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9.バレバレ

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翌日――。
緋島早梨衣ひしまさりい意川敏矢ひかわとしやは、シフト上、休みであった。
AM09:00に、鐶倖々徠たまきささら副隊長&架浦聖徒みつうらせいんとがパトロールに出掛けたのである。
 
約10分後に筺健かごまさるが、
「すみません、隊長。」
「今日、寝坊してしまって、朝から何も食べていないため、腹が減りすぎて仕事に集中できないので、下にパンでも買いに行っていいでしょうか?」
このように伺い、
「ええ、構いませんよ。」
沖奈朔任おきなさくとが〝ニッコリ〟しながら許可した。
 
また少しだけ時が経ち、〝スッ〟と立ち上がった沖奈が、一枚の用紙を片手に、扉へと歩きつつ、
「筺さんに用事があるので、ちょっとだけ外します。」
「おそらく、今頃は“休憩室”に居らっしゃるでしょうから。」
「お二人も適当に休んでくださいね。」
笑顔で伝え、
「はぁ~い。」
宮瑚留梨花みやこるりかと、
「はい、了解しました。」
隈本一帆くまもとかずほが、それぞれにディスク席から答えたのである。
ドアから出ていく朔任を、一帆が目で追う。
〝ピン!!〟ときた宮瑚に、
「くまりぃ~ん。」
呼ばれた一帆が、正面を向き直したところ、
「もしかして…、“さっくんたいちょー”にしちゃってるぅ~?」
こう尋ねられたのだった。
その指摘に〝ボッ!〟と顔を真っ赤にした一帆が、自身の机に〝ズドンッ!!〟と頭突きをかます。
予想していなかった一帆のリアクションに、
「いっ?!」
留梨花は引いてしまったようだ。
顔を上げた一帆が、
「失礼しました。」
「虫がいたものでして。」
何事もなかったかのように述べる。
「いや、くまりん、おでこに紙が貼り付いちゃってるよ。」
宮瑚に教えられ、これ・・を剥がした一帆が、
「コピーしますので。」
起立して、機材が置かれている場所へと足を運ぶ。
その最中に、
「そっかぁ~。」
「くまりんは、“さっくんたいちょーLOVEラブ”なのかぁ。」
留梨花に再び言われた一帆が、仰向けで〝バタン!〟と倒れた。
「ちょっ、くまりん!?」
「大丈夫?!」
ビックリして席から立った宮瑚に対して、平然と起きた一帆が、
「バナナの皮に滑ってしまったようで、お騒がせしました。」
ポーカーフェイスで告げる。
「ん??」
「そんなもの、落ちてなかったみたいだけど?」
留梨花が首を傾げ、
「何処かに飛んでいったようですね。」
一帆が視線を逸らす。
「いやいやぁ~、最初っから無かったっしょー。」
〝ニヤニヤ〟する宮瑚の方を見た一帆が、
「ありましたよ。」
眉ひとつ動かさず返した。
宮瑚が改めて「いや」と否定しようとしたら、
「あったんです。」
くい気味の一帆に打ち消されてしまったのである。
更に、一帆による無言の圧を受けた留梨花は、
「あー、うん。」
「だよねぇ~。」
耐えきれず屈してしまうのであった。
 
 
[休憩室]にて。
沖奈隊長より渡された報告書をチェックしていた健が、
「確かに、書き間違えていましたね。」
「あとで修正しておきます。」
こう述べる。
「ええ、よろしくお願いします。」
朔任が微笑んだタイミングで、〝ビィ――ッ!! ビィ――ッ!! ビィ――ッ!!ビィ――ッ!!〟という警報音が鳴り響き、
『およそ5分後に“時空のひずみ”が発生し、妖魔が出現します。』
『中規模となりますので、近隣の方は避難してください。』
『予測される場所は――。』
“機械的な女性の声”での放送がなされていく。
「すぐそこみたいですね。」
筺が険しい表情となり、
「ええ、鐶さんと架浦さんは離れた位置にいるでしょうから、僕たちが戦いましょう。」
沖奈が冷静に起立した……。
 
 

ビルから東へ徒歩3分ぐらいの所に、四人が訪れている。
道路では、人間やアンドロイドの警察が、交通整理していた。
自身の腕時計を確認しつつ、
「そろそろですね。」
朔任が知らせる。
その数秒後に、10個の【時空の歪】が路上に現れた。
これら・・・から〝ゾロゾロ〟と出てきたのは、“一本角の猿”である。
どの妖魔も、背丈が90㎝前後で、僧侶の袈裟けさみたいな服装に、薙刀なぎなたを所持しているようだ。
計200体が登場したところで、【時空の歪】が消えた。
30Mほど西に離れた地点で、
「“猿鬼さるおに”ですか…。」
「なかなか厄介ですね。」
朔任が目を細めている。
次の瞬間、敵どもが獲物・・へと走りだした。
連中は、猿なだけあって、割と速い。
「宮瑚さん!」
沖奈に名を呼ばれて、
「りょ!!」
簡略的に応じたギャルが、左手で自分の顎に触れながら、
「はつどぉー!」
そう唱えるなり、猿鬼らが霧に包まれたのである。
すると、敵たちが、途端に同士討ちを始めたのだった。
「え?」
不思議がる一帆を余所よそに、自身の耳たぶを右手でつまみ、
「発動。」
呟いた健が、〝すぅ――ッ〟と息を吸った流れで、口から〝ゴォォォォ!!〟と[火炎]を吐いたのである。
ほむらによって焼かれた妖魔の5匹が黒焦げになり、灰と化す。
このタイミングで、我に返った鬼猿たちが、再び駆け始めた。
しかし、
「はつどぉうッ!」
宮瑚による二度目の霧にて、敵の集団が何かに怯えたかの如く〝キィッ!! キィッ!! キィッ!! キィッ!!〟と慌てふためきだしたのである。
「くまりん!」
「あーしのは〝いろんな幻覚を5秒だけ見せる〟てスキルだよ!!」
「内容までは、あーしには分からないけど!」
留梨花が急ぎ説明するなか、またしても妖魔らが正気に戻ったみたいだ。
「成程です。」
理解を示し、
「発動。」
両拳を〝コツン〟と合わせた一帆が、かなりのスピードでダッシュして、敵の群れを蹴散らしていく。
「おおー!!」
「すっご……。」
話しに聞いていたとはいえ、一帆の戦闘力の高さに、宮瑚が驚く。
その近くでは、腰からピストルを抜いた朔任が射撃を行い、筺が炎を放っていた―。
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