上 下
7 / 240

一欠片でも、涙は溢れる

しおりを挟む
城に入った俺達はそれはそれは豪華な部屋へ通された。

メイド達が、母様を別室に連れて行った。

そして残された俺も、メイド達が風呂に入れてくれて、丁寧に磨き上げられた。

母と同じ銀髪の髪は、今までよりも一層輝いている。


そんなにブラッシングしなきゃダメなの?

犬になった気分なんだけど‥

小さなバスローブから、
真新しいシャツと複雑な刺繍入りのベスト。上着に合わせた子供らしいハーフパンツ。蝶ネクタイ。



あぁ、入学式か‥?

それにしちゃ目立つけどな‥


蝶ネクタイが窮屈で、くいっと緩めた。


「テオドール!!」

別室から母様が現れた。


「母様‥」

慌てて飛び出してきた母様は、鮮やかな海の様なアクアブルーに波のように白いグラデーションが入った
ドレスと、豪華な首飾りに、綺麗な銀髪をヘアアレンジされ、元々綺麗な顔に化粧を施され現れた。

とても、美しかった。

そんな着飾れられた母様は、ドレスなどお構いなしに
俺をぎゅっと抱きしめた。

「母様‥‥」
「あぁ‥離れてしまって、不安で仕方なかったわ
このまま離れ離れになってしまったらと‥」

「母様、僕を見て?僕も綺麗な格好にしてもらっちゃった。でも母様、とても綺麗だよ。お姫様みたいだ。」

「テオドール‥」

不安げな目を隠せない母様、だから俺は何も知らないように、綺麗にされた事を素直に受け入れたふりをした。


母様を守らないと‥怯んでなんか居られないんだ。


「マーガレット様、テオドール様、どうぞこちらへ‥」

部屋のドアに立っていた、鎧姿で立っていた騎士。


硬ってぇんだろうな‥‥頭にはなんにも被ってないから、面一本なら、時間稼ぎ出来るかな‥

騎士に連れられ、長い赤いカーペットのひたすら歩いた。


進んだ先に、一際大きく煌びやかな扉。



そんな高いドアいるの?



ドアの隅には、これまた美形の従者がいた。

にこりと笑ったそのイケメン。



外人だから、イケメンなの?
基準高いの?

「皇帝陛下、マーガレット様、御子息のテオドール様がいらっしゃいました。」


扉の向こうで「通してくれ」と低く渋い声が聞こえた。


豪華な扉が開かれて、俺は驚いた。


皇帝陛下は、最奥に玉座に座っていた。



えっ、声聞こえたの?

扉開く前だったよな?



心の声は、アレクシスしか読めない。

どんな事を思っていたって自由だろ。

純粋な疑問だよ。



母様は部屋に一歩入ると、ドレスの裾を持ちカーテシーをした。


「近うよれ」


母様の手は少し震えていた。

俺は母様の手にそっと触れた。

「母様‥」

そして、母様の手を握りしめた。

そんな俺に後押しされたのか、母様は深呼吸し、
俺を連れ皇帝陛下のそばへ歩みを進めた。


再度、玉座の前でカーテシーをする母様。

そんな母様を見て、俺も片手を胸に当て、腰を折った。


皇帝陛下は、黒髪に暁色の瞳。厳しそうな面持ちではあったが、なんだか、俺達を見る目が生暖かい。


「突然呼び出され、さぞ驚いたであろう。」

「お目にかかれて光栄に存じます。陛下‥」

「マーガレット嬢、苦労はなかったか?
1人で子供を育てるのは大変であっただろう‥」

「この子は私の宝で御座います。苦労などとんでございません。何より‥」

「あぁ‥わかっておる。オリヴァーが、そなたを待っていた。」

「約束の時はきた。テオドールはこの事は知らぬのだろう?」

「‥‥‥はい‥‥‥」


なに?

約束?


え、なに?

俺は母様と皇帝陛下をオロオロと見た。

「はははっ‥髪以外はオリヴァーにそっくりであるな。
私の孫よ。よく来てくれた。」

優しく笑う‥皇帝陛下。



えっと、ちょっと待って、違う。
想像と違う。

なんで歓迎されてんだ?婚外子だろ?


「すまなかった。そなたとオリヴァーは想いあっていたのに、オリヴァーの地位が不安定であった為だが、
つらい想いをさせてしまったな‥」

「とんでもございません。私の想いは今も変わりません。オリヴァー様の為ならば、この身を削ってでも構わぬ覚悟で御座いました。オリヴァー様のお役に立てたのならば、私は幸せで御座います。

それに私はオリヴァー様から、宝物を頂きました。」

母様は先程震えを忘れさせる程、堂々と話していた。

「オリヴァーが待っておる。会いに行くが良い‥」
「はい、ありがとう御座います。」
「下がるが良い。またゆっくりと話そう‥」


最後にまた綺麗なカーテシーをして、俺を連れて
部屋を出た。


そして、次に通された部屋。


そこには


「マーガレット‥」

執務室の窓際、差し込む光に照らされた。
皇帝陛下と同じ黒髪に、俺と同じ暁色の瞳。

あ、髪の色は違うけど‥‥俺と似てる‥‥


「オリヴァー‥様‥‥」

目に涙をいっぱいに溜めて、感極まった母様は
皇太子である俺の父親に駆け寄り抱きついた。

そんな母様を抱き止める父。

「あぁ‥マーガレット‥‥会いたかった‥」


息子置き去りのロマンス劇場が目の前で繰り広げられる。


ちょっと待って、全然分かんない。

皇帝陛下もそうだし、皇太子‥いや、父様?

勝手にクズ認定してたけど、父親を初めて見た。



なんなんだ?何が起きてる?

皇太子は結婚してんだろ?母様と抱き合ってる場合じゃなくね?


なにこれ、俺何を見せられてるの?


抱き合った皇太子は、ふと顔上げて、目の前にいる俺に目を移した。

そして、優しい目をして、笑み浮かべた。


「テオドール‥‥おいで‥‥」

母様を抱きしめていた片手を俺に向けて差し出した。


ちょっと待ってよ、ロマンス劇場に引き込むなよ‥


「テオドール、お父様よ?こちらへいっらっしゃい」

涙を流しながら、笑みを浮かべた母様に呼ばれて、
俺は少しずつ2人に近付いた。

父親から差し伸べられる手。

それは母様よりもずっと大きくて、なんて言うか、
すべてから守られそうな強さを感じた。

そして、触れ合った手を握り、父は俺の目線に合わせる様に膝を突き、俺を見つめた。

「あぁ‥‥綺麗な髪だな。マーガレットと同じだ。
瞳は私と同じで‥‥私の幼い頃の顔にそっくりじゃないか‥。どんなに会いたかったか‥‥
産まれてからずっと会わなかった私を恨むであろう‥。
だが、私はいつも2人のことを思っていたよ。
2人が幸せに暮らせる様に、この城から見守る事しか出来なかった父を許してくれ‥お前達を守るにはこうするしかなかったのだ‥。テオドール、とても会いたかった‥」

うっすらと涙目の父は、俺の両手を包み込んだ。

混乱はしている。けれど、父の言葉は嘘には聞こえない。

「‥‥恨んでないよ‥母様と一緒に居たから、
全然寂しくなかったし‥幸せだった。」

それは本心。母様が俺を大事にしてくれたから、
俺は幸せだった。会ったこともない父を恨むより、
俺は母の愛情で胸がいっぱいだったのだから‥‥


「そうか‥そうか‥‥‥これからは、私も一緒にお前と母を近くで守ろう。もう離れる事はない。」

グッと目に力を込めて、涙を流すまいとする父。


ただ、俺は分からない事だらけなんだ。

なぜ、この人達は離れ離れに暮らすことになっていたのか。そして、今なぜ一緒に暮らす事になるのか。


俺から手を離した父は再び母様の肩を抱き寄せ、
頬を寄せ合って幸せそうに笑っていた。



あぁ‥なんか分かんないけど、幸せそうだな‥

この光景は眩しかった。


あんな綺麗な光が差し込む窓際で、まるで祝福されたように並ぶ2人。



それを見ていた俺の目から、何故か涙が一筋溢れた。



俺も、こんな風に誰かと頬寄せて笑った事がある‥

あれはまだ幼い頃、俺の隣にいた‥



そう、あれは‥‥


試合に負けて慰めてくれて、泣き止んだ俺に
頬を寄せて


《‥‥‥強くなって私を守ってくれるのね?



じゃあ、私はずっと、暁が強くなる様に、




神様に毎日お祈りするね。



だからずっと、私と一緒にいてね!‥‥‥》



《うん!!約束だ!!!絶対、守ってあげるよ!》







あぁ‥‥‥‥記憶が‥‥‥



俺の目から涙が、思いが溢れ出してくる。



これは、幼い頃の約束。

あんな風に、頬を寄せ合った。


あの約束をする前に、思ってたんだ。


俺は、お前を守りたくて‥‥

必死に‥‥



あの頃から、俺達は‥‥‥‥
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。

112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。 目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。  死にたくない。あんな最期になりたくない。  そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

【完結】わたしはお飾りの妻らしい。  〜16歳で継母になりました〜

たろ
恋愛
結婚して半年。 わたしはこの家には必要がない。 政略結婚。 愛は何処にもない。 要らないわたしを家から追い出したくて無理矢理結婚させたお義母様。 お義母様のご機嫌を悪くさせたくなくて、わたしを嫁に出したお父様。 とりあえず「嫁」という立場が欲しかった旦那様。 そうしてわたしは旦那様の「嫁」になった。 旦那様には愛する人がいる。 わたしはお飾りの妻。 せっかくのんびり暮らすのだから、好きなことだけさせてもらいますね。

【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。

たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。 わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。 ううん、もう見るのも嫌だった。 結婚して1年を過ぎた。 政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。 なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。 見ようとしない。 わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。 義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。 わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。 そして彼は側室を迎えた。 拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。 ただそれがオリエに伝わることは…… とても設定はゆるいお話です。 短編から長編へ変更しました。 すみません

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...