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20.慕情
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二日が経っている。
昨夜も妖魔が出現したが、“小規模”だったので、そこまで厳しい戦闘にはならず、勝利することが出来た。
本日は、鐶倖々徠副隊長と筺健が休みである。
AM08:00過ぎ。
自分のディスク席で、報告書に目を通したギャルの宮瑚留梨花が、
「そんな事があったんだぁー。」
「……、この、きせんぐみ?」
「どこに行ったんだろーね??」
疑問を口にしたところ、
「未だ警察の方から連絡がないようですので、今も不明です。」
対面の隈本一帆が首を横に振った。
これらが聞こえたらしいゲーマーの意川敏矢が、
「何それ?」
「反社??」
宮瑚の背後から尋ねる。
「ん。」
「これ。」
宮瑚が資料を渡し、
「どれどれ。」
「……………………。」
黙読した意川が、
「〝そういうスキル、もしくは内通者の可能性あり〟か…。」
「うぅ~ん。」
「確かに奇妙だね。」
感想を述べた。
そんな意川の正面の席である緋島早梨衣が、
「あれから、なんか仕入れてないのかよ、情報。」
「居酒屋だっけ?」
「そこの大将から。」
自身の後ろに座っている架浦聖徒に訊いたら、
「あー、その、なんだ…。」
「こないだ行ってみたら改装中だった。」
「営業を再開するまで割と掛かりそうだから、暫くは無理だな。」
との事だ。
「……、マジ、役に立たねぇー。」
辛辣な緋島に、
「いや、さすがにオレの所為じゃないだろッ。」
架浦が不機嫌になる。
両者が険悪な雰囲気になりかけたところ、
「はい! そこまで!!」
「各自、私語は止めて、業務に集中してください。」
離れた位置から沖奈朔任隊長が注意した。
これに、
「うっス。」
緋島が軽く頭を下げ、
「へーい。」
架浦が肩の力を抜く。
そういった二人の様子に、宮瑚と意川が〝クスクス〟笑うなか、
(そういうところも素敵♡)
人知れず沖奈に〝キュン キュン〟する一帆であった…。
▼
AM09:00頃。
見廻りに赴く宮瑚&一帆が、1階でエレベーターを降りる。
廊下を歩きながら、
「くまりぃ~ん。」
「一昨日の“さっくんたいちょー”とのデート、どーだったぁ~??」
宮瑚が窺ったところ、
「はい?」
一帆が眉をひそめた。
「だって、一緒にパトロールしたんでしょ??」
「途中で“きせんぐみ”のチンピラに邪魔されたみたいだけど。」
こう述べた宮瑚に、
「いえ、巡回は仕事の一環ですので。」
一帆が〝サラッ〟と返す。
しかし、
「いやいやぁ~。」
「二人っきりってことは、もはやデートだよ。」
「それは。」
宮瑚の指摘によって、今更ながらに意識してしまったらしく、〝ボッ!〟と顔を赤くして、右側の壁に〝ゴンッ!!〟と頭突きした一帆が、そのままの姿勢でフリーズしたのである。
「あ、うん。」
「なんか……、ごめんね。」
宮瑚が少なからず引きつつ謝ったら、平静さを取り戻した一帆が壁から離れ、
「何がでしょうか?」
「私は、ただ単に、虫に反応しただけですが??」
いつもどおり毅然と誤魔化したのだ。
「またま…」と、反論しようとしたものの、〝ハッ!〟として、
(メンドくさくなるパターンだ、これは。)
すぐに思い直し、
「だよねぇー。」
「“くまりん”が正しいよぉ~。」
作り笑いをするほかない宮瑚だった……。
▼
[明治通り]へと向かう道中にて。
「そう言やさぁー。」
「くまりんって、なんで、〝さっくんたいちょーLOVE〟になったの?」
宮瑚が何気なく質問したのである。
いきなりの直球に、
「え?!」
「あ、いえ、その、あの…。」
アタフタする一帆ではあったが、右手を胸に当て〝すぅ―、はぁ―〟と呼吸を整え、
「私は、もともと、“可愛い系”に愛おしさを感じる性質のようでして……、〝自分には似合わない〟とは知りながらも、そういったキャラクターグッズなどを、子供の時から集めていたりするのです。」
「そういう私にとって、〝沖奈隊長は好みのタイプである〟と、認めざるを得ません。」
「ただ…、やはり、三年ほど前の事が、私の内では大きいみたいです。」
そのように告げた。
「あぁー、“くまりん”が“さっくんたいちょー”に初めて会ったとかいうやつだっけ??」
「それって、どんな状況だったの?」
なおも宮瑚が興味を示したら、
「実はですね……。」
あの日のことを一帆が語りだしたのである。
▼▽▼▽
中学を卒業して間もない春休みに、一帆は、三人の女友達と[下北沢]に遊びに来ていた。
別に用があった訳ではない。
なんとなく“街ブラ”を楽しんでいたのだそうだ。
15歳だった一帆は、〝黒髪ショート〟で、現在よりも身長が7㎝ぐらい低かった。
ちなみに、コーディネートは、ホワイトの長袖ワイシャツ/ペールアプリコット色でVネックのベスト/ジーンズ/黒白のツートンカラーといったハイカットスニーカー、である。
顔立ちには幼さが残っているものの、既に、凛とした印象だ。
ともあれ。
午前十時半ごろに、
〝ビィ――ッ!! ビィ――ッ!! ビィ――ッ!! ビィ――ッ!!〟という警報音が鳴り響き、
『もうすぐ“時空の歪”が発生し、妖魔が出現します。』
『大規模となりますので、近隣の方は避難してください。』
『予測される場所は――。』
“機械的な女性の声”でのアナウンスが聞こえてきたのである。
今でこそ、歪が現れるのを5分前には感知できるようになっているが、当時は、まだ、ここまでの性能が無かったので、直近の情報を掴むのが限界だったらしい。
いずれにしろ。
「私、ちょっと行ってくるから、皆は安全な場所に避難しておいて。」
友人らに声をかけた一帆が、南から北へと走りだしたのであった―。
昨夜も妖魔が出現したが、“小規模”だったので、そこまで厳しい戦闘にはならず、勝利することが出来た。
本日は、鐶倖々徠副隊長と筺健が休みである。
AM08:00過ぎ。
自分のディスク席で、報告書に目を通したギャルの宮瑚留梨花が、
「そんな事があったんだぁー。」
「……、この、きせんぐみ?」
「どこに行ったんだろーね??」
疑問を口にしたところ、
「未だ警察の方から連絡がないようですので、今も不明です。」
対面の隈本一帆が首を横に振った。
これらが聞こえたらしいゲーマーの意川敏矢が、
「何それ?」
「反社??」
宮瑚の背後から尋ねる。
「ん。」
「これ。」
宮瑚が資料を渡し、
「どれどれ。」
「……………………。」
黙読した意川が、
「〝そういうスキル、もしくは内通者の可能性あり〟か…。」
「うぅ~ん。」
「確かに奇妙だね。」
感想を述べた。
そんな意川の正面の席である緋島早梨衣が、
「あれから、なんか仕入れてないのかよ、情報。」
「居酒屋だっけ?」
「そこの大将から。」
自身の後ろに座っている架浦聖徒に訊いたら、
「あー、その、なんだ…。」
「こないだ行ってみたら改装中だった。」
「営業を再開するまで割と掛かりそうだから、暫くは無理だな。」
との事だ。
「……、マジ、役に立たねぇー。」
辛辣な緋島に、
「いや、さすがにオレの所為じゃないだろッ。」
架浦が不機嫌になる。
両者が険悪な雰囲気になりかけたところ、
「はい! そこまで!!」
「各自、私語は止めて、業務に集中してください。」
離れた位置から沖奈朔任隊長が注意した。
これに、
「うっス。」
緋島が軽く頭を下げ、
「へーい。」
架浦が肩の力を抜く。
そういった二人の様子に、宮瑚と意川が〝クスクス〟笑うなか、
(そういうところも素敵♡)
人知れず沖奈に〝キュン キュン〟する一帆であった…。
▼
AM09:00頃。
見廻りに赴く宮瑚&一帆が、1階でエレベーターを降りる。
廊下を歩きながら、
「くまりぃ~ん。」
「一昨日の“さっくんたいちょー”とのデート、どーだったぁ~??」
宮瑚が窺ったところ、
「はい?」
一帆が眉をひそめた。
「だって、一緒にパトロールしたんでしょ??」
「途中で“きせんぐみ”のチンピラに邪魔されたみたいだけど。」
こう述べた宮瑚に、
「いえ、巡回は仕事の一環ですので。」
一帆が〝サラッ〟と返す。
しかし、
「いやいやぁ~。」
「二人っきりってことは、もはやデートだよ。」
「それは。」
宮瑚の指摘によって、今更ながらに意識してしまったらしく、〝ボッ!〟と顔を赤くして、右側の壁に〝ゴンッ!!〟と頭突きした一帆が、そのままの姿勢でフリーズしたのである。
「あ、うん。」
「なんか……、ごめんね。」
宮瑚が少なからず引きつつ謝ったら、平静さを取り戻した一帆が壁から離れ、
「何がでしょうか?」
「私は、ただ単に、虫に反応しただけですが??」
いつもどおり毅然と誤魔化したのだ。
「またま…」と、反論しようとしたものの、〝ハッ!〟として、
(メンドくさくなるパターンだ、これは。)
すぐに思い直し、
「だよねぇー。」
「“くまりん”が正しいよぉ~。」
作り笑いをするほかない宮瑚だった……。
▼
[明治通り]へと向かう道中にて。
「そう言やさぁー。」
「くまりんって、なんで、〝さっくんたいちょーLOVE〟になったの?」
宮瑚が何気なく質問したのである。
いきなりの直球に、
「え?!」
「あ、いえ、その、あの…。」
アタフタする一帆ではあったが、右手を胸に当て〝すぅ―、はぁ―〟と呼吸を整え、
「私は、もともと、“可愛い系”に愛おしさを感じる性質のようでして……、〝自分には似合わない〟とは知りながらも、そういったキャラクターグッズなどを、子供の時から集めていたりするのです。」
「そういう私にとって、〝沖奈隊長は好みのタイプである〟と、認めざるを得ません。」
「ただ…、やはり、三年ほど前の事が、私の内では大きいみたいです。」
そのように告げた。
「あぁー、“くまりん”が“さっくんたいちょー”に初めて会ったとかいうやつだっけ??」
「それって、どんな状況だったの?」
なおも宮瑚が興味を示したら、
「実はですね……。」
あの日のことを一帆が語りだしたのである。
▼▽▼▽
中学を卒業して間もない春休みに、一帆は、三人の女友達と[下北沢]に遊びに来ていた。
別に用があった訳ではない。
なんとなく“街ブラ”を楽しんでいたのだそうだ。
15歳だった一帆は、〝黒髪ショート〟で、現在よりも身長が7㎝ぐらい低かった。
ちなみに、コーディネートは、ホワイトの長袖ワイシャツ/ペールアプリコット色でVネックのベスト/ジーンズ/黒白のツートンカラーといったハイカットスニーカー、である。
顔立ちには幼さが残っているものの、既に、凛とした印象だ。
ともあれ。
午前十時半ごろに、
〝ビィ――ッ!! ビィ――ッ!! ビィ――ッ!! ビィ――ッ!!〟という警報音が鳴り響き、
『もうすぐ“時空の歪”が発生し、妖魔が出現します。』
『大規模となりますので、近隣の方は避難してください。』
『予測される場所は――。』
“機械的な女性の声”でのアナウンスが聞こえてきたのである。
今でこそ、歪が現れるのを5分前には感知できるようになっているが、当時は、まだ、ここまでの性能が無かったので、直近の情報を掴むのが限界だったらしい。
いずれにしろ。
「私、ちょっと行ってくるから、皆は安全な場所に避難しておいて。」
友人らに声をかけた一帆が、南から北へと走りだしたのであった―。
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