勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【219.5話】 油絵と礼拝所と

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「よし、やっと到着したね」
村のゲートを通り、リリアは馬車を停車させた。
「せめて道が整備されたらもう少し早く着けるだろうけどね」
ペコとアリスも馬車を降車する。
リリア達はウッソ村に到着。
リリア達の姿を見つけた村人やシェリフが出迎える。

「やぁ!皆さんお元気そうね、神のご加護がありますように。アランはいる?… あぁ、はいはい、今報告に行ってるのね」リリアが挨拶する。
ほどなくアランがやってきた。
「リリア、久々で元気そうだな。最後に村に来たのは年始めだったか?今回はどれぐらい泊まっていけるんだ?… 一泊か、忙しいな。親父?あぁ、だんだん年になってきたが元気だ。クレアもおかげさまで元気にやっている。二世もお腹の中にいる、わっはっは」アランが笑う。
「えぇ!すっごいじゃない!子供ね!おめでとう!クレアは家でゆっくりしている方が良いね。今日、一緒に来たのは冒険者仲間よ。火属性魔法使いのペコ、治癒術と加護魔法のプリーストのアリス。あとホウキのダカット。ペコ、アリス、ダカット、こちらがウッソ村のシェリフリーダーで村長の息子のアラン。それと愉快な村の仲間達」リリアがお互いと全員を紹介する。
「皆様にヴァルキリーのお導きを」
「アイギス神のご慈悲があらんことを」
「おれ前にも来てるよ…ってか俺はついでかよ」ダカットが呟く。
「ブラックはどうした?元気にしているのか?」アランがリリアに聞く。
リリアは黙って首から下げた識別標を見せた。
「… そうか… 好青年だったが… 残念だ… あれだけ出来る奴だったが…」
アランが声を落とす。冒険者が命を落とすなど驚く事ではないが、やはり知り合いが無くなるのは悲しい出来事…

「今日、帰ってきたのはね… あぁ!シュエルノ、アイラ、ジェシカ、皆元気にしていた?大きくなったね!リリアお姉ちゃん、シスターリリアが帰ってきたよ。ゼフ様は元気?教会でお勤め?そう、挨拶終わったら教会にいくからね」
リリアがシュエルノ達にハグをする。
皆リリアの戻りを聞いて飛び出して来た。

「アリス、私は村の事は良く知らないけど、こんなに村自体で歓迎してもらえるものなんだね…」ペコがこの光景を見て呟く。
「リリアの人柄もあるわね」アリスも微笑む。

「でね、今日は… あ、ちょっとまってね… この絵を先にあたしが下ろしておくから… で、記念の絵を飾りに来たの。それで馬車を借りる事にしたからついでに村にお土産買って来たよ。この荷台の物全部お土産」リリアが油紙に包んだ油絵を持ちながら説明する。
「毎回村のためにお土産を持って来てくれて、すまないな。リリアも街で活躍しているようだな」アランが感心する。
「リリアも立派になったな、あのリリアがこんなに立派になるなんて夢のようだ」
「村の男を食い荒らしていたリリアがまっとうな人間になって… 私ゃ嬉しくて…」
「リリアが勇者になるって街に行ったと聞いた時にはとうとう気が狂ったかと思ったが… 立派じゃ、あっぱれじゃ」
「リリアが勇者に指名されるなんて世も末だと嘆いたものだけどねぇ… 世の中捨てたもんじゃないねぇ…」
「村の仕事はちっとも手伝わんで、弓ばっかり振り回していたあのリリアがのう…」
「皆、昔の事はもう言うまいぞ、人間過ちはあるもの、リリアはこうして長いお勤めを経て、罪を償い、まともな人間となって戻って来ておる、笑顔で迎えてあげよう」
村人が思いおもいの本音を吐露しながら感動して涙を流している。感動の再会。
「あ、アラン、ごめんね、リリアちゃんは用事思い出した。今日はそこらじゅうの野郎どもを左ジョイントからの右アッパーでぶちのめしてやりたくなる病を抑える薬を出してもらう日だった。お土産全部持って帰ってキャンセルするから… ヴァ!ちょっと!何するのよ!」
リリアが帰ろうとしたら村人に取り囲まれて、馬車からは荷物が次々に下されている。
「ありがたや、リリア、ありがたや」
涙ながらにテキパキと村の倉庫に荷物が運び込まれる。
「… アリス、村ってすごい所なんだね」ペコが呟く。
「……リリアの人柄もあるかしらね…」アリスが微笑む。


リリアは教会でゼフに挨拶を済ませて教会裏の墓地に来た。
もちろん絵の報告をガウとメルにするため。

「じゃじゃーん。父さん、母さん、リリアの油絵。ドラゴンに乗る絵だよ。勇者と言えばドラゴン、ドラゴンと言えば勇者。リリアってば勇者やって油絵になったんだよ。これは情報紙ギルドで働いているピエンって友達が描いてくれて…」リリアが両親の墓前で報告している。
「… あいつ五歳から孤児だったんだっけ…」
「… 五歳で教会に引き取られ修道女… だったかしら」
ペコとアリスは少し離れて様子を見ている。
「… 時々卑怯な手段を使うんだよね…」ペコは呟いた。

「これはギルドマスターのコトロ… バードカレッジ出身で歌とリュートが上手… 精神効果はあんまり期待できないの… バーで歌ってばっかりで全然外に出ないギルマス… こっちがネーコ… 誘惑のスキルが少し使えて… 天気予報もそこそこ当たって… だけど、メッチャ気まぐれすぎてね… これはラビ… とっても良いお姉さんだよ… だけど…」
リリアが絵を見せながらメンバーを紹介している。
「リリアも結構たいがいなんだね…」ペコがリリアの紹介を聞いて呟く。


「ここに飾るの?どこに飾るの?」ペコがリリアに聞く。
リリア達は墓前で報告が終わると油絵を飾りに来た。
リリアは生家に飾るつもりでいたようだ。リリアの生まれた家に来た。
リリアが教会に引き取られて以来、空き家となってたまに掃除されているだけ。
「リビングに飾ろうと思っていたけど変かな?こっちがいいかな?」リリアが絵を壁に当てがってペコ達を振り返る。
家はテーブルやベッド等大きな家具がそのまま置かれている。
「… 絵の位置っていうか… 人があんまり出入りしないんでしょ?せっかくなら教会の礼拝所とか… リリアの生い立ちを知っているせいか、あまりここに飾るには相応しくない気がするけど、正直…」ペコが部屋を見渡して言う。
使われていない家というのは独特な雰囲気がある。
リリアがアリスを見るとアリスもウムウムと頷いている。
「… そっかぁ… リリアもちょっとそう思ったんだよね。ゼフに言って教会に飾る方が良さげだね」リリアも納得。


「ゼフ、壁にリリアの油絵を飾ったよ」
リリアが声を掛けに来たのでゼフが礼拝所に顔をだすと、リリアがドヤ顔して立っていた。
ゼフが見上げる先に仲間と一緒にドラゴンにまたがるリリアの油絵がある。
良い高さに絵が飾られ礼拝所特有の柔らかい光の中にある。
リリアは自分で感動して見上げている。
「うん、いいじゃん。実際なんてデッカイ絵だと思ったけど、こうやって壁にかけたらちょうど良いんだね、もうちょっと大きなキャンバスでも良かったくらい」
ペコとアリスも眺めて感心している。
シュエルノ達も喜ぶというより別の何かを感じているようだ、口を開けて眺めている。

“ふむ、こうしてみると風格がある良い絵じゃな”
ゼフも眺めてみて思う。

「これね、同じ絵が三枚あるけど村に置いておくのが一番安全だと思ってね、オリジナルを持ってきたよ。裏にリリアちゃんの直筆サインとコメント入り。伝説級勇者となったらウッソ村は観光地になり、この絵は国宝級になっちゃうよ。ゼフ、有名教会の聖職者よ、よかったねぇ」リリアはニコニコしている。
「リリアが伝説級?絶対ならないよねぇ」ペコが笑う。
「そうか… その日まで長生きさせられそうじゃな」ゼフも笑う。

「して、絵のタイトルはなんじゃったか?」ゼフ。
「ドラゴンに乗る勇者リリアよ。後でタイトル張っておくよ」リリアも笑顔。
「リリア、村の皆で歓迎BBQするぞ。リリアも手伝え」
アランが教会に入って来てリリア達を呼ぶ。


「ドラゴンに乗る勇者リリア」のオリジナルはウッソ村、自然と調和の神・ゼフ教会の礼拝所の壁に収まった。
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