勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【112話】 リリアと娼館ムッチ鞭

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リリアはビケットとブリザの賞金稼ぎチームに呼ばれた。
ビケットは猫人でお尋ね者の賞金稼ぎを生業としている。デッド・オア・アライブだ。街の情報屋でもあり、賞金稼ぎの傍ら、探偵のような仕事をしている。彼の相棒がブリザという魔法使いの女性。風属性で吹雪を起こせるのでブリザードから異名が来ているそうだ。
二人とも四六時中一緒に行動しているのかと思えばそうでもなく、情報収集はビケットが行い、ブリザはサポート、いよいよとなったら二人で仕事をするのだそうだ。

賞金稼ぎはそれなりに存在しているが、結構自称だったり、たまたま1回捕縛した事を語っていたり、物のついでに手配書を眺めています風情が多い中、ちゃんと賞金稼ぎで食っていけている優秀なコンビ。もっとも賞金は大きいが年中大物取りをしているわけではない。
年に二人見つけて1年分の収支、三人目からおつりが来ると言われている。
ほとんどは情報網を使った地道な捜査で、その過程で得た知識で副業等をしている。
「一人前にやっていけるなら、独立してギルドやったほうがお得じゃない?」リリアがビケットに聞くと
「小さいギルドは維持に大変だ。それより必要に応じて人が集まればそれよい」とビケットは言う。そんなものかな…

まぁ、その賞金稼ぎのビケットにリリアは呼ばれた。今まではバーで面識がある程度。
「あなたに神のご加護がありますように」事務所でビケットに挨拶をするリリア。ブリザもいる。いかにも冷静そうな美人でセクシーさも兼ね備えている。


「君のことは少し調べさせてもらった。弓に天賦の才があるようだね。デッド・オア・アライブの仕事は正面切って戦う必要がなくてね、前々から君のことは良い人材だと思っていたよ」ビケットは言う。
ビケット自身も、猫人としての隠密、隠蔽性、運動能力を活かし、力による逮捕は人を雇うタイプのようだ。
「… 君って?… あまり呼ばれないわね。弓は自信ありますよ。リリアも気配を消すのは得意で賞金稼ぎは向いているかな?とか思って、手配書たまに眺めてるのよね」リリアはちょっとはにかむ。
「うむ、最近、軍の下士官学校も卒業して、スナイパー、サバイブ術と隠密セオリーを習得しただろ、頼もしい」ビケット。
「あぁ… 座学は寝てたけど… 実技は真面目に取り組んだわね。それにしてもこれってあたし、ギルドの特技・スキル欄にまだ書いていないけど… さすが情報屋なんですね」

話しを要約すると、今回、闇奴隷取引、闇魔法アイテム取引、殺人、殺人指示等で指名手配中らしき男が確認され、半年ほど内偵していたそうだ。リリアもお尋ね者リストで見たことある名前、賞金は高い!
潜伏地域は辺鄙な山奥のようだが、闇取り引きの管理を行っているようだ。他にもお尋ね者が潜伏しているなら一網打尽にしたらしい。
探偵のお手伝い?なんか格好良いし、面白そう。
「OKよ!」リリアはニコニコとグッドサイン。

張り込みと逮捕に踏み切る前にリリアは奴隷取引ルートを調べるためにルーダ港にある、娼館に向かわされた。
難しそうだ、こんな事いきなりできるのか?とリリアは思ったが、ルーダ港ではサポートが付く手はずのようだ。それにお客か物売りか就職活動かを装って娼館の中で人物確認をする仕事で難しくはないらしい。一度も潜入捜査をしたことの無いリリアは顔が知られていなくて適当なのだそうだ。それに武力にも自分である程度対処できる。


「仕事に出るのですか?馬車護衛ですか?日程を提出してください」装備姿のリリアがバーを出る姿をみてコトロが言う。
「あー…えー… ちょっと今回は… そのぉ… 超危険な仕事で、皆の身の安全のために知らない方が良いと思うんだ… うんうん… 大丈夫よ、皆さんに神のご加護がありますように」リリアはすっかり探偵気取りだ。
「はぁ?…」コトロ、ネーコ、ラビは出かけるリリアを送りながら顔を見合わせる。


ルーダ港の娼館街で見張りをするリリア。スティックと名乗る男と一緒に近くにある宿の部屋から交代で娼館“ムッチ鞭”を見張る。
事前調査ではここが違法取引の一店舗になっていて、取引の男が立ち寄るそうだ。
奴隷取引自体はなかなか手を出せないが、賞金稼ぎとしはこの取引相手がお尋ね者か確かめたい。
娼館街の街中はカオス。客引き、リリアの方が赤面するような恰好をした娼婦、娼夫、客のトラブル、意味不明な通行人、二日間くらいは眺めているだけで面白かったがだんだん飽きてもくる。
手書きの似顔絵と出入りする人間をにらめっこする時間が続く。
リリアもスティッチも交代で見張り兼、気分転換で適当に出かける。さりげなくムッチ鞭の前を通ったり、適当にウロウロ。
「ね、もっと…こう… 娼婦の格好とかの方が街に溶け込まない?」
内偵=変装と、単純にイメージしているリリア。
「娼婦は皆、ギルドに所属しているぞ。潜りの商売と思われたらそっちの方が目立つ。元締めがシマ争いには敏感だから余計トラブルの元だ」と痩せ男スティック。
想像と違って物足りないがそういうものか… もっとも巨乳リリアは娼館街を歩いているだけでスカウトやら、なんだか良くわからん連中に声を掛けられる。

張り込み五日目
「思ったよりずっとずっと地味なのねぇ… これで仕事になってるのかしら?」
リリアが周辺を回り部屋に戻って来ると
「さっき、それっぽい奴がムッチ鞭に入っていったぞ」スティックがリリアに言う。
顔の特徴はいまいちわからなかったが、お客じゃない雰囲気の男が三人程店に入ったのでリリアに確認に行ってくれという。
「俺も店の側で待機するが、通信イヤリングは出来るだけ使わないように。店内からの通信は個人情報と店の安全、ガサ入れ発見のため結構厳しく見張られているからな。何かあったらすぐに助けられるようにしておくが、問題ないはずだ。顔の確認で十分だが、出来れば話の内容も確認してくれ」スティックがブリーフィングする。
ヤマが動いた!ドキドキする!面白くなって来やがったぜ!!

リリアは娼館“ムッチ鞭”に向かう。
男心を刺激するいかがわしい看板。いかがわし過ぎる!ぜったいまっとうではない商売しているに決まっている!
すげぇドキドキ感!緊張と未知へ好奇心と説明し難い何かが混ざった高揚感。
用心棒の視線を受け流し館の扉を開くと、強い香料の匂いが鼻に迫ってきた。
リリアは鼓動が受付嬢に聞かれているのではないか?と言うぐらいドッキドキ。
さっとロビーに目を走らせる。男たちはいないようだ。
こんなお店初めてだし、内偵調査も初めてだ。
“落ち着こう、落ち着くのよ、リリア”自分に言い聞かせてペンダントを握る。
ガウとメルに祈るリリアだが、果たして二人ともこんなことまで面倒みるだろうか?少々疑問…
娼館とか面白そうだから店内を見てみたいと思ったこともあったが、実際来てみると何か自分がとっても恥ずかしい事をしている気持ちになる。事情も事情だ。リリアは顔を真っ赤にして汗をかいている。
“いけない、いけない!落ち着こう、怪し過ぎるぞあたし…”
リリア務めて冷静を装うが、汗とは止めようと思えば思うほど余計に流れるものなのだ。

カウンター嬢が優しくリリアに声をかけた。
「いらっしゃいませ、お客様、お決まりになられましたらこちらへ」
リリアは意を決して足を踏み出した…
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