勇者の血を継ぐ者

エコマスク

文字の大きさ
上 下
324 / 516

【163話】 リリアとギルド・ルーダの風の仕事

しおりを挟む
リリアは足を忍ばせ歩く。ドラゴンを起こしてはいけない。
ここはフォート・ランカシムから北に上がった山中にある塔の最上階。
ドラゴンの食べ残しが目の前にある。
リリアはその食べさしに手を伸ばす…

“ガッチャン!”
足元で何かが音を立てた!
「しまった!わぁ!!」
うっかり音を立ててしまったリリアは慌ててバランスを崩して目の前のテーブルに大きく手をついてしまった。
“カランカラン!”
食器類が触れ合う音…

「むぅぅ…」
ドラゴンがゆっくりと目を覚ましてしまった…


二週間程遡ったある日
バー・ルーダの風に所属するヘボ勇者リリアを訪ねてきた人物がいた。名をギュインターと言い遠いが王族の親族に位置する貴族だと名乗った。

「そう、王族と遠い血のつながりなんですね。リリアも遠い勇者の子孫だけど全然それっぽい能力を引き継がなかったわよ。お互い血筋なんて大した保障のないものよね」
自称王族の遠い親族ギュインターの自己紹介の後、リリアはバーカウンターでコーヒーを飲みながら屈託なく以上のように語った。

ギュインターがリリアに依頼するのはドラゴン退治だと言うのだ。
正確にはドラゴン退治のお手伝いをする。
更に正確に言えば、塔のドラゴンを倒すお手伝いをし、塔に監禁されたお姫差を救い出す騎士様のお手伝いをする仕事なのだそうだ。

簡単に詳細を書くと以下の感じ
この大陸には塔に連れ去られたお姫様を王子様がドラゴンを倒して救い出し、恋に落ちて結婚する物語がいくつもある。
伝説の勇者エジンも結婚には至らなかったものの似たような事をやってのけ、良い思いをしていたような記述が残されている。
その他、経緯、経過に大同小異あるものの同じようなストーリーが蔓延っている。
本来は囚われた者が強い者に救い出され、尊敬だの愛情だの掴みどころのない感情が芽生えた結果結ばれるのであるが、こんな伝説があるのだから「ワシの娘と結婚したくば何々を倒してこい」とか言い出すバカ親が現れ、バカ娘にも「私にも白馬に乗った王子様が現れて連れ去ってくれるの」とか「この身を救ってくださる強き者こそ私の配偶者に相応しい者」とか白昼夢を真顔で語る者が出てきたのだが、そんなに都合よく身の安全を保障したコレクトマニアな魔物が誘拐してくれるはずもなく、誘拐された先の環境が快適な暮らしとの保証もなく、常識からいってそんな物騒な事件に一人で乗り込んでいって魔物をぶっ倒すようなもの好きも居るわけなく…
思案した挙句「ドラゴンに囚われたお姫様と救い出す王子様を演出して結婚の運びとしよう」とどこかの誰かが自演して結婚させたのがブームになって偉い人の娘と誰かが結婚する際の慣例というか儀式化したものを時々やるようになったのだ。
ギュインターは愛娘のためにそのドラゴンに囲われた姫と救い出す王子様演出のお手伝いを勇者リリアに頼みに来た。

「… ふーん… それって一時期ブームだったみたいよね… 未だにそんなとぼけた妄想を抱いている人っているのねぇ… 慣例的に王族同士の結婚式前にやるって聞いてたけどすごい資金なんでしょ?ギュインターさんも大変ねぇ、まぁ、仕事になるならリリアちゃんが引き受けるわよ」リリアはコクコクと頷いている。

「ギュインターさん、失礼ですが何故リリアに依頼なのですか?」コトロが不思議がって聞く。
当然だ、普段は国を挙げてのイベントで国が全部取り仕切るのだ。たまに王の親族や貴族が真似るが、たいていは国がらみかイベント企画ギルドが行う。
吹けば飛ぶような小ギルドの無名冒険者リリアに頼みにくるだなんて…
何でリリアに頼むのだ?… 当然の質問…

「今回は国王様に申し出たのだが… まぁ色々あった結果独力で行う事となり… いや、遠くあっても親族は親族なので国が所有するタワー・オブ・エリフテンの使用は快諾をいただいているのだが… 国もここのところ紛争と戦争が続いておるようで… ここ二年ばかり穀倉地帯の魔物達が… ルーダ港の貿易も盛んになってきたが設備等しと拡張工事で… (長いので省略) まぁ、今回は娘もこじんまりとした規模の結婚を望んでいるようなので… 親としては… (長いので省略) それで今回王国は人を動かせないが、国に所属するが暇している、ちょっと強い女を紹介すると言われてリリア殿に依頼に…」

“うゎ、空気貴族が体よく国から空気勇者を紹介されて追い返された的な話しなんだ…”コトロは思う。
「ドラゴン退治の演出とこじんまりがミスマッチに思えるけど… 何だか面白そうなのでやるわよ」リリアは自信満々のようだ。

で、“ガッチャン!”「しまった!わぁ!!」の場面に戻って来る… 前に今までの流れ。


今回のコアメンバーはパーティーリーダーにコトロ、メンバーはリリア、ネーコ、ラビ…
そう、ルーダの風のメンバー総ぞろいになった。
因みにコトロは
「パーティーリーダーはリリアで良いですよ。ギルマス=リーダーを務めなければいけない規則はないですから… リリアの仕事なのでリリアがやってくだ… いや、やっぱり私がやっておきます」と、安全策を取った。

ギュインター家とリリアのミーティング
「えぇ?男冒険者は連れて行けないの?何でですか?… 男が娘さんに?…万が一?… えっへっへ、それならまずリリアちゃんのお胸に惚れるでしょ… 塔の最上階で数日間身の回りの世話があるから男は除外?… まぁ、はいはぃ…」
今回ブラック等男性冒険者はリストから除外。
「しばらく使われていない塔内の掃除と管理?適当に魔物を各階に置いておいて最上階付近で安全を確保しながらお嬢様とドランゴンのお世話をする?… うーん… 複雑というか… まぁ、あんまり戦闘は無いけど身の回りの世話ね…」
そんな感じで戦闘等より掃除、洗濯、料理が出来るメンバーとしてルーダの風全員出動となった。
「一週間程ならバーを閉めます。こじんまりと言っても貴族ですね。確かに計画に対して規模小さいですが、仕事としては少数精鋭で支払いは悪くないです。来年のギルド存続に向けて我々も野外活動の記録を残すのは良いことですから」
コトロが仕事を引き受けてくれた。

「やっほー!一度ギルドの皆で野外活動したかったんだよねぇ!」リリア。
「ネーコはバーの方がいいニャン。でも、野外活動も大事でお小遣いも上がるならうれしいニャン」ネーコ。
「ラビも一度リリたん達と冒険者っぽい事したかったピョン、楽しみピョン」ラビ。


細かい話は後ほどとして、ルーダの風メンバー、総出陣の仕事がスタート
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...