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第一章
4.花嫁選びは謎に包まれたまま
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目の前に、切り立った断崖がそびえ立つ。
その断崖に、ぽっかりと大きく口を開いた洞窟は、奥行きがあるのか、奥の方は漆黒の闇に包まれ見通せない。
従者と護衛騎士はこの先に入ることは許されないのか、レイモンド一人が一歩踏み出すことができた。
「お前達はここで待て」
そう言いながら、レイモンドは躊躇することなく、奥へと足を進めていく。
奥へ進めば進むほど、静謐な雰囲気に包み込まれていくように感じていたが、やかて辿り着いた大きな空間は、ピンと張り詰めたような清浄な空気に満たされ、知らず知らず襟を正すように、背筋を伸ばして双竜の前に佇んでいた。
もっと巨大だと思っていたが、実際に目の前にいる双竜は、いずれも、三メートルくらいの背丈だったけれど、こちらを見下ろすように向けてくる眼光は鋭く、油断しているとあっという間に蹴散らされそうで、レイモンドは全身を強張らせてしまう。
暫くの間、無言で見つめ合っていたが、先に動いたのは、赤竜だった。
『人に会うのは久方ぶりなこと』
そう言いながら、赤竜はレイモンドの顔を覗き込むように、顔をこちらへと向けてくる。
ライアンはとっさに、片膝を付き、頭を垂れると、
「私は、ライアン・フォン・ルーベンスが一子、レイモンド・フォン・ルーベンスだ、あなた方に教えを請うべく伺いました」
『いくら血の誓約を交わしているとはいえ、僅かな供だけでやってくるなんて、貴方は慎重なライアンよりも、行動力のあるアンナマリアに似ているようね』
赤竜の表情を窺い知ることはできなかったけれど、その口調にどこか面白がっているようなニュアンスを感じ取る。
その言葉に、両親たちが思っていた以上に、双竜と交流をもっていることを察することができたが、尊敬する父王ではなく、母親に似ていると云われたことに、なんとも言い難いものを感じていたレイモンドは、答に窮していた。
そんな、レイモンドに、今度は白竜が問いかけてくる。
『ライアンとアンナマリアは健勝かな?』
「はい、二人とも元気に過ごしております」
『それは重畳なこと。では、ここにきたのは花嫁選びの件かな?』
赤竜とは違うが、やはり、白竜の言葉の端にも楽しげなニュアンスを感じた。
「はい、どのように花嫁が選ばれるのか、教えを請いに参りました」
『残念ながら、それは教えられぬ』
「何故ですか? 私自身の花嫁なのですよ?」
『言い方が悪かったな、教えられぬではなく、教えることが叶わぬのだ』
「…………」
『未来というものは、たった一人の言動や行動によって変化し、無数の未来があるのだ……今、私がお前の花嫁を教えたとしても、この後のお前の行動で、言動で如何様にも変化する可能性があるのだ。言うなれば、お前自身の行動が、お前の花嫁を決めることになる』
「私の行動次第だと?」
『そうだ。実際、お前が今行動していることで、すでに未来は変わっているかもしれない』
「…………」
『考えろ、次代のルーベンス国王よ。お前の言動も行動も責任が伴うものなのだから。未来のお前の花嫁も同じだ。見極めろ、自身の目で、私達はそれに答えをだすだけだ――』
『貴方がどんな答えを出すのか……楽しみにしているわ』
双竜は、そう告げると、レイモンドを一瞬のうちに、洞窟の入口へと移動させ、先ほどまで開かれていた洞窟は、すでに扉の合わせ目も分からぬ程に閉ざされてしまっていた。
レイモンドは双竜の言葉を心の中で反芻しながら、王都へと戻るのだった。
その断崖に、ぽっかりと大きく口を開いた洞窟は、奥行きがあるのか、奥の方は漆黒の闇に包まれ見通せない。
従者と護衛騎士はこの先に入ることは許されないのか、レイモンド一人が一歩踏み出すことができた。
「お前達はここで待て」
そう言いながら、レイモンドは躊躇することなく、奥へと足を進めていく。
奥へ進めば進むほど、静謐な雰囲気に包み込まれていくように感じていたが、やかて辿り着いた大きな空間は、ピンと張り詰めたような清浄な空気に満たされ、知らず知らず襟を正すように、背筋を伸ばして双竜の前に佇んでいた。
もっと巨大だと思っていたが、実際に目の前にいる双竜は、いずれも、三メートルくらいの背丈だったけれど、こちらを見下ろすように向けてくる眼光は鋭く、油断しているとあっという間に蹴散らされそうで、レイモンドは全身を強張らせてしまう。
暫くの間、無言で見つめ合っていたが、先に動いたのは、赤竜だった。
『人に会うのは久方ぶりなこと』
そう言いながら、赤竜はレイモンドの顔を覗き込むように、顔をこちらへと向けてくる。
ライアンはとっさに、片膝を付き、頭を垂れると、
「私は、ライアン・フォン・ルーベンスが一子、レイモンド・フォン・ルーベンスだ、あなた方に教えを請うべく伺いました」
『いくら血の誓約を交わしているとはいえ、僅かな供だけでやってくるなんて、貴方は慎重なライアンよりも、行動力のあるアンナマリアに似ているようね』
赤竜の表情を窺い知ることはできなかったけれど、その口調にどこか面白がっているようなニュアンスを感じ取る。
その言葉に、両親たちが思っていた以上に、双竜と交流をもっていることを察することができたが、尊敬する父王ではなく、母親に似ていると云われたことに、なんとも言い難いものを感じていたレイモンドは、答に窮していた。
そんな、レイモンドに、今度は白竜が問いかけてくる。
『ライアンとアンナマリアは健勝かな?』
「はい、二人とも元気に過ごしております」
『それは重畳なこと。では、ここにきたのは花嫁選びの件かな?』
赤竜とは違うが、やはり、白竜の言葉の端にも楽しげなニュアンスを感じた。
「はい、どのように花嫁が選ばれるのか、教えを請いに参りました」
『残念ながら、それは教えられぬ』
「何故ですか? 私自身の花嫁なのですよ?」
『言い方が悪かったな、教えられぬではなく、教えることが叶わぬのだ』
「…………」
『未来というものは、たった一人の言動や行動によって変化し、無数の未来があるのだ……今、私がお前の花嫁を教えたとしても、この後のお前の行動で、言動で如何様にも変化する可能性があるのだ。言うなれば、お前自身の行動が、お前の花嫁を決めることになる』
「私の行動次第だと?」
『そうだ。実際、お前が今行動していることで、すでに未来は変わっているかもしれない』
「…………」
『考えろ、次代のルーベンス国王よ。お前の言動も行動も責任が伴うものなのだから。未来のお前の花嫁も同じだ。見極めろ、自身の目で、私達はそれに答えをだすだけだ――』
『貴方がどんな答えを出すのか……楽しみにしているわ』
双竜は、そう告げると、レイモンドを一瞬のうちに、洞窟の入口へと移動させ、先ほどまで開かれていた洞窟は、すでに扉の合わせ目も分からぬ程に閉ざされてしまっていた。
レイモンドは双竜の言葉を心の中で反芻しながら、王都へと戻るのだった。
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