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54.想起

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総監がソファに腰掛ける。
ローテーブルを挟んだ対面には、副総監と、十四番隊の隊長が、並んで座った。
「さて、現状だが…。」
「報告にあった、千葉、神奈川、新潟、石川、この四県の“H.H.S.O”に連絡して、三上みかみの行方を調べさせているところだ。」
「各地元の警察に協力を依頼してな。」
「あと、“千里眼せんりがんの能力者”には、とりあえず千葉に赴いてもらった。」
こう伝えた総監を、
「最近まで、そのようなスキル持ちが所属しているなんて、知りませんでしたが?」
副総監が窺う。
「ま、アイツは、能力を二つ・・扱えるからな。」
当たり前のように告げた総監に、
「そんな人間が存在しているのですか?!」
「妖魔ですら一つしか使えない筈ですけど??」
驚きを隠せない様子の副総監であった。
〝うむ〟と頷いた総監は、
「彼女は半妖・・でな……。」
「研究施設でのクーデターに加わらなかった者らの生き残りの1人だ。」
「そういった連中は、あの頃の首相が、政府の一部に暫く保護させた後に、全国各地の里親に託した。」
「できるだけ秘密裏にな。」
「あと…、半妖のなかには、稀にスキルを二つ取得している者がおるらしい。」
「ちなみに、千里眼の能力者は、〝自分が受けたダメージを倍にして返す〟といったスキルを持ち合わせている。」
「普段はそっち・・・を発動して、千里眼の件は隠し続けてきたからな、初耳であっても無理はなかろう。」
そのように説明したのである。
「成程、そうでしたか。」
理解を示した副総監が、
つかさんは、ご存知で?」
[十四番隊の隊長]に確認したら、
「ええ、まぁ。」
静に肯定したのだった。
「もともと、塚は、俺とかと同じ“H.H.S.O”の前身である“日本妖魔対策特殊隊”の初期メンバーだったからな。」
「何かと把握しておる。」
こう教えた総監が〝はぁ――〟と息を吐き、
「“H.H.S.O”に変わる際、〝副総監に就任するよう〟要請したのに、断りおって。」
「〝ならば関東司令官に〟と頼んでも、最後まで首を縦には振らんかった。」
「いろいろと説得を試みた結果、ようやく“十四番隊の隊長”を引き受けたという経緯いきさつがある。」
「……、ったく!!」
「思い出しただけで腹が立ってきた。」
塚を軽く睨んだ。
「何度も言ったじゃないですか。」
「〝責任のある立場は自分には重荷でしかありません〟〝平隊員のままで結構です〟って。」
“困り顔”になった塚ではあったものの、
「しかし…、自分が、せめて関東司令官になっておけば、このような事態には繋がらなかったかもしれませんね。」
「三上君を牽制できて……。」
すぐに真剣な表情となったのである。
「ふぅ~む。」
左手で顎髭あごひげを撫でた総監は、
「そうとも限るまい。」
「ま、確かに、関東司令官のポジションに就いたことで、アイツは内部での発言権や影響力を増していった。」
「それによって動きやすくなったのは間違いなかろう。」
「だが…。」
「そうならなかったとしても、〝新世界を創る〟とかいう企ては推し進めただろうよ。」
塚に話しかけた流れで、
「……、その“新世界”とやらが何を意味しているのかまでは知らんが、早いとこ三上を見つけ出して、食い止めねばなるまい。」
「大惨事を引き起こしそうな嫌な予感がしてならん。」
忌々しそうにした。
「…………。」
「それが〝今後について〟の話しでしょうか??」
副総監に質問され、
「あ、いや…。」
「ちと悪いんだが、十四番隊から誰か1人だけ十三番隊に回してもらいたい。」
「抜けた架浦みつうらの穴を埋める為に。」
「どちらの隊も歌舞伎町がテリトリーだからな、無難だろう。」
塚隊長へと視線を送った総監である……。
 
一方その頃。
十三番隊&十四番隊は…、割と盛り上がっていた。
 
 

あれから五日が経っている。
AM07:55あたり、[東京組第十三番隊]の“事務室”にて……。
「本日付けでこちらに配属されました小津間翔こづましょうです!」
「よろしくお願いします!!」
〝ビシッ!〟と敬礼したのは、背丈155㎝くらいの青年であった。
髪は〝金色ショートパーマ〟である。
「こちらこそ、よろしくお願いしますね。」
優しく微笑む沖奈朔任おきなさくと隊長に、
「はい!!」
小津間が元気よく頭を下げた。
この場には、十三番隊の全員が集まっている。
沖奈が、急遽、そういうシフトに組み直したらしい。
「コッズー、おひさぁ~。」
宮瑚留梨花みやこるりかに声をかけられ、
「お久しぶりです!」
小津間が挨拶した。
彼は、先日の“飲み会”に参加していた人物である。
「ようこそ、十三番隊へ。」
歓迎した鐶倖々徠かなわささら副隊長に、
「ありがとうございます!!」
「まだ新人ではありますが、全身全霊で働く所存です!」
小津間が会釈した。
大袈裟おおげさですねぇ。」
「もっと気楽で構いませんよ。」
穏やかに沖奈が伝えたところ、
「いえ、その…。」
「十三番隊への移動を報らされたとき、十四番隊の原城はらき副隊長が〝私と替わりなさい!!〟と騒ぎだしまして……。」
「塚隊長に〝もう決まったことだから〟と却下された途端、暴れようとしたので、数人がかりでなだめた次第です。」
「原城副隊長は、どうにかこうにか落ち着いたんですが、納得はいかなったみたいで…、〝沖奈隊長を煩わせないよう命懸けで尽くせ〟〝さもなければ私が殺す〟と脅されました。」
ふと遠くを見た小津間である。
それに対して、
「あぁー、……、なんか想像つくわ。」
宮瑚もまた目を細めた。
「そんなに十三番隊が好きなのかな?」
こうした意川敏矢いかわとしやの疑問に、
「きっと、そうなんだろう。」
筺健かごまさるが〝うん うん〟と頷く。
更には、
「多くの人から愛される組織というのは良いものですね。」
〝ニコニコ〟しだす沖奈である。
いずれにしろ。
おもいっきり勘違いしている男性陣を余所よそに、原城が配属されなかった事を秘かに安堵する隈本一帆くまもとかずほだった―。
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