上 下
15 / 152
第1章 異世界帰りの男

第13話 探索者協会とのお話

しおりを挟む

 
 翌日。
 牛タンを心ゆくまで堪能し、向こうで一日泊まってから東京に帰って来た。

 お偉いさんが来るだろうから、それなりの格好しようと思ったんだけど、クローゼットの中に正装はなかった。
 買っておけば良かったな。
 今度まとめて買い物に行くか。

 「ネットは凄い事になってるね~。本当に攻略したのか~とか~。『シークレット』とは一体なんなのか~とか~」

 「探索者協会のお偉いさんに、動画とドロップ品を見せて、攻略は事実だと公表してもらおう。一気に掌を返すぞ。今から楽しみだ」

 「だんちょ~が嫌いって言ってた大御所さんは~まだ認めてないみたいだね~」

 「よくそんなので大御所とか言われてるな」

 くそ老害が。
 狭間が消えたんだから、攻略した事くらい分かるだろ。何年探索者やってたんだよ。調べてないから知らないけどさ。

 ニュースを見ながらボケーっとしたり、空間魔法の中を整理したりすると、インターホンが鳴る。
 一応、今いるのはマンションの最上階なので、エントランスのセキュリティを開けて、上まで来てもらう。

 「ようこそ、いらっしゃいました」

 「いえいえ、こちらこそわざわざお時間を取って頂きありがとうございます」

 やって来たのは、壮年の穏やかそうな男性と、目つきの鋭いきりっとした女性。
 歳は中々いってそうだが、綺麗な人だ。美魔女ってやつかな。
 どうぞ、と言って中に入ってもらう。

 「すみません。こっちに引っ越してきたばかりで、事務所も応接室もないんです。リビングでも大丈夫ですか?」

 「勿論です」

 買ったばっかりのソファに座ってもらい、桜に飲み物を用意してもらう。

 「お茶~コーヒー~紅茶~がありますけど~何になさいますか~?」

 「あ、コーヒーを二つお願い出来ますか?」

 「ういうい~」

 お前はいつも通りだな。
 男性の方もびっくりしてるじゃないか。
 俺ですら一応敬語使ってるのに。

 「どうぞ~」

 「えーっと、織田天魔です。今日はよろしくお願いします」

 「ご挨拶が遅れました。探索者協会日本支部本部長の朝倉と申します」

 とりあえず自己紹介と思って、名乗ったら名刺を頂いた。
 本部長ってどれくらい偉いんですかねぇ。
 中卒だから分かりませんな。

 「私は日本支部会長の伊達と申します」

 これまた名刺を女性の方から頂いて、改めてみてみる。
 会長が一番偉いのかな? ほんとにわかんねぇや。

 「前置きとかは面倒なので、さくさくと話を進めましょうか。とりあえず最初に動画を見てもらった方が話やすいですかね?」

 「こちらとしても、その方が助かります。正直、1級が崩壊する事なく攻略されたのは、初めての事ですので…。何から話してよいのやらと考えていた所なんです」

 「じゃあ、テレビと繋ぎますね」

 繋ぎ方は分からないので、桜に任せる。
 あぁ。今から黒歴史の放送か。
 胃がキュッとなるなぁ。
 絶対心の中で笑うよねぇ。

 それから、狭間に入った所からの動画が流れ始める。
 朝倉さんと伊達さんは食い入る様に見ているが、こっちは恥ずかしさを顔に出さないように、必死だ。
 音声もしっかり入っていて、街を歩く感覚でふざけながら1級を攻略してるのをみて唖然としていた。
 そして、動画が中盤くらいになると、憑依対象を変えた所で2人ともポカンとした表情になった。

 「ちょ、ちょっと、止めてもらえますか!?」

 「えっと…。分からん。桜止めてくれ」

 リモコンのボタンが多すぎる。
 一時停止って、四角のボタンじゃないの?
 同じ様なのがいっぱい合って分からんぞ。

 「そ、その、織田さんの能力は二つあるんですか? 今二つ目の魔法を使ってらっしゃいましたが…?」

 朝倉さんが、信じられない様子で問いかけてくる。
 まぁ、そう見えても仕方ない。
 向こうの世界でも悪魔に魂を売ったとか難癖つけてくる奴が居たんだ。微妙に間違ってないのが、腹立つよね。あの人達も向こうで元気にしてるのかなぁ。あ、300年も経ったら死んでるか。

 「いや、一つですよ。その一つで色々な事が出来るだけで。よろしければ後でお見せします」

 「す、凄いですね…。規格外の能力です。これなら攻略出来たのも頷けます」

 実は三つだけど。
 バレなかったら良いでしょ。
 憑依以外は見て分かるもんじゃないし。

 何個能力持ってても、ちゃんと自分の物に出来てないと、結局は弱いしな。
 本人の努力次第よ。

 朝倉さんが、納得した所で動画を再度見始める。
 伊達さんの様子がおかしいんだよね。
 最初家に来た時はキリッとした出来る女性って感じだったのに、今はキラキラした瞳で動画を見ている。
 異世界にはこういう人もいたんだよ。
 神の使徒だとか言って崇拝しようとしてくるタイプの人。
 これも間違ってないのが、困るんだよね。
 悪気がないのもポイント。
 悪意が無い人を流石に排除出来ないからね。

 動画は進んでボス戦。
 空間魔法を使ってた事にも驚いていたけど、あっさり倒したボスのリッチ戦を見て、どうでも良くなったみたいだ。
 もう、なんて表現したら良いのか分からない顔をしている。

 「ちょっと、想像以上の映像でしたね…」

 朝倉さんは姿勢を崩してグッタリと、伊達さんはもうキランキランと。
 ここからまともな話し合いなんて出来るのかね。

 こんな事言ったらあれなんだけど、全然本気出して戦ってないから、これぐらいでびっくりされても困るんだよな。
 調子に乗ってるとかではなく、事実だしさ。
 本当に今まで良く地球は滅亡しなかったな。
 先が思いやられるぜぃ。
 

 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

処理中です...