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42.嘘と真

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「折角のお誘いだが、断らせてもらう。」
わりぃな。」
〝フッ〟と笑みを浮かべた架浦聖徒みつうらせいんとが、後頭部で両手を組んだまま、
「発動。」
能力を用いた。
まさかの事態に、
「な?!」
全員が驚くなか、急ぎドアを開けた架浦が、廊下に飛び出す。
「発ど」と言いかけた沖奈朔任おきなさくと隊長は、架浦の姿が見えなくなったことで、諦めたようだ。
沖奈のスキルは、対象者を視界に捉えていないと扱えないためである。
「あんにゃろぉ~ッ。」
「すぐに追いかけて、ボッコボコに…、て?」
「あれ??」
「とっくに2秒が過ぎてるはずなのに、動けねぇッ!?」
全身に〝ググググッ〟と力を込めていた緋島早梨衣ひしまさりいが、目を丸くした。
架浦がエレベーターで1階へと向かうなか、
「どうやら、あの人は、能力に関して二つの嘘をいていたみたいですね。」
このように分析した沖奈である。
 
エレベーターを降りて、建物の外へと駆ける架浦は、待機している宇山うやま稲村いなむらの刑事コンビに気づき、
「発動!」
新たにスキルを操った。
それによってストップした二人の眼前を、架浦が左に曲がってダッシュしていく。
「なんだ、これは?!」
「体の自由が利かないッ!!」
宇山に、
「きっと今のヤツですよね?」
「沖奈さんが言ってたのは。」
「どうします!?」
「逃げられちゃいますよ!!」
稲村が、揃って狼狽うろたえるなか、架浦は駐車場へと走っている。
この流れで、スマートキーにて開錠し、車に乗り込んだ架浦は、急いで発進したのであった。
 
事務室にて。
「お、動けるようになった。」
そう呟いた筺健かごまさるが、右の肩を回す。
「架浦さんは、もともと〝効果時間は2秒〟と話していましたが……。」
「体感としては“40秒”といったところでしょう。」
「完全に、してやられましたね。」
眉を軽く段違いにした沖奈が、
「とりあえず、警察の方々に会いましょう。」
隊員を促したのである…。
 
屋外で。
沖奈から経緯いきさつを説明され、
「そういう事でしたか。」
「では、我々は署に戻り次第、彼の捜索を手配します。」
納得して覆面パトカーに乗車した宇山が、稲村の運転で去ってゆく。
「さて。」
「僕らは、事務室に行きましょう。」
「総監に報告しないといけませんしね。」
そのように促す沖奈に、
「不躾ですみませんが……。」
「もしかして、沖奈隊長もリアクション無しで能力を使えるのですか??」
筺が疑問を投げかけた。
「あー、さっきのですか…。」
「隈本さんにだけは教えておいたのですが、もはや、そういう事態ではなくなったので、素直に認めましょう。」
「正解ですよ。」
こう沖奈が返したところ、
「あたしも、スキルについて、黙ってたことがあるっス。」
「……、あたしの場合、リアクションは必要っすけど、タイムリミットは、30秒じゃなく、2分っス。」
緋島が語り、
「俺の火炎も、〝範囲が5Mで、3秒間のみ〟という条件ではなく、〝範囲は10Mで、自分の息が続く限り〟です。」
「やはり、リアクションは必須ですが…。」
筺も述べたのだった。
それらに対し、
「お二人も〝総監の命令で内緒にしていた〟という訳ですか?」
沖奈が確認したら、
「ええ。」
「〝同じ派閥の人間も疑っておけ〟との事でしたので……。」
「ただ、もう、架浦がだったと判明しましたので、隠す理由が無くなりましたが。」
筺が伝え、
「右に同じっス。」
緋島が頷いたのである。
そんな三人に、
「あの。」
「能力って、自在に操作できるんですか??」
まぶたを〝パチクリ〟したのは、当然、隈本一帆くまもとかずほであった。
「ま、根性さえあればなッ!」
誇らしそうな緋島に、
「うむ。」
「世の中の殆どは、気合いでどうにでもなるものだ。」
筺が捕捉する。
「いえいえ、そういうたぐいのものではなく、コツ・・があるんですよ。」
苦笑いした沖奈が、
「こういうのを出来る人たちは、割と限られていますがね。」
このように締め括るのだった…。
 
 

ほぼ同時刻――。
西東京市の某アパートにて。
203号室の玄関を、内側から〝ガチャッ〟と開けて、
「はぁい?」
顔を覗かせたのは、宮瑚留梨花みやこるりかであった。
その正面に、隊服姿の5人組が佇んでいる。
割合は、女性2人に、男性3人みたいだ。
このうちの1人が、
「“東京組第十三番隊の宮瑚留梨花”だな?」
やや高圧的に訊ねたのである。
年齢は30代半ばといったところだろう。
ストレートの黒髪をセミロングにしている女性で、凛々しい印象だった。
「……、アンタらは??」
「どうやら“H.H.S.O”みたいだけど。」
少なからずいぶかしがる宮瑚に、
「“東京組第八十八番隊”だ。」
「お前と、架浦聖徒に、スパイ・・・の容疑が掛かっている。」
「これより、お前には、我々と一緒に地元の警察まで赴いてもらう。」
「架浦の方は、十三番隊の隊長が〝直々に当たる〟とのことだ。」
先程の女性が伝える。
「“さっくんたいちょー”が?」
いまいち状況を呑み込めず〝キョトン〟とする宮瑚ではあったが、
「まぁ、別にいいけど。」
「身に覚えのない事だし…。」
「無実をしょーめぇー証明してやるわよ。」
すぐに真剣な表情となった。
が。
次の瞬間には、
「ただぁーしッ!!」
「着替えたいから、ちょっとだけ待ってくんない??」
〝テヘッ〟と茶目っ気を発揮したのである。
これに、
「……、いいだろう、許可してやる。」
「だが、しかし。」
「妙なマネはするなよ。」
「この周辺は、既に、八十八番隊と刑事の数十名が包囲しているからな。」
「逃亡を図った時点で、一斉攻撃が開始される。」
「そうなれば、お前の安全は保障しきれん。」
冷酷に告げる女性であった。
「りょ。」
簡略して応じた宮瑚は、
「じゃあ、早めに済ませるから、よろぉ~☆」
若干おどけて、扉を〝パタン〟と閉める。
そうして、反転するなり、
「なんか…、マズイことになってない?」
眉間にシワを寄せる宮瑚だった―。
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