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第6章 シークレット始動

第109話 二人の能力

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 陽花が前に出る。
 オークはそれを見て狙いを陽花にしたのか、斧を振り上げながら突っ込んでくる。

 「あ、あ、危ないです!」

 陽花は動かず。
 相変わらず妖艶な笑みを浮かべながら、そのまま斧で真っ二つに斬られた。バシャっという音を立てて。

 「ぴゃ、ぴゃー!」

 神田さんはさっきから驚きっぱなしだ。
 それにしても、ふむ。
 能力の予想はついたけど。面白い能力だな。
 ある一点を除けば弱点なんてないんじゃね?

 「うふふ。どうですか? これが私の能力『液体化』です」

 真っ二つに斬られた筈なのに喋り続ける陽花。
 斬られた体がみるみるうちに復元されていく。

 「ブ、ブモォォォ!」

 よく見るとオークの斬った斧、そして持ち手の腕が焼け爛れてるように見える。
 オークはそれに気付いて激痛を堪えるような悲鳴をあげた。

 「では、ご機嫌よう」

 陽花が腕を振るとその手から水飛沫が飛ぶ。
 かなりの速度で飛んだ水飛沫が、オークの体を正確に捉えて、そして溶けていく。

 「うわぁ」

 強すぎでは? 打撃系相手の人に対抗策ないよね? 公英とか絶対勝てないじゃん。
 桜も無理か。ふむぅ。ただのお姉さんじゃなかったか。侮り難し。

 「うふふ。どうでしたか?」

 「す、すっごいです!! バシャーってなってグチャーってなりました!!」

 「今は分かりやすく酸を使いましたが、液体にならなんでもなれます。弱点は能力で使った水分の量だけ、体の体積が減ってしまう事ですねぇ。まぁ、水分補給すれば回復するんですけどぉ」

 やばいだろ。マジで最強格じゃん。
 俺は負けないだろうけど、人類でこいつに勝てる奴はいるのか?

 「死亡条件は蒸発ですねぇ。以前失敗した事があるので、これも対処してますがぁ。流石にこれは配信では言わないでおきましょう」

 あら。俺は高火力で蒸発させればとりあえず勝てるかと思ってたけど、考えが甘かったみたいだ。
 こうなってくると、怠惰ベルフェゴール傲慢ルシファー の悪魔勢で対抗するしかないなぁ。
 いや、結界に閉じ込めておくのもありか。
 まぁ、とりあえず俺なら対処出来ると。

 因みに後から聞いた対処法は、少しの水分を別の場所で保管しておく事らしい。
 これで誰かに水さえ与えてもらえれば、そこから復活出来るらしい。訳が分からん。
 能力の応用が効きすぎてる。以前した失敗とかいう気になる事を言ってるが、それを言う気はないみたいなので放置。
 何かあったら言ってくるだろう。

 「ち、因みにローションや媚薬も…?」

 「うふふ。団長さんも好きですねぇ。勿論対応してますよぉ。後でのお楽しみです」

 流石陽花の姉御!
 一生ついていきます!!

 「さ、最後は私ですっ!」

 陽花とのキャッキャウフフを早く楽しみたいところだけど、まだ最後の神田さんが残っている。
 俺氏。最初のスカウト枠。その実力をとくとご覧あれ!

 「い、いきます!」

 またもやオークが突っ込んでくる。
 俺は一応フォロー出来るように忠義ウリエルに憑依しておく。

 「ヒグマ!」

 神田さんが動物名を叫んだ途端、体のが大きくなり、一部が動物っぽくなる。

 「がおー!」

 でも声とかはそのまま。
 だから大きくなったクマ娘が可愛らしい雄叫びを上げてオークとがっぷり組み合う。

 「よいしょー!」

 クマ娘がブレーンバスターをオークにきめる。
 脳天から叩き落とされたオークはあっさり絶命した。

 「や、やりました!」

 ぴょんぴょんと跳ねて喜びを露わにする。
 普通に怖いからね。声は可愛いし、元が神田さんって知ってるからなんとかなるけど。
 一般人は腰を抜かすビジュアルだよ。
 あ、元に戻った。

 「こ、これが私の能力……です!」

 「む! すまん! 能力名が聞こえなかった! もう一度頼む!!」

 「うぅ…」

 多分わざとごにょごにょ言ったんだろう。
 それで誤魔化したかったけど、公英がそれを許さなかった。いや、心底申し訳なさそうに聞き取れなかったと詫びている。尚更タチが悪い。

 「わ、私の能力はへ、『変態』です!」

 顔を真っ赤にして告白する神田さん。
 うんうん。分かるよ。その気持ちは。
 意味が違うって分かってても、その能力名を言うのは勇気がいるよね。多感なお年頃のそれも女子がこんな能力を授かっちゃって。
 さぞかし苦労した事だろう。

 「そ、そうか」

 そして自分の失態に気付いた公英はデカい体を小さくしてペコペコと神田さんに謝っていた。

 「だ、大丈夫でありまする! た、確かに最初はかなり落ち込みましたが…。そ、そのお陰で『シークレット』に入れたと思ったら安いものです!」

 ええ子や。神田さんはええ子や。
 親の育て方が良かったんだろうか。
 こんな名前の能力を授かってしまったら、不登校になってもおかしくありませんぜ。
 揶揄われるのは目に見えてるし。

 でも、神田さんはそれを承知で探索者学校に入学した。最初はかなり苦労した事だろう。
 それなのにこんな良い子に育っちゃって。
 任せておけ。俺が一流の探索者にきっちりと育ててやるからな。

 日本の変態と言えば神田七海。
 そう呼ばれるまで押し上げてやる。
 ……この異名は無しだな。
 ただの悪口だ。
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