勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【221話】 罪と欲の森

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リリアは茂みに狙いをつけた。
呼吸が震える。

馬車を廻り欲望がぶつかる息遣いが一瞬遠くに流れた。
“茂みの向こうがにいるのが魔物か獣か人か…関係ない… まともな国民ではない獣がいるだけ…”

リリアが矢を放つと茂みが揺れて男が一人白目を剥いて倒れ出てきた。
と、同時に剣を手にした男が二名飛び出して来た。
「ダーゴ!」リリアは思わず大声をだす。
“ドッ!”
大きな音を立てて男が一人倒れた、ミスニスの矢が刺さっている。
「うわ!っぃ!」
リリアは素早くダガーを握ったがもう一人の男と格闘になった。
「が!!」
男は奇妙な叫び声をあげるとリリアを掻きむしったまま絶命した。
背後からバンディが男の首を切りつけていた。
男は絶命してなお首から湧くように血を流している。
「リリア、大声は出すなと言われているだろ、おまえはここを離れて追跡の準備をしろ」バンディが言う。
リリアは目を丸くして返り血を浴びながらコクコク頷く。

リリアはダーゴと一緒に少し離れてビケット達の馬車を見れる位置まで移動した。
少し高くなった場所から馬車を見るとまだ戦闘しているのが見える。
「あれはドッグスのメンバー?」
恐らくリリア達の後をついて来たのだろう。冒険者が戦闘に加わっている。
「リリア…」ダーゴがリリアの肩を突く。
ダーゴが指さすのでその方向を見ると森の木々を走る盗賊が数名見えた。
リリアが改めて身を潜めながら周囲を見ると別の場所からも森の中から道を伺う気配がする。
“ビケットの言っていたとおりね”リリアは思う。

ビケットの予想だと多数の盗賊団が力関係によってテリトリーを見張っているようだが、協力するような関係ではないとの事。弱い盗賊団も騒ぎが大きくなればおこぼれにあずかろうと出没するだろうし、今まで勢力を張っていたグループが弱体すれば混乱に乗じて自分達が勢力を伸ばそうと動くはずだと言う。
騒ぎを嗅ぎ付けお互い他グループの共倒れを願いながら戦況を見守っているといったところだろうか。
ドッグスや他のギルドが戦闘に加わってきた。
賞金首や手柄を狙って、あるいは賊のアジトに踏み込んでお宝を取り返すのか…
とにかく馬車周辺以外でも争いが起きている。
「リリア、兵士だよ」ダーゴが指を差す。
リリアが見ると巡回の騎兵団がやってくるのが見えた。
ブリザが通報したのだろう、これも作戦通り。
兵士達も騒乱の中に加わり武器を振るいだした。混乱が広がる。

さすがビケットが選んで演習を重ねたメンバーだ。戦闘班により馬車は防衛を多数の賊相手によく時間稼ぎをしている。防御専念に特化した時間稼ぎしやすい戦術だとしてもこれだけ耐え抜けるメンバーはざらにはいない。
時間稼ぎをして賊が消耗激しくなり混乱が広がれば広がる程、トラップは気がつかれにくくなり、リリア達、ステルス班の仕事もやりやすくなる。
騎兵隊と共にブリザも戻ってきて馬車ごと放棄した。
ブリザの馬車でも賊が荷物を目当てに襲い掛かり、騎兵隊や巡回兵達と戦いだした。
また、小さな盗賊通しでは荷物を廻って小競り合いが起きている。
「すごい、今のところ計画通り」リリアは呟く。
リリアの周辺でもあっちこっちから殺気がうかがえるが恐らくほとんどは馬車周辺の成り行きを観察しているだろう。
「ダーゴ、もう少し馬車の近くで待機しよう」
リリアはダーゴに声をかけると素早く移動しだした。


リリアとダーゴは移動して馬車が良く見える位置に身を潜めた。
途中何人か無防備に馬車を観察する賊が見えた。皆道からは見えない場所を選んでいるが、背後を回るリリア達からは丸見え。作戦通りリリアは手出しせず自分達の背後の目を確かめながら追跡に備えて場所を移動する。
やはり周囲には別なグループの盗賊団が混じっているようだ。特に特色のある装備や印をつけているわけではないが、何となく別なグループだというのは雰囲気でわかる。
そもそも周囲の人数全部が一つの盗賊団とは到底考え難いし、仮にそうだとしたらこんな風に眺めてはいないだろう。

“他のステルスメンバーはどうしただろうか?”
デューイ達が気になるが確認の方法が無い。無事に作戦行動している事を願うばかり。他の冒険者達が奮闘しながら馬車に接近するのが見える。
“あんまりこちらが優勢になってしまうと不味いのではないか?”リリアはちらっと思う。
ビケットがそれを察知したのか馬車のメンバーが撤退を始めた。
混戦の防戦を続け賊のメンバーを減らした大奮闘もここまで、防衛線の一画が崩れ敗走しはじめた。
作戦通り、予定通りとはいえ、一糸乱れず進行していた動きが崩れる瞬間だ。
リリアも緊張しながら見守る。
ビケット達は防衛線を解き、素早く木々の中に逃げ去っていく。見事な連携。

リリアが見ていると盗賊達が馬車の荷台に殺到しだした。
それを見て周囲で指を咥えて見ている連中も釣られるように輪を縮めていく。

「……」
リリアは注意深く周囲を観察して自分達に注意がきていな事を確かめると弓を手にした。
「リリア、まずいよ」ダーゴが囁く。
「リリア、やめろよ」ダカットも囁く。
リリアは素早く立ち上がると矢を何射して再び身を潜めた。

「何だ!」「やられた」「敵だ!」「ゲべス団の仕業だ!」「裏切者がいる!」
道でも森の中でも混乱が広がり始めた。

リリア再び素早く立ち上がって何射か放った。
ダーゴが見ていると矢の一本は荷物を手にした賊に当たったようだ。
矢を受けて倒れた賊から金品が巻かれる。
「金だ!」「俺のだ!」「俺達のシマとわかっての妨害か!」「拾える物は拾え!」「やっちまぇ!」
浴にまみれた血で血を洗う争いと混乱が広がっていく。


「リリアは賞金稼ぎの勇者だからね… ここからが本番よ、ダーゴ準備はいいわね」リリアが緊張した声をだす。
ダーゴはリリアを見ると、唇が震えているのが見えた。
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