上 下
9 / 61

第9話 交錯するもの①

しおりを挟む
玉座には父上が腰掛けている。

また、この場には、母上/兄上/姉上/妹に、宰相を始めとした各大臣なども揃い踏みしていた。

「これより“抜剣ばっけんの儀”を執り行なう。」
「将軍よ。」

国王である父に声をかけられ、

「はッ!」

会釈した“ガーテル・シア将軍”が、僕の方へと歩いて来る。

その両手には、横向きにした[幅が広めの剣]を乗せていた。

間違いなく[ムラクモ]だろう。

つかつばさやは、全体的に白いものの、金の装飾が所々に施されている。

40代前半で“オールバックみたいな髪/眉/瞳/顎鬚あごひげ”が茶色いガーテル将軍が、僕の右斜め前で片膝を着く。

こうした流れにて、

「ダイワの初代以降、誰も抜けなかった神剣である。」
「故に、失敗しても構わぬ。」
「気楽に試してみよ、ラルーシファ。」

父上が優しく微笑んだ。

それに反するかのように辺りには緊張感が漂っている。

このような空気を察しながら、

「はい。」

頷いた僕は、双方の手で柄を握り締めた。

〝すぅ はぁ〟と呼吸して、おもいっきり右から左へと引っ張ってみる。

個人的には〝どうせ無理だろう〟思っていたんだけれど…、予想を覆して簡単に抜けた。

しかも、力を込めすぎていたので、勢い余った僕は、左側面を床に叩き付けてしまったのだ。

一瞬の間を置いて、四方から〝おぉ――ッ!!?〟といった“どよめき”が起きた。

なお、僕の真後ろでは、控えていた教育係たちがザワついている。


正面では、おもわず立ち上がったらしい父が、目を丸くしていた。

そうしたなかで、唖然としていた将軍が我に返り、

「大丈夫ですか??!」
「ラルーシファ殿下!」

倒れたままの僕を心配してくれる。

上半身を起こしつつ、

「あ、うん。」
「まさかの展開に驚いちゃったけど、平気だよ。」

こう答えた僕に、

天晴あっぱれである!!」
「ラルーシファよ、初代は〝ムラクモを抜いた者にのみ所持を認める〟との言葉を遺しておられた。」
「これに従い、国宝たる神剣は、たった今より、そなたの私物と致す。」
「生涯、大事にせよ!」

父上が告げた。

そのみことのりを受け、跪いた僕は、

「“神剣ムラクモ”の名に恥じぬよう、より一層に精進いたします。」

丁寧に御辞儀する。

これによって、[玉座の間]に拍手が響き渡った……。



僕は廊下から[自室]へと向かっている。

背後では、“王宮魔術師のレオディン”と“ハーフエルフのリィバ”が、大はしゃぎしていた。

普段は冷静な“片目のベルーグ”に“細長眼鏡のマリー”も少なからず興奮しているみたいだ。

通常運転なのは“獣人のユーン”だけだった。

余談かもしれないけれど、ムラクモは既に僕の[アイテムボックス]に収納してある。

部屋のドアを開けながら、

「ちょっと休ませてもらえる?」

僕は皆を窺った。

それに対して、

「あぁー、左様ですな。」
「慣れない儀式に挑まれたのですから、心理的にお疲れになったのでしょう。」
「寧ろ、ここまで付いて来てしまい、申し訳ございませんでした。」
「では…。」
「我々は、これにて、失礼いたします。」

レオディンを中心に、全員が深々と頭を下げる。

「じゃあ、またね。」

手短に述べた僕は、入室するのと共に扉を閉めていった……。



急ではあるけど、うたげが開かれる運びになったらしい。

夕刻の[広間]に、主だった顔ぶれが集合している。

ただ一人を除いて。

「ラダン兄上がいらっしゃいませんが…、どうかなされたのですか??」

僕が素朴な疑問を投げ掛けてみたところ、

「いささか体調を崩したようで、寝ておるらしい。」
「明朝あたりまでには良くなるだろうから、それほど案ずる必要はなかろう。」

このように父が教えてくれた。

「……、風邪でしょうか?」

僕が首を傾げたら、

「いぃ~えッ!!」
「きっと、悔しさが一周まわって、落ち込んでいるのよ!」
「かつて失敗した“抜剣の儀”に、弟が成功したもんだから!!」

そう姉上が憶測する。

「口が過ぎるぞ、リーシア。」

父上にいさめられ、

「あー、その…。」
「私も含めて、初代の国王以外に抜けた人なんていなかったわけだし……。」
「つまり〝兄上は気に病むことなんてない〟って話しよ。」

このように主張した姉上が、

「逆に、ラル君は堂々としてなさい。」
「何ひとつとして悪くないんだからね。」
「単純に〝あなたは凄い〟って事よ。」

何故だか僕を励ました。

イマイチ意味が分からないままに、

「はぁ。」

なんとなく応えた僕の右隣で、

「ラルにぃさま、すごい! すごぉい!!」

妹のエルーザが瞳を輝かせる。

およそ三年前とは違って、それなりに理解できているようだ。

「あなた、そろそろ。」

母上が穏やかに促したことによって、

「うむ。」

[金のさかずき]を掴んだ父が、起立した。

「皆の者!」

雑談している人々を静かにさせた父上は、

「約五百年ぶりに神剣が抜かれたのを祝して、今宵は大いに楽しんでくれ。」
「乾杯。」

グラスを軽めに突き出す。

父上に続き、参加している人達が[銀の杯]を〝かんぱぁーい!!〟と掲げる。

それを機に、宴会が始まった。

…………。

ちなみに、こちらの世界の料理は、あまり美味しくない。

そのような事は、これまでの僕であれば思わなかったんだけど…、日本人だった頃の記憶が甦ってからというもの、ガッカリしがちになっている。

なにせ、スープは“じゃがいも”か“トウモロコシ”をすり潰してお湯で溶かしたものだし、野菜は茹でただけで、パンは割と固めだからだ。

焼かれた肉や魚などには、塩と胡椒こしょうが振りかけてあるだけでしかない。

要は、どの調理のレパートリーも味付けが極端に少ないのだ。

いずれにせよ。

地球の和食に洋食が懐かしくて仕方がなかった。

特に“白米はくまい”と“味噌汁”が恋しい。

そうした思いを馳せている僕は、我が身に危険が迫っている事など知るよしもなかった―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!

武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

カティア
ファンタジー
 疲れ切った現実から逃れるため、VRMMORPG「アナザーワールド・オンライン」に没頭する俺。自由度の高いこのゲームで憧れの料理人を選んだものの、気づけばゲーム内でも完全に負け組。戦闘職ではないこの料理人は、ゲームの中で目立つこともなく、ただ地味に日々を過ごしていた。  そんなある日、フレンドの誘いで参加したレベル上げ中に、運悪く出現したネームドモンスター「猛き猪」に遭遇。通常、戦うには3パーティ18人が必要な強敵で、俺たちのパーティはわずか6人。絶望的な状況で、肝心のアタッカーたちは早々に強制ログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク役クマサンとヒーラーのミコトさん、そして料理人の俺だけ。  逃げるよう促されるも、フレンドを見捨てられず、死を覚悟で猛き猪に包丁を振るうことに。すると、驚くべきことに料理スキルが猛き猪に通用し、しかも与えるダメージは並のアタッカーを遥かに超えていた。これを機に、負け組だった俺の新たな冒険が始まる。  猛き猪との戦いを経て、俺はクマサンとミコトさんと共にギルドを結成。さらに、ある出来事をきっかけにクマサンの正体を知り、その秘密に触れる。そして、クマサンとミコトさんと共にVチューバー活動を始めることになり、ゲーム内外で奇跡の連続が繰り広げられる。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業だった俺が、リアルでもゲームでも自らの力で奇跡を起こす――そんな物語がここに始まる。

家族と移住した先で隠しキャラ拾いました

狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」  ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。  「「「やっぱりかー」」」  すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。  日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。  しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。  ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。  前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。 「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」  前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。  そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。  まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――

【完結】よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

当代最強の責任

嵐山田
ファンタジー
「強者ってのはな、つけた実力と同じだけの責任を背負うことになるんだ。難儀な話だよな。自由を求めて力を得た者はその責任に押しつぶされる。だからな龍仁、お前はちゃんと理解しておけよ」 魔法や魔獣の登場で変わり果てた地球。 魔法使いの名門「黒命家」の長男として生まれた龍仁は15歳ながらに当代最強と呼ばれる。 結婚、争いなど様々な場面で求められる「最強」たるものの責任。 15歳の青年がそんな、目に見えない強大な責任を背負い、悩みながらも絆や愛情を糧に仲間と共に壁を越え、進んでいく物語。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

処理中です...