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第四章 迷宮都市ラビリントス

第124話 最初の標的

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 「さて、ようやくだな」

 「思ったよりも早かったです」

 全自動麻雀卓という敵を難なく退けて、グレースをけちょんけちょんにしてやった。
 俺はぶっこ抜きが一番得意なんだ。残念だったな。あのグレースの訳の分からないといった顔は最高だったぜ。
 
 それから5日後。超越者の一人が動きを見せた。

 「物資やらを用意してるし、迷宮に入る準備だろうな」

 「最初にデスターをやれるのも都合が良いですね」

 S級で唯一のソロだからね。
 最初だし、不確定要素は少ない方が良い。

 「って事で、準備は出来てるな?」

 「ゴギャギャ!」

 アシュラは金棒をブンブン回してやる気がみなぎってるみたいだ。
 迷宮に入るまでもう少し待ってもらわないといけないんだけどな。

 「迷宮に入って来たら、周りに人が居ない所で所有者権限で転移させる。場所は89階の階段前だ」

 「デスターが来る前に付近の魔物を始末しておいた方がいいですね」

 邪魔になるからその方が良いな。
 後はそこで戦って貰うだけ。簡単な作業だぜ。

 「万が一負けそうになったら、全員で袋叩きにするからな」

 「デスター相手なら万が一も起こらなそうですが」

 それは分からんぞ。追い詰められた人間ってのは、何をするか分からん。
 物語の勇者みたいに覚醒とかするかもしれん。
 それはそれで面白そうだけど。

 「油断だけはしないようにな」

 「ゴギャ!」

 さて、後はデスターが迷宮に入るのを待つだけだな。


 ☆★☆★☆★

 その日、デスターは迷宮に入って稼ぐ日だったのだが、嫌な予感がしていた。

 「この胸騒ぎはなんだぁ? 迷宮に行くの辞めるかぁ?」

 何かがあると分かった訳ではないが、こういう日に行動するとロクな事にならない。
 長年の冒険者活動で培ってきた勘の様なものだが、デスターはソロで活動してる事もあり、この勘を大事にしてきた。

 「しっかし、そろそろ娼館に行く金がなぁ」

 デスターは粗野な人間が多い冒険者にしては珍しくまともな性格をしていた。
 乱暴な言動で勘違いされがちだが、ギルドの上層部からのウケも良く、頼りにされている冒険者なのだ。

 しかし、一つ欠点があった。
 それは極度の色狂い。お金があればとにかく娼館。娼館に行く為にお金を稼いでると言ってもいい。
 パーティーを組んでいない理由も、自分の好きな時に娼館に行けないのが苦痛だからだ。
 女性冒険者と組んでしまったら、手を出してしまいそうな自分にビビってるというのもある。

 ソロで活動すると報酬は全部自分の物だし、その分多く娼館に行ける。
 そんな理由もあって長くソロ活動を続けているのだ。

 「ちょっと何日か様子みっかぁ。はぁー。娼館行こ」

 今回も自分の勘を信じて、迷宮突入を先延ばしにする事にした。
 しかし、いつまで待ってみても胸騒ぎの様な嫌な予感は消える事はなかった。

 尚、デスターでの娼館での評判は上々である。
 優しく金払いが良いので指名待ちしてる嬢が結構いるとか。かなりどうでも良い話だが。


 ☆★☆★☆★

 「来ないんだが?」

 「ゴギャ?」

 「来ませんね?」

 デスターが迷宮に入る準備をしてたので、迷宮付近で影の中に入り待ち伏せていたんだけど、一向に来ない。
 あれから1週間も経つのに。

 「タグ付けしてる影で確認してるけど、連日のように娼館に通ってるだけなんだよなぁ」

 「とりあえず準備だけはしておこうって感じだったんですかね?」

 えぇー。このやり場のない高揚感をどうしてくれようか。
 アシュラなんてやる気がみるみる無くなって、不貞腐れちゃってるよ。
 そりゃ、1週間もテンションを持続させるなんて無理だよねぇ。

 「前情報で毎日の様に娼館に通ってるって知ってたけど、本当に毎日だな」

 「デスターの女好きは有名らしいですね」

 そんなに好きなら自分で娼館経営でもすれば良いのでは? S級冒険者なんだから、金は稼げるから資金さえ用意すれば出来そうなんだけど。
 そんなに簡単な話じゃないのかしらん?
 自分の好きな時に抱けるし、自分が休んでる時は嬢が稼いでくれるしで、冒険者を卒業してもやっていけそうな感じではあるが。

 「まっ、これから死ぬ奴の事なんてどうでも良いか。せいぜい死ぬ前に楽しんでおけって感じ」

 「では、今日も来なさそうですし、私達も楽しみましょうか」

 懲りない奴め。あれだけぐでぐでにしてやっても、飽きないんだから凄いよね。
 俺もどんと来いって感じだから良いんだけど?
 回復魔法のレベルが上がっていってるのにちょっとビビってるとかそんな事ないし?




 「動いたぞ!!」

 「ゲギャー?」

 アシュラはまだ不貞腐れている。
 ほんとですかー? みたいな胡散臭い顔をして俺を見ている。

 「本当だって! あまりにも動かないからちょっと小細工してやったけど」

 娼館に行くから迷宮に来ないなら、行けなくさせればいいじゃない。
 みんな大好き、アントワネットさん理論である。

 「って事で、デスターのお金をパクってやりました」

 「あれ? そうなんですか? てっきり性器をちょん切るのかと思ってました」

 そんな事をしたら戦いに影響が出るだろうよ。
 なるべくフラットな状態で戦ってもらいたいからね。

 「お金が無くなったデスターは慌てて迷宮に向かってるぜ」

 「やり方はどうあれようやくですね」

 ほんとにな。最初からこうしておけば良かったぜ。

 「ってことで、アシュラ頼むぞ!」

 「ゴギャギャ!!」

 本当に向かってるって分かったからか、アシュラのやる気は一気に最高潮へ。
 ここまでお預けされたからか、かなり鬱憤が溜まってるらしい。
 この状態のアシュラと戦わないといけないデスター君には同情するね。

 まっ、なんでか知らないけど行く行く詐欺した代償だと思ってくれたまえ。

 
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