7 / 107
黎明期
第7話 四名の所感・後編
しおりを挟む
▽
私の名前は、マリー・ラキリアス。
ラルーシファ王子の教育係を拝命した者です。
【槍術】と[歴史]を担当することになっています。
本当は“鞭”の方が得意なのですが……。
王子が槍をお選びになったので致し方ありません。
あと、[中級の攻撃魔法]も扱えます。
しかしながら、魔法に関してはレオディン殿が指導するので、私の出番はなさそうです。
ちなみに、私の母である“メイラ”は、第一王女を担当しています。
なんでも、若かりし頃、ハーフエルのリィバ殿と8人組のパーティーを結成していた事があるそうです。
そのメンバーには、ある伯爵家の四男が参加しており、やがて、恋仲となった母…、つまりは“メイラ”と、結婚すべく地元に帰ったと聞き及んでいます。
場所は、ダイワの北東に隣接する[中立国]です。
私の祖父が治めていた領土の中心都市に在る小さめの御屋敷で生活していました。
なお、父は、私が18歳の時に大病を患い、およそ一ヶ月後に息を引き取っています。
この後に、ふと考えた私は、冒険者になったのです。
まぁ、約10年後には実家に戻りましたが。
更に時が経った或る日、“ペガサス便”で母に手紙が届いたのです。
今から三年半ほど前のことであり、送り主はリィバ殿でした。
母は、かつてのご縁で、リーシア王女の教育係に推薦されたのです。
少し脱線しますが、近年では世界中に“郵便”といった制度が広まっています。
ただ、〝まだ採用していない国も割とある〟との事です。
それでも、国内便を“ケンタウロス”が、国際便を“ペガサス”が、担っています。
ペガサスに関しては、人間や獣人などが乗馬して手綱を捌いているのが現状です。
さて……。
リーシア王女を指導している母が、二ヶ月ぐらい前に手紙で連絡してきました。
ラルーシファ王子の教育係として、私を“ダイワの国王陛下”に推したのだそうです。
暇を持て余していた私は〝それも悪くない〟と思って、母の提案を受けました。
お屋敷は、寿命で他界した祖父の跡を継いでいた“ラキリアス家の長男”に、譲り渡しています。
この方は“父の兄”にあたる人物です。
そうして、私は、母と共に[ダイワ王都]で暮らす運びとなりました。
新たな住まいは[石造りの二階建て]になります。
たいして広くはありませんが、なかなか快適です。
お城には歩いて通える距離のため、これも含めて気に入りました。
そんなこんなで、国王陛下とラルーシファ王子や、他の教育係の方々に、挨拶を済ませて五日が経っています。
この日の昼食後に、帰宅した母が、いささか“困り顔”となっていました。
「またリーシア王女に悪戯でもされたのですか?」
そう尋ねてみたら、
「それもありますが…。」
「城内で、深刻そうにしているレオディン殿にお会いしました。」
「……、いいですか?? マリー。」
「これは今のところ他言無用の案件ですよ。」
母は一層に厳しい表情となって、
「〝ラルーシファ王子が神法を備えておられた〟との話しでした。」
このように告げてきたのです。
「はッ?!」
おもわず椅子から立ち上がった私は、
「あの“神法”ですか!??」
驚きを隠せませんでした。
「レオディン殿は王陛下にお伝えになったそうですが、〝公表は暫し控える〟と仰せになられたそうです。」
「まずは御自身の目で確かめたいのだとか…。」
「なので、この件は内密ですよ。」
母に釘を刺された私は、黙って頷いたのです……。
翌日。
私は、ラルーシファ王子に[槍]の使い方を指南していきます。
安全面を考慮して“木製”です。
…………。
ま、その…、残念ながら上手くはありません。
寧ろ、下手すぎです。
[攻撃系のスキル]は皆無らしいので仕方ないのですが……、王子はひどく落ち込んでいらっしゃいます。
王子を慰めつつ、
(神法を得ているのであれば、それだけで充分なのでは?)
このように思う私でした…。
▽
私は“ユーン・バーンネル”と申します。
ラルーシファ様が3歳の頃に、お世話係となりました。
筆頭に昇格したのは、一年前のことです。
それまで務めていらっしゃった方が引退なされたのが主な理由ではありますが…。
だとしても、お世話係にとっては名誉でございます。
更に、この度、私は、ラルーシファ様の“教育係”に抜擢されたのです。
それは、もう、光栄の極みでございます!!
すみません。
いささか興奮してしまいました。
……、レオディン殿やリィバ殿による鍛錬などを終えられた昼下がりの事です。
自室で紅茶を味わっておられたラルーシファ様が、
「ねぇ、ユーン。」
「僕、“神法”とかいうのを生まれつき持っていたらしいんだけど。」
何気なく仰せになられました。
(…………。)
(はい?!)
(私の耳がおかしくなったのでしょうか??)
(神法と述べられたようですが?)
戸惑う私を余所に、
「魔法よりも凄いのは、なんとなく理解できたけど、まだ低級だし…。」
「これから進化していけるのか分からないから、レオディンやリィバがはしゃいでいたのは大げさだと思うんだけど……。」
ラルーシファ様が〝んん~??〟と首を傾げておられます。
やはり聞き間違いではなかったみたいです。
[ダイワの初代様]と“近衛衆”のみが扱って以来、500年以上に亘って途絶えているという伝説の神法を、ラルーシファ様が備えていらっしゃるとは…。
もはや感無量にございます!
人知れず喜びに浸っていたところ、
「明日はよろしくね、ユーン。」
ラルーシファ様が微笑まれたのです……。
日が替わりました。
お庭にて、ラルーシファ様は、両膝を抱え、項垂れておられます。
私が教えた【武術】を、全くと言っていいほど、こなせられなかったからです。
現在、お世話係の5人で、ラルーシファ様を励ましています。
こうしたなかで、母性本能みたいなものが作動したのか、〝何があってもラルーシファ様をお護りする〟と秘かに誓う私でした―。
私の名前は、マリー・ラキリアス。
ラルーシファ王子の教育係を拝命した者です。
【槍術】と[歴史]を担当することになっています。
本当は“鞭”の方が得意なのですが……。
王子が槍をお選びになったので致し方ありません。
あと、[中級の攻撃魔法]も扱えます。
しかしながら、魔法に関してはレオディン殿が指導するので、私の出番はなさそうです。
ちなみに、私の母である“メイラ”は、第一王女を担当しています。
なんでも、若かりし頃、ハーフエルのリィバ殿と8人組のパーティーを結成していた事があるそうです。
そのメンバーには、ある伯爵家の四男が参加しており、やがて、恋仲となった母…、つまりは“メイラ”と、結婚すべく地元に帰ったと聞き及んでいます。
場所は、ダイワの北東に隣接する[中立国]です。
私の祖父が治めていた領土の中心都市に在る小さめの御屋敷で生活していました。
なお、父は、私が18歳の時に大病を患い、およそ一ヶ月後に息を引き取っています。
この後に、ふと考えた私は、冒険者になったのです。
まぁ、約10年後には実家に戻りましたが。
更に時が経った或る日、“ペガサス便”で母に手紙が届いたのです。
今から三年半ほど前のことであり、送り主はリィバ殿でした。
母は、かつてのご縁で、リーシア王女の教育係に推薦されたのです。
少し脱線しますが、近年では世界中に“郵便”といった制度が広まっています。
ただ、〝まだ採用していない国も割とある〟との事です。
それでも、国内便を“ケンタウロス”が、国際便を“ペガサス”が、担っています。
ペガサスに関しては、人間や獣人などが乗馬して手綱を捌いているのが現状です。
さて……。
リーシア王女を指導している母が、二ヶ月ぐらい前に手紙で連絡してきました。
ラルーシファ王子の教育係として、私を“ダイワの国王陛下”に推したのだそうです。
暇を持て余していた私は〝それも悪くない〟と思って、母の提案を受けました。
お屋敷は、寿命で他界した祖父の跡を継いでいた“ラキリアス家の長男”に、譲り渡しています。
この方は“父の兄”にあたる人物です。
そうして、私は、母と共に[ダイワ王都]で暮らす運びとなりました。
新たな住まいは[石造りの二階建て]になります。
たいして広くはありませんが、なかなか快適です。
お城には歩いて通える距離のため、これも含めて気に入りました。
そんなこんなで、国王陛下とラルーシファ王子や、他の教育係の方々に、挨拶を済ませて五日が経っています。
この日の昼食後に、帰宅した母が、いささか“困り顔”となっていました。
「またリーシア王女に悪戯でもされたのですか?」
そう尋ねてみたら、
「それもありますが…。」
「城内で、深刻そうにしているレオディン殿にお会いしました。」
「……、いいですか?? マリー。」
「これは今のところ他言無用の案件ですよ。」
母は一層に厳しい表情となって、
「〝ラルーシファ王子が神法を備えておられた〟との話しでした。」
このように告げてきたのです。
「はッ?!」
おもわず椅子から立ち上がった私は、
「あの“神法”ですか!??」
驚きを隠せませんでした。
「レオディン殿は王陛下にお伝えになったそうですが、〝公表は暫し控える〟と仰せになられたそうです。」
「まずは御自身の目で確かめたいのだとか…。」
「なので、この件は内密ですよ。」
母に釘を刺された私は、黙って頷いたのです……。
翌日。
私は、ラルーシファ王子に[槍]の使い方を指南していきます。
安全面を考慮して“木製”です。
…………。
ま、その…、残念ながら上手くはありません。
寧ろ、下手すぎです。
[攻撃系のスキル]は皆無らしいので仕方ないのですが……、王子はひどく落ち込んでいらっしゃいます。
王子を慰めつつ、
(神法を得ているのであれば、それだけで充分なのでは?)
このように思う私でした…。
▽
私は“ユーン・バーンネル”と申します。
ラルーシファ様が3歳の頃に、お世話係となりました。
筆頭に昇格したのは、一年前のことです。
それまで務めていらっしゃった方が引退なされたのが主な理由ではありますが…。
だとしても、お世話係にとっては名誉でございます。
更に、この度、私は、ラルーシファ様の“教育係”に抜擢されたのです。
それは、もう、光栄の極みでございます!!
すみません。
いささか興奮してしまいました。
……、レオディン殿やリィバ殿による鍛錬などを終えられた昼下がりの事です。
自室で紅茶を味わっておられたラルーシファ様が、
「ねぇ、ユーン。」
「僕、“神法”とかいうのを生まれつき持っていたらしいんだけど。」
何気なく仰せになられました。
(…………。)
(はい?!)
(私の耳がおかしくなったのでしょうか??)
(神法と述べられたようですが?)
戸惑う私を余所に、
「魔法よりも凄いのは、なんとなく理解できたけど、まだ低級だし…。」
「これから進化していけるのか分からないから、レオディンやリィバがはしゃいでいたのは大げさだと思うんだけど……。」
ラルーシファ様が〝んん~??〟と首を傾げておられます。
やはり聞き間違いではなかったみたいです。
[ダイワの初代様]と“近衛衆”のみが扱って以来、500年以上に亘って途絶えているという伝説の神法を、ラルーシファ様が備えていらっしゃるとは…。
もはや感無量にございます!
人知れず喜びに浸っていたところ、
「明日はよろしくね、ユーン。」
ラルーシファ様が微笑まれたのです……。
日が替わりました。
お庭にて、ラルーシファ様は、両膝を抱え、項垂れておられます。
私が教えた【武術】を、全くと言っていいほど、こなせられなかったからです。
現在、お世話係の5人で、ラルーシファ様を励ましています。
こうしたなかで、母性本能みたいなものが作動したのか、〝何があってもラルーシファ様をお護りする〟と秘かに誓う私でした―。
10
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
過程をすっ飛ばすことにしました
こうやさい
ファンタジー
ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。
どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?
そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。
深く考えないでください。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる