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愛を語り、濃厚に情を交わし合う、恋人たちの憩いの場。
その名は、「ラブホテル」。こそばゆい言い方をするならば、「ブティックホテル」「カップルホテル」等だろうか。
束の間の逢瀬を終え、その愛の巣から出てくる男女の顔つきは、多種多様である。
ニコニコしていたり、イライラ顔だったり、ガッカリしていたり。
それはまあカップルたちの境遇も多岐にわたるから、当然だろう。周りから祝福されている者たちもいれば、世を忍ぶ立場の人たちだっているだろうし。
――が。
つい先ほど出てきた、とある二人の様子は、殊更風変わりだった。
ホテルの、高い壁で囲われた入り口から現れた途端、わざとらしく空を見上げてみたり、逆に顎を下げて頭を垂れてみたり。二人の視線は一点に留まることなく、あちこち彷徨った。そして決して、彼らは目を合わせることはなかったのだ。
力のない足取りで共に数歩進み、大通りにぶち当たると、二人は蚊の鳴くような小さな声で別れを告げ合った。
「じゃあ……」
「うん……」
ちょっと前まで睦み合っていた男と女とは到底思えない、別れの挨拶である。
――こうして、稲森 壱子(いなもり いちこ)と綾瀬 岳登(あやせ がくと)は、互い互いの帰路へついた。
ようやく冬物のコートが必要なくなった、晩春の夜のことである。
――きっかけは、このときより四時間ほど遡る。
稲森 壱子と綾瀬 岳登は、大手飲料メーカーに勤務する若手社員だった。
年齢は共に二十八歳。入社年が同じ、いわゆる同期である。
この夜は、だいたい半年に一度開催される「同期会」に、二人は出席していた。
同期会の参加者は十人ほど。集まった先は社員行きつけの居酒屋の、お座敷である。
壱子は、隣に座った柏原(かしわばら) ゆいなと、談笑していた。
壱子とゆいなは、同じ部署所属である。
活発な壱子と物静かなゆいなは一見タイプが違うようでいて、ウマが合っていた。
「どうよ、新婚生活は~?」
壱子はゆいなにしなだれかかり、冷やかした。
ゆいなは先月入籍したばかりの新婚さんなのだ。
「うーん、まあ、楽しいよ」
「カーッ! キタよ、のろけ! もっとくれ! もっとだ!」
「のろけっていっても、ただの日常語りになっちゃうからなあ」
「うわっ! エブリディエブリタイム幸せって言いたいんか!」
表情も変えず淡々と近況を語るゆいなを、壱子を始めとした女子たちがわいわい楽しげに煽る。
「旦那さん、五歳上だっけ? それくらい年上のほうがいいよね、頼り甲斐があって! やっぱり男は、包容力のある人が一番だよね!」
壱子はうっとりと目を細めた。しかしそんな彼女に、厭味ったらしい嘲笑を浴びせる男がいる。
「相変わらず、男にばっかり求めることが多いよなあ~~~?」
誰がいちゃもんをつけてきたのか、壱子には即座に分かった。
これはいつものことなのだ。
「……ああ? なに?」
壱子は敵、すなわち対面に座る男を睨みつけた。
男は壱子のトゲトゲしい視線を軽々受け止め、細めの眉を片方だけ上げた。
「自分は女らしい振る舞いのひとつもできねえくせに、男に対する要求だけは一丁前だなあと思いましてえ~」
意地悪く言い放ち、挑発するように笑っているのは、綾瀬 岳登だ。この男は入社したばかりの研修時代の頃から、なにかと壱子を敵視し、絡んでくる。
もっとも、壱子のほうだって同じようなものだが。岳登の言うことなすことがいちいち気に食わなくて、岳登が特になにもせずとも、ケンカを売りに行くことも多々あった。
――しかし、なぜ二人はこうも仲が悪いのか。その理由は岳登や壱子、彼ら当事者にも分からなかった。
強いていうなら、似た気質をしているからだろうか。
仕事に情熱があって、やる気に満ちあふれている。有能で評価は高いが、曲がったことが嫌いで、少々短気。
「近親憎悪とかいうやつ?」。それが周囲によるあやふやな見解だった。
「ガク! 誰もあんたと話してないんだから、勝手に割り込んでこないでくれる!?」
勢い良く畳の間に立ち上がった壱子のスカートの裾を、ゆいながくいくいと引っ張る。
「壱子、ダメだよ、大声は。ほかのお客さんに迷惑だから」
「う……」
立ったまま、だが声量を抑え気味に、壱子は岳登に怒鳴った。
「呼んでもいないのに、女子トークに口を挟んでくるってなんなの!? きっしょい!」
応じるように、岳登も座布団の上に起立する。
「気持ち悪いって言えば、男がみんな怯むと思うなよ! もう慣れっこだわ!」
「うわあ……。普段どんだけキモイって言われてんの。引くわー」
「おまえにしか言われてねえ! だいたい、口を出されたくないような内容の話なら、こんなオープンな場でするんじゃねーよ!」
まさしく、「犬猿の仲」。
二人の、言葉での殴り合いは続く。
「は? 理想を述べたらいけないわけ!? 言論封殺だ! ていうか、ただ私の異性の好みの話をしているのに、なんでクチバシを突っ込むの! おかしいでしょ!」
「一度表に出した意見は、常に他者から検証・評価される蓋然性があり、また発言者はそれを受け入れる義務がある! 耳に痛い反論だからって無視や黙殺するなど、一社会人としておかしいと知れ!」
白熱する議論をよそに、他の同期たちは酒や料理に手を伸ばす。
この居酒屋は気の利いたツマミをお手頃価格で提供してくれると、評判の店なのだ。
「三課の課長、遂にかぶったな。見たか?」
「いきなり髪の毛フサフサで来られると、どうリアクションしていいか、ほんと困るよねえ」
「何事もなかったように対応するか、ツッコむべきか。事前に言っておいて欲しいよー」
小難しい方向へ流れていった壱子と岳登の論じ合いも、きっかけは所詮「どういう男がタイプで~」という、そういったふわふわした取るに足らない内容である。つき合うのもバカバカしくて、同期たちは壱子たちには構わず旧交を温め合った。
やがて「ブス」だとか「ウンコ」だとか、「ヤリマン」だとか「素人童貞」だとか、二人のディスカッションの品位がすっかり地に落ちたところで、これもまたいつもの如く柏原 ゆいなの説教タイムが始まった。
「壱子! 綾瀬くん! いい加減、座って! 静かにしなさい! あなたたちは、いっつもそうなんだから!」
「!」
ゆいなが低くピリッとした声で叱りつけた途端、壱子たちはしおしおのろのろと腰を下ろし、正座した。
「だって、ガクがあ~……」
「二人とも営業成績もいいし、お客さんからよくお褒めをいただくのに。口汚く、ていうかアホ丸出しで罵倒し合って、なんでそうおとなげないの!」
「だって、イチがあ~……」
「この間の会議んときだって、最後はお互いのおかんのディスり合いとか、ゴミカスレベルな言い合いになってたじゃん! まったくもって、不毛! バカバカしい!」
「……………………」
壱子も岳登もなんとか弁明しようと口を開くが、その度ゆいなにぴしゃりとやり込められる。
確かに壱子と岳登は優秀な社員であったが、人事評価の面でゆいなは、彼らの更に上をいくのだ。
同期の星。そのようなポジションに君臨する同僚に叱咤され、壱子と岳登はしょんぼりとなった。
――まあこれも、いつもの光景なのだが。
「仲良くしろとは無理っぽいから言わないけど、もうちょっと建設的な話ができるように歩み寄りなさいよ! 業務に支障をきたしてるんだから、あなたたちの対立と不仲は、公私混同ともいえるよ!」
ゆいなの言うとおりなのだが、素直に認めるのも悔しく……。
壱子も岳登も子供のように拗ねた顔をして、そっぽを向いた。
そんな二人を見て、ゆいなは呆れたようにため息をつく。
「まったくもー」
「柏原ぁ。ほらほら、もうガクもイチも反省して――してないだろうけど、まあもういいじゃん。せっかくの同期会なんだし、飲もう飲もう!」
ほかの同期たちの取りなしもあって、壱子と岳登、そしてゆいなは、再び賑やかな語らいの場に戻った。
が、やがてまた壱子と岳登はいがみ合い、そのリベンジマッチは激しさを増して――。
その夜はこのようなはず、だったのだ。
――なのになんで、あんなことになったの……!?
壱子は茫然自失の状態でなんとか自宅に帰ると、シャワーを浴び、ベッドに倒れ込んだ。
そう、今夜はいつもどおりの、ファイティングスピリッツ漲る飲み会だったはずなのだ。
岳登と何度目かのケンカを経て、遂に「表に出ろ!」「決着をつけてやる!」とかなんとか。
「積年の恨みだ!」とか「地獄に送り返してやる!」などと声高に、そうやって二人で同期会を飛び出した。
そして、それから――。
外に出てからは、シモ関係の罵り合いになった覚えがある。
男性としての魅力と、女性としての魅力の有無。岳登も壱子も、オスとしてメスとして、相手より優れていると主張した。
あんたよりも、おまえよりも、私は、俺は、モテる、色気がある――と。
売り言葉に買い言葉で、「脱いだらすごいし」、「一度でも寝たら、離れられなくなりますわ」――なんて。
そのあとは、通りかかったラブホテルに勢いでなだれ込み、ゲラゲラ笑いながらペッティングのまねごとをして――いるうちにスイッチが入り、互いに昂ぶってしまって。
がっつりとハメて、ハメられた――。
「うあああっ! あああああああーーーーっ!」
時計の針は巡り、午前零時。土曜日になって早々、壱子の絶叫が響く。
寝ていたはずの両親が飛び起きてきて、「静かにしなさい!」と不肖の娘を叱っていった。
「なんという……。なんということを、私は、私は……!」
こうして、待ちに待った週休二日間を、壱子は針のむしろに座っているような心地で過ごした。
――どうして、なんで、バカなのか、バカでしょう。
いっそ、消えてしまいたい。
壱子が後悔と絶望の念に包まれる中、月曜日がやってきた――。
その名は、「ラブホテル」。こそばゆい言い方をするならば、「ブティックホテル」「カップルホテル」等だろうか。
束の間の逢瀬を終え、その愛の巣から出てくる男女の顔つきは、多種多様である。
ニコニコしていたり、イライラ顔だったり、ガッカリしていたり。
それはまあカップルたちの境遇も多岐にわたるから、当然だろう。周りから祝福されている者たちもいれば、世を忍ぶ立場の人たちだっているだろうし。
――が。
つい先ほど出てきた、とある二人の様子は、殊更風変わりだった。
ホテルの、高い壁で囲われた入り口から現れた途端、わざとらしく空を見上げてみたり、逆に顎を下げて頭を垂れてみたり。二人の視線は一点に留まることなく、あちこち彷徨った。そして決して、彼らは目を合わせることはなかったのだ。
力のない足取りで共に数歩進み、大通りにぶち当たると、二人は蚊の鳴くような小さな声で別れを告げ合った。
「じゃあ……」
「うん……」
ちょっと前まで睦み合っていた男と女とは到底思えない、別れの挨拶である。
――こうして、稲森 壱子(いなもり いちこ)と綾瀬 岳登(あやせ がくと)は、互い互いの帰路へついた。
ようやく冬物のコートが必要なくなった、晩春の夜のことである。
――きっかけは、このときより四時間ほど遡る。
稲森 壱子と綾瀬 岳登は、大手飲料メーカーに勤務する若手社員だった。
年齢は共に二十八歳。入社年が同じ、いわゆる同期である。
この夜は、だいたい半年に一度開催される「同期会」に、二人は出席していた。
同期会の参加者は十人ほど。集まった先は社員行きつけの居酒屋の、お座敷である。
壱子は、隣に座った柏原(かしわばら) ゆいなと、談笑していた。
壱子とゆいなは、同じ部署所属である。
活発な壱子と物静かなゆいなは一見タイプが違うようでいて、ウマが合っていた。
「どうよ、新婚生活は~?」
壱子はゆいなにしなだれかかり、冷やかした。
ゆいなは先月入籍したばかりの新婚さんなのだ。
「うーん、まあ、楽しいよ」
「カーッ! キタよ、のろけ! もっとくれ! もっとだ!」
「のろけっていっても、ただの日常語りになっちゃうからなあ」
「うわっ! エブリディエブリタイム幸せって言いたいんか!」
表情も変えず淡々と近況を語るゆいなを、壱子を始めとした女子たちがわいわい楽しげに煽る。
「旦那さん、五歳上だっけ? それくらい年上のほうがいいよね、頼り甲斐があって! やっぱり男は、包容力のある人が一番だよね!」
壱子はうっとりと目を細めた。しかしそんな彼女に、厭味ったらしい嘲笑を浴びせる男がいる。
「相変わらず、男にばっかり求めることが多いよなあ~~~?」
誰がいちゃもんをつけてきたのか、壱子には即座に分かった。
これはいつものことなのだ。
「……ああ? なに?」
壱子は敵、すなわち対面に座る男を睨みつけた。
男は壱子のトゲトゲしい視線を軽々受け止め、細めの眉を片方だけ上げた。
「自分は女らしい振る舞いのひとつもできねえくせに、男に対する要求だけは一丁前だなあと思いましてえ~」
意地悪く言い放ち、挑発するように笑っているのは、綾瀬 岳登だ。この男は入社したばかりの研修時代の頃から、なにかと壱子を敵視し、絡んでくる。
もっとも、壱子のほうだって同じようなものだが。岳登の言うことなすことがいちいち気に食わなくて、岳登が特になにもせずとも、ケンカを売りに行くことも多々あった。
――しかし、なぜ二人はこうも仲が悪いのか。その理由は岳登や壱子、彼ら当事者にも分からなかった。
強いていうなら、似た気質をしているからだろうか。
仕事に情熱があって、やる気に満ちあふれている。有能で評価は高いが、曲がったことが嫌いで、少々短気。
「近親憎悪とかいうやつ?」。それが周囲によるあやふやな見解だった。
「ガク! 誰もあんたと話してないんだから、勝手に割り込んでこないでくれる!?」
勢い良く畳の間に立ち上がった壱子のスカートの裾を、ゆいながくいくいと引っ張る。
「壱子、ダメだよ、大声は。ほかのお客さんに迷惑だから」
「う……」
立ったまま、だが声量を抑え気味に、壱子は岳登に怒鳴った。
「呼んでもいないのに、女子トークに口を挟んでくるってなんなの!? きっしょい!」
応じるように、岳登も座布団の上に起立する。
「気持ち悪いって言えば、男がみんな怯むと思うなよ! もう慣れっこだわ!」
「うわあ……。普段どんだけキモイって言われてんの。引くわー」
「おまえにしか言われてねえ! だいたい、口を出されたくないような内容の話なら、こんなオープンな場でするんじゃねーよ!」
まさしく、「犬猿の仲」。
二人の、言葉での殴り合いは続く。
「は? 理想を述べたらいけないわけ!? 言論封殺だ! ていうか、ただ私の異性の好みの話をしているのに、なんでクチバシを突っ込むの! おかしいでしょ!」
「一度表に出した意見は、常に他者から検証・評価される蓋然性があり、また発言者はそれを受け入れる義務がある! 耳に痛い反論だからって無視や黙殺するなど、一社会人としておかしいと知れ!」
白熱する議論をよそに、他の同期たちは酒や料理に手を伸ばす。
この居酒屋は気の利いたツマミをお手頃価格で提供してくれると、評判の店なのだ。
「三課の課長、遂にかぶったな。見たか?」
「いきなり髪の毛フサフサで来られると、どうリアクションしていいか、ほんと困るよねえ」
「何事もなかったように対応するか、ツッコむべきか。事前に言っておいて欲しいよー」
小難しい方向へ流れていった壱子と岳登の論じ合いも、きっかけは所詮「どういう男がタイプで~」という、そういったふわふわした取るに足らない内容である。つき合うのもバカバカしくて、同期たちは壱子たちには構わず旧交を温め合った。
やがて「ブス」だとか「ウンコ」だとか、「ヤリマン」だとか「素人童貞」だとか、二人のディスカッションの品位がすっかり地に落ちたところで、これもまたいつもの如く柏原 ゆいなの説教タイムが始まった。
「壱子! 綾瀬くん! いい加減、座って! 静かにしなさい! あなたたちは、いっつもそうなんだから!」
「!」
ゆいなが低くピリッとした声で叱りつけた途端、壱子たちはしおしおのろのろと腰を下ろし、正座した。
「だって、ガクがあ~……」
「二人とも営業成績もいいし、お客さんからよくお褒めをいただくのに。口汚く、ていうかアホ丸出しで罵倒し合って、なんでそうおとなげないの!」
「だって、イチがあ~……」
「この間の会議んときだって、最後はお互いのおかんのディスり合いとか、ゴミカスレベルな言い合いになってたじゃん! まったくもって、不毛! バカバカしい!」
「……………………」
壱子も岳登もなんとか弁明しようと口を開くが、その度ゆいなにぴしゃりとやり込められる。
確かに壱子と岳登は優秀な社員であったが、人事評価の面でゆいなは、彼らの更に上をいくのだ。
同期の星。そのようなポジションに君臨する同僚に叱咤され、壱子と岳登はしょんぼりとなった。
――まあこれも、いつもの光景なのだが。
「仲良くしろとは無理っぽいから言わないけど、もうちょっと建設的な話ができるように歩み寄りなさいよ! 業務に支障をきたしてるんだから、あなたたちの対立と不仲は、公私混同ともいえるよ!」
ゆいなの言うとおりなのだが、素直に認めるのも悔しく……。
壱子も岳登も子供のように拗ねた顔をして、そっぽを向いた。
そんな二人を見て、ゆいなは呆れたようにため息をつく。
「まったくもー」
「柏原ぁ。ほらほら、もうガクもイチも反省して――してないだろうけど、まあもういいじゃん。せっかくの同期会なんだし、飲もう飲もう!」
ほかの同期たちの取りなしもあって、壱子と岳登、そしてゆいなは、再び賑やかな語らいの場に戻った。
が、やがてまた壱子と岳登はいがみ合い、そのリベンジマッチは激しさを増して――。
その夜はこのようなはず、だったのだ。
――なのになんで、あんなことになったの……!?
壱子は茫然自失の状態でなんとか自宅に帰ると、シャワーを浴び、ベッドに倒れ込んだ。
そう、今夜はいつもどおりの、ファイティングスピリッツ漲る飲み会だったはずなのだ。
岳登と何度目かのケンカを経て、遂に「表に出ろ!」「決着をつけてやる!」とかなんとか。
「積年の恨みだ!」とか「地獄に送り返してやる!」などと声高に、そうやって二人で同期会を飛び出した。
そして、それから――。
外に出てからは、シモ関係の罵り合いになった覚えがある。
男性としての魅力と、女性としての魅力の有無。岳登も壱子も、オスとしてメスとして、相手より優れていると主張した。
あんたよりも、おまえよりも、私は、俺は、モテる、色気がある――と。
売り言葉に買い言葉で、「脱いだらすごいし」、「一度でも寝たら、離れられなくなりますわ」――なんて。
そのあとは、通りかかったラブホテルに勢いでなだれ込み、ゲラゲラ笑いながらペッティングのまねごとをして――いるうちにスイッチが入り、互いに昂ぶってしまって。
がっつりとハメて、ハメられた――。
「うあああっ! あああああああーーーーっ!」
時計の針は巡り、午前零時。土曜日になって早々、壱子の絶叫が響く。
寝ていたはずの両親が飛び起きてきて、「静かにしなさい!」と不肖の娘を叱っていった。
「なんという……。なんということを、私は、私は……!」
こうして、待ちに待った週休二日間を、壱子は針のむしろに座っているような心地で過ごした。
――どうして、なんで、バカなのか、バカでしょう。
いっそ、消えてしまいたい。
壱子が後悔と絶望の念に包まれる中、月曜日がやってきた――。
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