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第6章 春到来
第127話 打撃のチーム
しおりを挟む「次の相手、決まったな」
宿舎にてTVで次戦の相手の試合を見ていた。
16-7とゴリゴリの打撃戦を制して上がってきたのは、鹿児島の神町高校。
「相手が21世紀枠で出てきたチームとはいえ、16点か。打撃偏重のチームなんだろうなぁ」
「守備は悪く無いんだけどね。エースっていうエースが居ないから点は取られる。それを上回る打撃力でのし上がってきたって感じかな」
7点取られてるもんな。次の試合の投手はさぞかし大変だろう。俺が先発だけど。
「って事は何か? 次の試合は打撃戦になるとでも? ありえないね」
「とことん相手を見下してるよね。それがいつも良い方に作用してるから、なんとも言えないんだけど」
「見下してるとは人聞きが悪い。自信に満ち溢れてるだけ。俺は大体の相手はリスペクトしてる」
「似た様なもんでしょ」
うーん、ネットでエゴサしてみても、次は打撃戦になるのが大方の予想になってるなぁ。
って事はだよ。俺が次の試合、完封15奪三振ぐらいしたら評価爆上がりでは?
打撃のチームを完璧に抑える。ついでに野次馬も黙らせられる。言う事無しじゃん。
「ふはははは! 見えた! 豹馬フィーバーの道筋がくっきりと! テンション上がってきたー!」
「そのメンタル、ほんと羨ましいよ」
お前はビビりすぎなんだよ。
世界一になる予定の投手の女房役なんだぞ?
もっと自信を持って欲しいね。
☆★☆★☆★
神町高校は初戦の相手を下した後、早速次戦の相手の龍宮高校の分析に移っていた。
「こんチームも打撃重視け?」
「んにゃ、ピッチャーも良かど」
「今、監督んツテで東京秋季大会決勝ん映像を取り寄せよる所じゃ。まちっと待ってくれ」
センバツ一回戦の龍宮高校の試合を見ていたが、エースの三井はかなりの好投手だと、神町ナインは警戒していた。
更に、自分達に匹敵するんじゃないかというレベルのバッティング。
初出場という事で舐めていたが、これは気持ちを引き締めなければならない。
そう思っていた所で、監督が新たに映像を持って来る。先程言っていた、東京秋季大会決勝の映像だ。そして、見る前に監督がどこか青褪めた様な表情で選手達に告げる。
「映像、先に見させてもらったけど心して見てくれよ。エースナンバーは一回戦で投げてた三井なんだろうが、実力的にはこの15番でもおかしくないぞ」
そして、試合映像を流す。
どうやって三井を打ち崩すか考えていた神町の選手達の顔付きが変わる。
「やべじゃろ。左んセドでこんクオリティ。なんでエースじゃなかと?」
「三波って親ん七光りって言われちよっ奴? いっちょんそげん事なかど。噂は当てにならん」
因みに、神町高校の監督は関東の人間である。
流石にもう慣れたが、最初は呪文の様に言われる薩摩弁を全く理解出来ずに苦労した。
今でも偶に聞き取れない事がある。
「エースナンバー付けてる三井は、秋は怪我してたみたいだな。この三波と一回戦でも投げてた金子、4番の大浦で投手陣を回してたみたいだ。この映像からも分かる通り、既に高校野球のレベルに収まってないかもしれない」
「燃えてきたな! こげんピッチャーと勝負出来っなんて!」
「おいらん得意な打撃戦に持ち込んど! 相手んバッターも強打者揃いじゃってな!」
「いや、まだ三波が投げて来るとは限らないんだが…」
監督のそんな言葉も虚しく、選手達はワイワイと呪文を唱えながら、三波対策を話し合う。
溜め息を吐きながらも、その光景を見守る。
このチームは良くも悪くも単純だ。
相手より多く点を取る。それが合っていた。
果たして、既にプロ級のピッチャー相手に打線が通用するのか。
それはまだ、誰にも分からない。
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