓い、
いつ何時も、陛下の手足となり、帝国を安寧に導く事を宣布致します。」

ワァァァーーーーー


新たなアレキサンドライトの皇帝と、皇太子へ
歓声と拍手は鳴り止まぬ事なく響いていく。
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