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56.嵐の前の静けさ

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あれから一週間を迎えている…。
〝まだ新人歓迎会を開いていなかった〟と気づいた鐶倖々徠かなわささら副隊長によって、[東京組 第十三番隊]は居酒屋に集まっていた。
休みだった筺健かごまさる緋島早梨衣ひしまさりいも訪れている。
なお、“本日の主役”は、小津間翔こづましょうだった。
 
30分ほどが経ち、誰もが談笑しているなかで、
「トッシー。」
右隣の意川敏矢いかわとしやを、宮瑚留梨花みやこるりかが肘で〝ツンツン〟する。
「え?」
「本当に、やるの??」
いささか困惑する意川を、
「約束したじゃ~ん。」
「ほらッ、早くぅ。」
宮瑚が〝グイッ!〟と引っ張りながら立ち上がった。
「お二人とも、どうかしましたか?」
沖奈朔任おきなさくと隊長が首を傾げたところで、
「皆さんにぃ、お報せがありまーす。」
「実はぁ、あーしら、一昨日から付き合ってま~す!!」
そのように宮瑚が告げる。
「おぉッ??!」
「マジか!!?」
筺が目を丸くするなか、他のメンバーも少なからず驚く。
しかし、次の瞬間には、
「おめでとうございます、宮瑚さん。」
隈本一帆くまもとかずほが拍手しだして、これに残りの隊員も続いた。
皆から祝福され、
「どーも、どぉも。」
〝えへへへへ♪〟と幸せそうな宮瑚と、照れくさそうな意川が、ほぼ同時に着席する。
「うまくいったんだな。」
優しい表情となった緋島に、
「うん!」
宮瑚が嬉しそうにする。
この流れで、
「どういう馴れめなんですか??」
興味を示す小津間であった。
それに対して、
「えっとねぇ~。」
上機嫌で語りだした宮瑚である。
 
あれは宮瑚が想いを伝えた五日後の夜だった。
覚悟を決めた意川が“電話”したのは。
つまり、意川が宮瑚の気持ちに応えた事によって、交際がスタートしたのだそうだ。
この日、宮瑚は、喜びと興奮から、なかなか寝付けなかったらしい。
 
次は一帆や鐶の番なのだが……。
どちらも、その方面には勇気を持てなさそうなので、暫くは無理だろう…。
 
 

更に十日が過ぎた。
時刻はPM16:30あたりだ。
緋島と意川はパトロールに出ている。
[事務室]では“沖奈/筺/宮瑚/一帆”が、それぞれに資料を整理していた。
ひと段落したらしい宮瑚が“暇つぶし”とばかりに、
「くまりぃん。」
「“さっくんたいちょー”との仲は進んでないのぉ?」
小声で〝コソコソ〟と尋ねる。
「え??」
「あ、ありませんよ。」
「全然。」
恋バナの不意打ちに動揺した一帆は、両手で掴んだ数枚の用紙をディスクで〝トントン〟と揃え、
「沖奈隊長に提出してきますので。」
軽く会釈して、起立した。
「距離を縮めるためにぃ、とりま、あーしみたいに“さっくんたいちょー”て呼んでみたら?」
宮瑚が〝ニコニコ〟しながら提案したところ、意識してしまった一帆が顔を“ボッ!!”と赤くする。
明らかに緊張した様子で歩いた一帆は、沖奈の近くで、
「さ、ささ、さ。」
どうにか試みようとするも、
「はい??」
沖奈と目が合うなり〝ドキンッ!〟として、
「さ……きほどの資料、まとめ終えました。」
無難に述べるのであった。
それを見ていた宮瑚は〝ガクッ〟と脱力する。
「ありがとうございます。」
「そこに置いといてください。」
「あとで確認しますので。」
微笑みながら返した沖奈に、頭を下げた一帆が、早歩きで退避した。
かなり恥ずかしかったらしい一帆は、自分の席に座るなり、両手で顔を隠す。
この光景に〝あちゃ~〟という表情になった宮瑚である。
そうしたタイミングで、沖奈のスマホが鳴った。
「もしもし?」
『私だ。』
「お久しぶりですね、総監。」
「何かありましたか??」
『うむ…。』
『“千里眼”の能力によって、ついに三上みかみの居場所が判明した。』
『これから“副総監”と“現在の関東司令官”を交えて作戦会議を行なう。』
『ただ……、〝まずは、おまえに知らせておこう〟と思ってな。』
『こうして連絡した次第だ。』
「そうですか、わざわざありがとうございます。」
『あぁ。』
『では、またな。』
このような会話を終えて、互いに電話を切ったのである…。
 
 

四日が経過した。
PM21:00頃に、あまり天候がすぐれないなかで、数十そうの船が[東京湾]を神奈川方面へと向かっている。
どれもが“20t未満”かつ“長さ24M未満”の大きさだ。
それらは、沿岸で妖魔と戦う各隊の所有物らしい。
ちなみに、海や湖などには“水系の妖魔”が現れる。
この対策として[H.H.S.O]は全国的に船舶を配置していた。
ともあれ。
神奈川の或る[埠頭倉庫]に船が到着する。
降りてくる人々のなかには[十三番隊]のメンバーも見受けられた。
それ以外にも“総監”や“副総監”が赴いている。
更に、陸路からは、何台もの車が敷地内へと入ってきた。
付近・・の“神奈川部隊”も丁度だったようですね。」
こう喋った副総監に、〝ふむ〟と頷いた総監が、
「速やかに包囲せよ。」
「倉庫に押し入る者らは集まるように。」
周りへ指示を出す。
そして、忌々いまいましそうにしつつ、
「必ず捕らえてみせるぞ。」
「“三上・ディン・煌士あきひと”よ。」
独り言を呟くのだった―。
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