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第58話 過ぎゆく季節のなかで①

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ルシム大公の“曾祖父の妹の子孫”にあたる“メリン・ハースト領主”が帰った二日後の朝だった。

再びヴァイアが訪れたのは。

僕が、館の庭で“片目のベルーグ”と剣術を稽古しているところに、足を運んできた。

今回は、10代後半くらいの容姿をした“竜人の男女”を伴っている。

なんでも“双子の兄妹”らしい。

余談かもしれないけど、お兄さんはショートヘアで、妹さんはセミロングだった。

どちらも、翼と尾は、緑色だ。

更に〝100年以上は生きている〟との話しだった。

そうした二人は、ヴァイアの父君が〝念の為に〟と付けた護衛らしい。

何はともあれ。

僕とヴァイアは、軽めの手合わせを行なっている。

僕は[木剣ぼっけん]で、ヴァイアは[木槍ぼくそう]だ。

ゆるめの動作のなか、

「すまないな、また、遊びに来てしまって。」
「親族が〝どうしても地球の料理を食べたい〟と、うるさくて仕方ないんだ…。」
「あと、これからは、七日に一度は通うことになる。」
「それぐらい、あれらの味にドハマリしたらしい。」

こうヴァイアが口を開く。

「いや、それは、大公やアシャーリーとかに、言ったほうがいいんじゃない??」

そのように僕が返したところ、

「あぁ、既に、挨拶と、事情の説明は、済ませてある。」

とのことだった。

ヴァイアたちは、今回も、それぞれの[アイテムボックス]に、お皿や食材を収納して持ってきたようだ。

これからも1人につき金貨一枚を支払うらしく、大公が快諾してくれたそうだ。

それと、アシャーリーは、今日、鍛錬と勉学が休みなので、調理を手伝っているらしい。

「だったら、問題ないね。」

僕の意見に、

「ま、迷惑はかけてしまうだろうけど。」

苦笑いしたヴァイアが、

「スピードアップしても?」

このように尋ねてくる。

「うん、いいよ。」

そう応えた事で、ヴァイアの[木槍]を扱う速度が徐々に上がっていく。

ただでさえ距離感をイマイチ掴めずにいた僕は、次第に翻弄されてしまう。

防ぐので精一杯になっていったところ、完全に押し込まれた挙句、[木剣]を弾かれてしまった。

「凄いねぇ~。」

感心した僕に、

「竜人と人間の〝身体能力の差〟が出ただけだろうな。」
「技術面は私よりラルーシファのほうが優れていると思う。」

こうヴァイアが述べる。

「確かに、そうですね。」
「ベルーグ殿がたによって鍛えられているのが、よく分かります。」

そのように喋ったのは、“双子の妹さん”だ。

「恐縮です。」

いささか照れるベルーグに、

「しかし、ラルーシファ殿下は、槍との戦いに不慣れなご様子でしたね。」

“お兄さんの方”が指摘した。

これによって、

「まぁ、これまでは、同じ得物えものでの打ち合いしか反復してきませんでしたので。」
「来年から、別々の武器での戦闘を、お教えする予定だったのですが……。」
「こちらの館で生活させてもらうようになってからというもの、いろいろと状況が変わっておりますので、他の皆と相談して、時期を早めても構いませんか??」

ベルーグが僕を窺う。

「任せるよ。」

簡略的に告げた僕は、

「とろこで。」
「この前、ヴァイアが竜になったり人の姿に戻ったりしたとき、衣服が自動で消えては現れていたみたいだけど…、あれって、スキル?」

素朴な疑問を投げかけてみる。

そうしたら、

「……。」
「〝竜人族の全員に生まれつき備わっている〟〝言うなれば亜空間収納の変異型〟だったよな??」

双子に視線を送るヴァイアだった。

これに、

「ええ、その通りでございます。」
「けれども、詳細は誰も知らないみたいです。」

妹さんが答えた流れで、

「我々にとっては呼吸をするくらい至極当然なので、深く考えたことがありませんでしたが…、確かにみょうですよね。」

お兄さんが首を傾げる。

ちなみに、お兄さんは“ドッシュ”で、妹さんは“ラッス”という名前だ。

姓は、“エレブ”というらしい。

さておき。

「もしかしたら、神様がそのように御創りになられたのかもしれません。」

ラッスさんが推測したところ、

「では、いつか、カティーア様かパナーア様がお越しになられた際に、お伺いしてみたら如何でしょう?」

そのようにベルーグが提案した事で、

「うん、そうだね。」

頷いて理解を示す僕だった……。



半月が経とうとしている。

夏真っ盛りだ。

暑い日が続くなか、メリン領主が、お抱え魔術士さんの【瞬間移動】で[大公の館]に渡ってきた。

お店と従業員の候補が見つかったらしく、メリン領主が[客間]で語っていく―。
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