竜公子の花嫁

arisawa

文字の大きさ
上 下
5 / 12
第一章

4.花嫁選びは謎に包まれたまま

しおりを挟む
 目の前に、切り立った断崖がそびえ立つ。
その断崖に、ぽっかりと大きく口を開いた洞窟は、奥行きがあるのか、奥の方は漆黒の闇に包まれ見通せない。
 従者と護衛騎士はこの先に入ることは許されないのか、レイモンド一人が一歩踏み出すことができた。
「お前達はここで待て」
 そう言いながら、レイモンドは躊躇することなく、奥へと足を進めていく。
 奥へ進めば進むほど、静謐な雰囲気に包み込まれていくように感じていたが、やかて辿り着いた大きな空間は、ピンと張り詰めたような清浄な空気に満たされ、知らず知らず襟を正すように、背筋を伸ばして双竜の前に佇んでいた。
 
 もっと巨大だと思っていたが、実際に目の前にいる双竜は、いずれも、三メートルくらいの背丈だったけれど、こちらを見下ろすように向けてくる眼光は鋭く、油断しているとあっという間に蹴散らされそうで、レイモンドは全身を強張らせてしまう。

 暫くの間、無言で見つめ合っていたが、先に動いたのは、赤竜だった。
『人に会うのは久方ぶりなこと』 
 そう言いながら、赤竜はレイモンドの顔を覗き込むように、顔をこちらへと向けてくる。
 ライアンはとっさに、片膝を付き、頭を垂れると、
「私は、ライアン・フォン・ルーベンスが一子、レイモンド・フォン・ルーベンスだ、あなた方に教えを請うべく伺いました」
『いくら血の誓約を交わしているとはいえ、僅かな供だけでやってくるなんて、貴方は慎重なライアンよりも、行動力のあるアンナマリアに似ているようね』
 赤竜の表情を窺い知ることはできなかったけれど、その口調にどこか面白がっているようなニュアンスを感じ取る。
 その言葉に、両親たちが思っていた以上に、双竜と交流をもっていることを察することができたが、尊敬する父王ではなく、母親に似ていると云われたことに、なんとも言い難いものを感じていたレイモンドは、答に窮していた。
 そんな、レイモンドに、今度は白竜が問いかけてくる。
『ライアンとアンナマリアは健勝かな?』
「はい、二人とも元気に過ごしております」
『それは重畳なこと。では、ここにきたのは花嫁選びの件かな?』
 赤竜とは違うが、やはり、白竜の言葉の端にも楽しげなニュアンスを感じた。

「はい、どのように花嫁が選ばれるのか、教えを請いに参りました」

『残念ながら、それは教えられぬ』
「何故ですか? 私自身の花嫁なのですよ?」
『言い方が悪かったな、教えられぬではなく、教えることが叶わぬのだ』
「…………」
『未来というものは、たった一人の言動や行動によって変化し、無数の未来があるのだ……今、私がお前の花嫁を教えたとしても、この後のお前の行動で、言動で如何様にも変化する可能性があるのだ。言うなれば、お前自身の行動が、お前の花嫁を決めることになる』
「私の行動次第だと?」
『そうだ。実際、お前が今行動していることで、すでに未来は変わっているかもしれない』
「…………」
『考えろ、次代のルーベンス国王よ。お前の言動も行動も責任が伴うものなのだから。未来のお前の花嫁も同じだ。見極めろ、自身の目で、私達はそれに答えをだすだけだ――』
『貴方がどんな答えを出すのか……楽しみにしているわ』

 双竜は、そう告げると、レイモンドを一瞬のうちに、洞窟の入口へと移動させ、先ほどまで開かれていた洞窟は、すでに扉の合わせ目も分からぬ程に閉ざされてしまっていた。

 レイモンドは双竜の言葉を心の中で反芻しながら、王都へと戻るのだった。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側室は…私に子ができない場合のみだったのでは?

ヘロディア
恋愛
王子の妻である主人公。夫を誰よりも深く愛していた。子供もできて円満な家庭だったが、ある日王子は側室を持ちたいと言い出し…

夫の幼馴染が毎晩のように遊びにくる

ヘロディア
恋愛
数年前、主人公は結婚した。夫とは大学時代から知り合いで、五年ほど付き合った後に結婚を決めた。 正直結構ラブラブな方だと思っている。喧嘩の一つや二つはあるけれど、仲直りも早いし、お互いの嫌なところも受け入れられるくらいには愛しているつもりだ。 そう、あの女が私の前に立ちはだかるまでは…

陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました

夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、 そなたとサミュエルは離縁をし サミュエルは新しい妃を迎えて 世継ぎを作ることとする。」 陛下が夫に出すという条件を 事前に聞かされた事により わたくしの心は粉々に砕けました。 わたくしを愛していないあなたに対して わたくしが出来ることは〇〇だけです…

婚約者の座は譲って差し上げます、お幸せに

四季
恋愛
婚約者が見知らぬ女性と寄り添い合って歩いているところを目撃してしまった。

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...