勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【217話】 補水中の接敵

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狂騎士の斧作戦六日目

「昨日は街中でご飯食べてベッドで寝れて、最高さいこう!」
リリアは機嫌が良いようだ。

昨晩ルーダ港に戻ったリリア達はビケットに報告を行った。
ビケットの説明では作戦決行は三日後を予定しているようだ。高価な積み荷を発送すると噂を流し、仲間には馬車を巡っての立ち回りの演習を行っている。
事実ちゃんとそれなりに荷物を買い取って知り合いの商人ギルドに頼んで各種書類も準備されている。

「作成された地図か… うん、このまま周囲の状況と賊の居場所の把握を続けてくれ。地図は明後日提出してもらって、作戦実行前に一度実働隊と下見をする。観測場所が街に近いなら今日から街に戻ってきて報告してくれればよい。くれぐれも事務所まで誰かに後をつけられないように。では改めて作戦の確認だ…」ビケットが慎重に説明する。
リリア達も作戦を再確認して解散した。


リリアは昨日より街から離れたポイントにカモフラージュネットを張り定点観測をしている。
通信のイヤリングに入ってくる声を聞きながら街道を見下ろす。
ブリザも時々リリアの観測所に立ち寄りながら周囲の観察をしている。

「村から全部荷物を引き上げて来た」
午後になってダーゴがリリアの定点観測地点戻ってきた。
作戦決行の日まで街で寝泊まりと決まってダーゴにお使いを頼んだのだ。
「ありがとう、荷物重かったでしょ、ちょっと休憩したらいいよ。誰にも後をつけられていないわよね?もっともバレるようでは追跡になってないけどね」リリアが笑う。
「言われた場所から森に入って斜面を上がってきたから大丈夫なはずだよ」ダーゴが答える。
「かなり街から外れて兵士の数も減ったよね。魔物の数が多くなっているよ」
ワイルドボウ、サーベルタイガー、どう猛な野生動物や植物系魔物が通りを横切っている事もあり、旅行者と戦闘になっている。


おやつ時を過ぎた時間帯
「誰かきたぞ… ブリザだ、ブリザが来たよ」
リリアが斜面したを覗くとダカットが知らせている。
ほどなくブリザがリリアの場所まで上がってきた。
「ブリザ、お疲れ様。リリアのところは異状無しだよ」リリアが報告する。
「異状無しだよ、じゃないでしょ… さっき矢を放ったでしょ」ブリザが怒っている。
「あぁ… 見てたの?えっへっへ… 馬車が魔物に襲われていてね、なんか苦戦して危なかったから…矢はすぐ回収したよ…」リリアが誤魔化し笑いしている。
「あなたが道を見張っているってことは他に見張っている人からも見えるってことなのよ、矢が刺さるのが見えてたわよ。賊の追跡以外は全部黙って見過ごせって説明されているでしょ、守りなさい」ブリザが怒る。
「オ、オイラ、水筒に水を汲んでくるよ」ダーゴはそそくさと下へ降りていく。
「わかってるよ… 黙って見てたけど危ないから… あたし勇者だし、やっぱり国民に危険がせまったら… さっとやって終わらせたよ」リリアが何かブツブツ言っている。
「とにかく、全部目をつぶって見逃すの。私がたまたま見ていたからわかったけど、今まであんな事していないでしょうね?」ブリザ。
「してないから… もうしないから… 謝るよ…」リリア。
「いざとなったら私がやる。氷系統やブリザードならまだ証拠も残さないでしょう。とにかく、リリアのせいで全部計画が潰れるのよ、理解しないさい」ブリザが強く言う。
「… リリアは勇者だから… あ、はい、すみません… わかりました、以後気をつけます」リリアが謝る。
すげぇ怖い顔でブリザに睨まれた。アイススフェアでも打たれかねない、謝罪するに限る。


ブリザが持ち場に帰ってしばらく経った。
「さすがに… ちょっとトイレに行く。この機にいっぱい水飲んであたしが水を汲んでくるよ」リリアがダーゴに声をかける。
「よく我慢できると思った。気を付けていってきな」ダーゴ。
リリアは観測所を離れて斜面を下って行った。


リリアは池の傍で一休み。
トイレを済ませて水分を多めに補給する。水筒に水を浸しおやつ代わりに干し肉を食べていたところ。
肉体的に疲労は無いが同じような姿勢でじっと目を凝らして集中していなければいけないので気疲れする。
“賊って出会いたくない時に襲ってくるのに探しても見つからないものねぇ”
リリアもやれやれと言った気分。

“…… 人の声?…“
リリアは素早く木影に身を隠して周囲を伺った。
気のせいだけではない、確かに人の声がしている。
リリアが身を隠しながら池を見ていると男が二人水汲みにやってきた。
風体からして恐らく賊だろう。商人や旅人といった感じではない。冒険者ギルド風だが雰囲気が違う。
“そうか、水が飲めるような場所に集まるのね”

リリアが置いた見張り場所からは気がつかなかったが恐らくこの周辺で見張りをしている人間がいるのだろう。一日中見張る事を考えれば、補水できるよう場所がある距離で定点観測しているのは納得できる。
リリアはそっと二人に接近する。周囲にはこの二人だけのようだ。
“ブリザやダーゴに知らせるべきか… いや、知らせにいったらやつらを見失う…”
リリアは二人の会話がなんとか聞ける距離まで接近した。
やはり賊のようだ。周囲への警戒が薄いようだ、結構普通に会話をしている。
“警戒していないのね、結構この辺に慣れているのね”
ダガーを手に水を汲み終えた二人を尾行するリリア。
秋の山は落葉が多く思ったより接近して追跡が難しい。
“出来れば会話を聞き取りたいけど…”
まぁ、無理は禁物、見え隠れに男達を追跡する。

“この上にいるのか”
男達は山を上がり急になった斜面を登っていったようだ。
しばらくリリアが隠れて聞き耳をたてていると上の方から会話が聞こえて来た。
複数名いるようだ。
リリアは見上げてみたが地形と木のせいで場所は確認できなかった。
“もうこれ以上接近は危険ね。日没後アジトに戻るだろうけど… 追跡するべきか…”
リリアは少し考えたが一度戻って報告した方が良いと判断。明日以降またここに来てみれば良い。
どうやらリリア達の置いた見張り場所に結構近い位置。

リリアはその場を離れると先ほど上がってきた斜面を下りて行った。
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