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ロマンス劇場の開幕

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1ヶ月間、出来る範囲を勉強した俺。
優しいこの世界で、両親に褒められ胸が少し痛いが、
出来るものは仕方ない!ありがたく褒められよう。


そして


「アリアナ皇太子妃様がご逝去されました!」

街中に瞬く間に広がった。

「お身体を悪くしていらしたものね‥」
「お可哀想な皇太子妃様‥‥」

悲しむ声が後を絶たない。

その声は城にまで届いていた。
みんな悲しんでいる‥。

本当は、国外で恋人とよろしくやっている‥
なんか、俺まで申し訳なくなってきたな‥。


用意していたように、いや、用意されていた棺に
ロスウェルの力によって作られたアリアナの遺体。
サフォーク伯爵家が、既に亡くなられたアリアナを前に涙を流していたとのこと。

そして、アリアナの葬儀は滞りなく行われた。


帝国中が喪に服している。

うん‥‥本当に申し訳なくなってくる。
彼等は2度言うが、よろしくやっている。名前を変えて‥


「さて、この空気をどうしてやろうか…」
窓の外を眺めながら、父様は呟いた。

さすがに、この悲しみの中俺と母様が出てくるのは厳しいだろう。
皇太子の評判がガタ落ちしてしまうかもしれない。

「だが…。7年も我慢していたのだ…。一刻も早く、お前たちを迎えたいのだが…」
「オリヴァー様…」
母様は少し困ったような顔をしていた。

「父様、僕にいい考えがあります。」
「なに?」

俺は悪戯に笑った。


筋書はこうだ。

まず、俺が城に迷い込んだ子供のふりをする。そして、面識のない兵士に捕まる。
そして、不審者と騒いでいる時、偶然皇太子が出くわす。

皇太子は、見つけた俺の暁色の瞳と銀髪を見て、一人の女性を思い出す。
母様のところに帰すと言い、皇太子は俺を連れてあの花屋に訪れる。

そして、国民たちの目の前で偶然昔愛していた母様と再会する。
お互い戸惑いながら、皇太子が意味深に母様と俺を食事に誘う。

皇太子が、皆のいる前で、母様と俺を城へ連れていく。

それはきっと、瞬く間に帝国中に広がるだろう。

そして、密に神殿へ向かったと、それも噂として広める。
国民たちが思うだろう。何かあると!

そして、神殿で俺が皇太子の子供であると判明したと噂が流れる。

母様は、アリアナ皇太子と婚約が決まったことを知り、身籠ったことを隠し身を引いたのだと。
とうとう様々な噂が最高潮に広がった時。

帝国民の前で皇太子が、神殿に行ったと発表する。そして、俺が息子であると発表する。
アリアナ皇太子妃のため、皇太子のために身を引いた母様のことも。
後継者の居なかった皇太子は血のつながった子であるため、
アリアナ皇太子妃の喪中であるが、帝国のため、母様と結婚し、俺を第一王子として迎えると宣言する。


帝国民たちは、後継者の出現に歓喜する。後継者がいない事を案じていたからだ。
今から新たな皇太子妃を探すよりも、手っ取り早い話。
俺たちは正真正銘の親子である事は事実。

あとは、ささやかなお披露目式を開き、俺と母様が登場する。

聡明で美しいグランディール家の母様。皇太子にそっくりな俺の存在。
誰もが認めざる負えまい。あとはもうごり押しだ。

あとは父様と母様でうまく場を収めてくれれば問題なし!


「よし、それでいこう。これはまた一芝居だな。俺たちは役者にでもなるのか?」
くくくっと笑った父様。
「テオドール、本当に大丈夫?」
「大丈夫です。なんとかなるでしょう!僕は父様と母様の血を引いています。
うまくやります。信じて下さい!」

「よく言ったぞテオドール!」

俺と父様は顔を突き合わせて笑った。

「「そういうものにしてしまうのだ!」」

ニヤッと笑いあった俺たちは正真正銘の親子だった。




アリアナ(仮)の葬儀から2週間後。

俺はこっそり、城の中の広い中庭に入った。
この城では皇太子宮の一室でしか過ごした事がない。
久しぶりに出た外は解放感でいっぱいだった。

広く綺麗な中庭、中央には噴水まである。道の脇には水路もあって、太陽の光が反射されて輝いていた。

「ここまですごいとは…ちょっと思ってなかったな。迷子になりそうだ。
まぁ、迷子で捕まった方が都合がいいけどね?」

身なりは少々ボロを纏い、綺麗にされていた銀髪を手で搔きまわし無造作にした。
中庭に出た方向は覚えている。父様が近くで見ているはず。

中庭にも兵士が配置されている。とにかく誰かに見つけてもらえばいい…。


あっ、第一兵士発見!

その兵士を見ないフリをしながら目に留まるようにちょろちょろと歩き近付いた。

「おい子供!お前どこから入ってきたんだ!ここをどこだと思っているのだ!」

よぉし…。

心の中でガッツポーズ。

出来るだけ、怯えたように…

「あっ…ご、ごめんなさい…道に迷って、出口と思ったら、ここに入っちゃって…」
俺の前にドンと立つ兵士。
「まったく、どうやって入ったんだ。他の入り口の兵士は何をやっているんだ!まったく…
おい、子供!こっちへ来い!城から出してやるから!」

そう言い俺の腕を掴んだ。

「いっ痛いです…お兄さん怖いよぉ!!!」

手を振りほどき、父様がいるはずの方向へ走り出した。
「あっこら!待ちなさい!!これ以上入ってはならない!!ここは皇太子様の!!」
慌てて追いかけてくる兵士。


そうだ、こっちへ来い!


俺の走った先に、ニヤッとした父様の半身が見えた。

「んんっ…おい、騒がしいぞ。一体何をしている!」

父様登場。


完璧!

皇太子は執事と護衛騎士を連れ俺に近付いた。
「あっ…ごめんなさい!」
「お前…どこから来たのだ?」
「道に迷って、気づいたらここに…ごめんなさい。皇太子妃様の冥福を祈って花を…。」
「おぉ…そうか、優しいな。なんて賢い子だ。」

親ばかが、顔が出してる。

俺の手には花が一本握られている。小道具は必須だよね。服の下に隠しておいたんだ。

差し出した花を受け取る父様。

バッチリだ。

目と目で通じ合う親子。

「皇太子殿下、城下の子供が迷い込んだようです。すぐに追い出しますので…どうかお許しを…」
「追い出すなどと怖い事を言うな。…おや?お前、珍しい銀髪だな。とても綺麗だ…。まるで…。」

「あぁ!この髪、とても綺麗でしょ?母様とお揃いなんだ!」
「そうか…銀髪はとても珍しいが…」
「銀髪の人、見たことありますか?」

「あ…あぁ…一人だけ、知っている…。でも、いや…まさかな…。」

「皇太子様…?」
父様の複雑そうな顔に、兵士が怪訝そうにしている。

「皇太子妃のために花を持ってきてくれた優しいお前に、礼をしよう…。家まで送ってやる。
家まで案内してくれるか?」

「なっ…皇太子殿下!殿下が自ら送るなど…」
兵士は慌てて止めた。こんなボロボロな子供を皇太子自ら送り届ける等ありえない。

「なんだ。お前、私に反論するというのか?この心優しき聡明な子供を無事に返したいのだ。
また道に迷ったらどうするつもりだ。お前、責任とれるのか?どうなんだ?お前に私を止める権利があるのか?」


父様、どうかそんなに言わないで…。


「失礼いたしました。皇太子殿下、申し訳御座いません。」
「わかったら馬車を用意させろ。あぁ、私が直々に下りるのだからアレを。」

「はっ…はい…。」
兵士は深々と頭を下げ、『アレ』を準備させに行ったようだ。

兵士が下がり、俺は父様の耳元で小さく囁いた。
「あれってなあに?」
そうすると父様まで小さく囁く。
「最高級の馬車だ。目立つであろう?それに乗り心地が良いぞ?どうだ?乗りたいだろう?」
ニヤッと父様が笑う。
「はい!」

芝居は順調に進んでいた。用意された最高級の馬車で城下へ降りる。
俺と母様が住んでいた。あの幸せだった花屋。

一足先に花屋へ行っていた母様が待っている。

花屋の前に皇室の馬車が停まると、人々の注目を予想通り集めた。

久しぶりの花屋の仕事に母様は楽しそうに真剣に働いていた。演技というより本気だった。
その母様の姿に2人で唖然としたものの。芝居は続く。

「ここだよ!僕のお家!お花屋さんなんだ!」
真剣にこちらに気づいていない母様に届くように少し声を張った。

「あっ、おかえりテオ!見て!?このお花すごく綺麗でしょ?」
花束を持った母様がとびきりの笑顔をこちらへ向けた。

綺麗な花と綺麗な母様を見て、父様は頬を赤くして固まっていた。

父様固まってらぁ…。


言葉をなくした父様に俺は軽く肘打ちを食らわせた。

「あっ…あ///…そ…そなたは…」

「あ…オリ…いえ…皇太子殿下!なぜ…」
母様まで真っ赤になっている。

7年経っても何度も恋をするようだ。これはきっと大成功に違いない。

「そ、その…この子供が、城内に迷い込んだようで…送りに来た。」
「まぁ…大変申し訳ございません。皇太子殿下…。」


街中の人々が、ロマンス劇場に片足突っ込んできた。よし…。

「…そなた、もしや…マーガレット嬢ではないか?」
「殿下…私を覚えていらっしゃるのですか?」

「も、もちろんだ…。そなたのその…綺麗な髪を忘れるはずがない…。しかし、なぜこのような花屋を‥グランディール家は、君が消えて、どんなに悲しんでいた事か‥
しかも…この子はそなたを母と…」

「……殿下……私は……」

母様が頬を染めて悲しげに目を伏せた。目尻に涙まで。

「皇太子様、母様を知っているの?」
「…あ、あぁ…」
「大好きな僕の母様と皇太子様が知り合いなんて、嬉しいな!」
「…そなた…父親は…?」
「僕には産まれた時から、父様は居ません。でも、母様からたくさんお話を聞いてるんです。
暁色の綺麗な素敵な人だと。だから、僕を見て幸せなんだって!見て?僕の目暁色でしょ?」

父様にグッと近付いて目をぱっちり開いてあげた。


街中がざわざわしてきた。


そして見つめあう父様と母様…。



みんな釘付けだ。なんせ、美男と美女の2人が映画のワンシーンのように見つめあってるんだから、


「…マーガレット嬢、久しぶりに会えたのだ。…良ければこの子と一緒に城で食事を共にしてくれないか?」

「まぁ…殿下、光栄でございますが…よろしいのですか?」
「あぁ…ぜひ、そなたとこの子と話がしたい。一緒にきてくれるか?」
「はい。ありがとうございます。殿下…。」

母様の手を取る父様。
街中の人々が、二人のロマンス劇場に両足突っ込んだ。

皇太子に抱えられた俺。そして並んで歩く母様。


みんな!!よく見て!!

僕、似てるでしょ!?

皇太子の顔!母様の銀髪!





よく見て焼き付けて!そして帝国中にロマンスの花をバラ散らかして歩いてね?
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