勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【23.5話】 リリアと街と ※過去の話し※

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「ゴーレム・ガウとリリアが護衛なら熊もごめんと逃げていくなぁ」馬車手を務める村人が笑った。
馬車手席の右側、護衛席にガウが座り、真ん中にリリアが狩り装備姿で弓を抱えて座っている。荷台には荷物と一緒にメルが器用に荷物の間に挟まるように座っている。
村の収穫物等を街で売るために、馬車三台でルーダ・コートまで行くのだ。
リリアは今日が、街デビューの日。年に数回、作物、作った薬、修繕した武器や鎧を街に売りに行くのだが今までリリアは家でメルと留守番だった。大きくなったのでそろそろいいだろうと、荷馬車に乗って街に行く事になった。メルは街にいる間、有料治癒サービスと占星術サービスをするらしい。

「お前はほんっと、変わった子だねぇ」メルが呆れるように言う。
リリアは席に座って“当然よ”とすまし顔をしている。
街に出かけると言うのでメルがリリアにせっかく、街の子供のような服を着せたのに、馬車の護衛席に座れる事になった途端、綺麗な服の上に狩り装備をして弓を片手に馬車に乗り込んでしまったのだ。
リリアにしたら、“誰よりも真っ先にリリアの矢を叩き込んでやるぜぇ!盗賊でもマウンテンライオンでも何でも来やがれぇ!”ってこところだ。母さん、リリアがいるから居眠りでもしていてちょうだいといったところ。


リリアの荷馬車は列の最後尾にいる。なんでも、一番腕の立つ護衛が全体を見える最後尾らしい。
“そうよ、リリアの父さんはゴーレムの異名をとるのよ”リリアはとても誇らしい。
子供の足でとても来れない距離、馬車に揺られながら、緑を眺めるリリアにガウが時々、指を差しながら、この奥は川が近くて、シカがいるとか、あっちの奥は廃村があって、今は近づけないとか、あの丘からはこの辺が一望できるから人影が見えたら要注意とか、色々な事を教えてくれる。
「リリア、あんた全然寝てないけど大丈夫?」メルが時々リリアに声をかける。
「護衛が寝てたらダメじゃない」リリアは黙って聞き流していたが、何度も言われるので口を開いた。
だいたい、リリアから言わせたらメルは心配性過ぎる。リリアがクシャミを1回すれば、風邪をひいたとか、トイレに行くと言えば、お腹をこわしたとか、何でも大騒ぎしているようだ。リリアにとって不満いっぱいなのは
「リリア、今日は何が食べたい?」と聞くから
「鶏肉か卵料理!」と期待すると、だいたい
「それは出来ないから野菜スープだ」と決まって言うのだ。出来ないのに聞かないで欲しい、変に期待してしまう。

「はいはい、母さんはリリアが見張ってくれているから安心して寝てようかねぇ」メルは再び居眠りしだす。
そもそも、リリアは馬車に揺られて変化していく地形を眺めているだけで、ワクワクする。ちっとも眠気なんて訪れてこない。
今日はてんとう虫も村から同乗して特等席に座している。

しばらく揺られているとガウが黙って指を差してみせた。
「わぁ!あれね!あれがルーダ・コートの街ね!」リリアが思わず乗り出して声を上げた。
緑の森と丘の向こうに街が見えてきた。
大きな城壁、高い塔、そこから顔を覗かせる、色とりどりの屋根。全てがリリアの想像していた通り、いや、それ以上だ。
「母さん、街だよ!ルーダ・コートの街よ!」リリアは嬉々としてメルに声をかけたが、メルは
「ぅむぅ…」とか、うなったっきり寝続けている。
“なんでウチの母さんは、どうでも良い時起きていて、肝心な時に寝てるのか”こんな感動の光景を見逃すなんてもったいない… リリアは思う。


街がだんだん大きくなってきた、気が急いでいるせいか、見えてきてから長い気がする。
「あんた、今日、リリアったらねぇ…」メルが突然口を開いた、リリアが振り向くと笑顔のメルがいる。
「リリアったら、香水を飲んだのよ」メルが言う。
「ちょ、やめてよ!何で今言うの!」起きたと思ったらとんでもない事を言い出した。リリアは慌てる。
「いいじゃない… この子ったら香水飲んじゃったのよ」といってメルはうっふっふと笑っている。
「何でまた…」ガウと村の男がちょっとメルを振り返る。
「香水がビンに入っているもんだから、ポーションのように飲んで体から香る物と思ったんだって」メルは言うとおかしくたまらないといった様子でカラカラと笑い出した。
「うまかったかリリィ」男達も大爆笑しだした。
リリアは恥ずかしいというより、何でメルが突然起きてこんなことを話し出したのか腹が立つ。
「だって、ビンのポーションはみんな飲んで効くんだもん…」リリアは真っ赤になりながら抵抗する。
「俺は、ガウのところは娘に飯も食わせてないかと思ったよ」
大人三人は大爆笑を続けている。母さんやっぱり寝てていいよ、リリアは思う。
「リリアが街に行くから香水つけようとなんてねぇ… ガブ飲みして…」メル。
「街に男でも出来たか」ガウ。
「リリアはメルの腹の中にオチンチンを置いてきてしまったかと思ってたけど、案外色気があるじゃねぇかぁ」村の男。
三人共、大爆笑を続けている。
“ちょっと笑い過ぎじゃない!”リリアは腹を立てながらガウの腕をつねりあげるが、全然効いていないらしく、大笑いを続けている。

街の城壁が大きく見えてきた。
てんとう虫はいつの間にか下車していた。
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