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24.新たなミステリー

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翌朝。
寝ぼけまなこで署に出勤してきた40代後半の男性刑事に、
「あ、宇山うやまさん!」
「大変です!!」
岩田いわたさんが遺体で発見されたとの報せがありました。」
30代半ばの後輩男性が驚きを隠せないままに伝えたのである。
「何!?」
「イワさんが??!」
瞬時に眠気が飛んだのであろう宇山が、目を丸くした。
この男は、[俟團組きせんぐみ]の件を担当しているデカだ。
一方の“岩田”は、昨日、架浦聖徒みつうらせいんとを取り調べた男性であった。
別の言い方をするならば、沖奈朔任おきなさくと隊長のことを知り合いかと思って凝視していた50代前半くらいで小太りの刑事である。
「現場は?」
宇山の質問に、
「一週間ほど前に調査した工場です。」
「〝俟團組が危険薬物を生産していたんじゃないか??〟とされている…。」
30代半ばの警察が答えた。
「あー、あの倉庫みたいな所か。」
「だが、あそこには何もなかっただろ。」
「おそらく、連中が証拠隠滅したんだろうが……。」
「なのに、イワさんは、何故そこに?」
「なにかしら気になって、洗い直していたのか??」
首を傾げた宇山が、
「まぁ、とりあえず、行ってみよう。」
後輩を促したのである…。
 
 

敷地には、広めの駐車場と、二階建ての古びたプレハブが存在していた。
1Fは、簡易的なドアと、二つのシャッターが見受けられる。
2Fには、四つの小窓が設けられているようだ。
既に、何人もの警察が集まって、現場検証を行っていた。
 
宇山たちは一階の部屋に足を運んだ。
ちなみに、床も壁もコンクリート造りである。
「お、宇山。」
「来たな。」
話しかけてきたのは、同期の男性刑事だった。
「状況は?」
そう尋ねた宇山に、
「ロープのようもので首を絞められたのと、正面から心臓部をナイフみたいな物で刺された跡がある。」
「犯人は、単独と複数、両方の可能性があるという訳だ。」
「第一発見者は今朝がた清掃に訪れた管理人で、イワさんは、そこ・・に倒れていたらしい。」
相手が述べる。
宇山が同期の視線を辿ったところ、何かしら・・・・にブルーシートが被されていた。
近づいて、左膝を着いた宇山が、右手でシートをめくり、
「間違いなくイワさんだな。」
眉間に軽くシワを寄せる。
「死亡推定時刻は、昨夜から早朝に掛けてか??」
宇山に確認されて、
「それが…。」
「検視官によれば、五日ぐらい経っているらしい。」
同期が渋い顔で返す。
「は?!」
「イワさんとは、昨日、会ったばかりだぞ。」
宇山が眉をひそめ、
「俺もだよ。」
男の表情が一層に厳しくなった。
「どうなってんだ?」
「イワさんが、この世に二人いるわけではないだろうし……。」
「双子??」
「或いは、そっくりな別人、とか?」
疑問を投げかけた宇山に、
「いや、そういう線は無い。」
「遺留品の警察手帳や免許証などは、どれも本人の物だったからな。」
「ただ…、スマホだけは見当たらなかったんで、イワさんの番号に何度となく電話してみたんだが、全くもって繋がらなかった。」
「きっと、犯人が持ち去ったうえに破壊したんだろう。」
相手が説明する。
「だとしたら、ここ数日、俺たちと接触していたほう偽者・・ってことか。」
「……、じゃあ、一体、あのイワさんは、誰だったんだ??」
混乱気味の宇山に、
「ま、司法解剖が済めば、より詳しいことが判明するだろうよ。」
このように告げる同期であった…。
 
 

その頃、[H.H.S.O 東京組第十三番隊]の“事務室”では、
「――、と、まぁ、そういうことがあったんだけど。」
「どぉよ? くまりん。」
「最低じゃなぁい??」
ギャルの宮瑚留梨花みやこるりかが、昨日の出来事を隈本一帆くまもとかずほに教えた流れで、感想を求めている。
「はい。」
「職場の同僚を庇うどころか、売り渡すとは、人として、あり得ません。」
クールビューティーたる一帆が〝キッパリ〟と口にしたら、
「いやいや。」
「だーかーらー、全員の容疑を晴らそうとしただけなんだよ、オレは。」
「誤解を与えちまったことは、きちんと謝っただろ。」
「で。」
「緋島が許してくれた事によってチャラになったんだから、蒸し返すなよ、もぉう。」
白人ハーフの架浦が、困り顔になった。
「そうなんですか?」
一帆に訊かれて、
「んー、まぁな。」
頷いた元ヤンたる緋島早梨衣ひしまさりいが、
「けど、次は容赦しねぇから、覚えとけよ。」
架浦に念を押す。
「分かってるって。」
「神に誓って、二度と面倒ごとは起こさねぇよ。」
“祈りのポーズ”みたいに指を組んで、天井を仰いだ架浦に、
「なんか嘘くさいぞ。」
「お前は信用できん。」
黒人クォーターの筺健かごまさるが、ツッコんだ。
「ちょっ、マジ、筺さんまで手厳しいっすよ。」
「皆、オレに冷たすぎじゃねぇ~??」
架浦が不服そうにしたところで、〝ドッ!〟と笑いが生じたのである。
こういったディスクルームの光景に〝クスクス〟しているのは、沖奈朔任おきなさくと隊長だった……。
 
 

ほぼ同時刻。
都内に在る某高級ホテルの、エレベーター前に、ゲーマーたる意川敏矢いかわとしやが訪れていたのである。
その左隣から、
「おはよう、意川くん。」
「丁度だったみたいね。」
丸メガネの鐶倖々徠かなわささら副隊長が、歩いて来ていた。
「ちわっす。」
会釈した意川が、〝はぁー〟と溜息をく。
「…、嫌そうにしてるわね。」
察した鐶に、
「わざわざ休みの日に呼び出さなくてもいいと思いません?」
意川が述べる。
「ま、私達が揃って自由に動けるのと、副総監のスケジュールが合うのが、あまり無いからでしょ。」
「文句があるなら、直接、言ったら??」
鐶に指摘され、
「遠慮しときます。」
おもいっきり視線を逸らす意川であった。
 
スイートルームに入った二人を、案内しているのは、背丈が165㎝くらいで、黒髪セミロングの、二十代前半の女性である。
レディーススーツ姿であることからして、秘書なのだろう。
彼女の先導によって、鐶副隊長と意川は、シャレた雰囲気の[応接室]に赴いた。
ここで待っていたのは、身長170㎝といった感じで、ショートヘアーをベージュアッシュカラーに染めている女性である。
年齢は30代半ばであろう。
“イケメン女子”といった印象で、隊服を着用している。
「やあ、おはよう。」
「休日だというのに、すまないな。」
穏やかに告げた彼女に、
「おはようございます。」
鐶と、
「どうもっす。」
意川が、お辞儀した。
そこから、頭を上げた意川が〝キョロ キョロ〟して、
「副総監は、いつも、こういう所で生活しているんですか?」
何気なく質問したのである。
「いや、たまに利用しているぐらいだよ。」
「今日は、君たちに会うために、急遽、秘書に部屋を取ってもらったのさ。」
「“本部”だと、周囲の目があるからな。」
このように答え、
「ま、座りたまえ。」
二人に勧める“副総監”だった―。
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