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第1章 異世界帰りの男
第13話 探索者協会とのお話
しおりを挟む翌日。
牛タンを心ゆくまで堪能し、向こうで一日泊まってから東京に帰って来た。
お偉いさんが来るだろうから、それなりの格好しようと思ったんだけど、クローゼットの中に正装はなかった。
買っておけば良かったな。
今度まとめて買い物に行くか。
「ネットは凄い事になってるね~。本当に攻略したのか~とか~。『シークレット』とは一体なんなのか~とか~」
「探索者協会のお偉いさんに、動画とドロップ品を見せて、攻略は事実だと公表してもらおう。一気に掌を返すぞ。今から楽しみだ」
「だんちょ~が嫌いって言ってた大御所さんは~まだ認めてないみたいだね~」
「よくそんなので大御所とか言われてるな」
くそ老害が。
狭間が消えたんだから、攻略した事くらい分かるだろ。何年探索者やってたんだよ。調べてないから知らないけどさ。
ニュースを見ながらボケーっとしたり、空間魔法の中を整理したりすると、インターホンが鳴る。
一応、今いるのはマンションの最上階なので、エントランスのセキュリティを開けて、上まで来てもらう。
「ようこそ、いらっしゃいました」
「いえいえ、こちらこそわざわざお時間を取って頂きありがとうございます」
やって来たのは、壮年の穏やかそうな男性と、目つきの鋭いきりっとした女性。
歳は中々いってそうだが、綺麗な人だ。美魔女ってやつかな。
どうぞ、と言って中に入ってもらう。
「すみません。こっちに引っ越してきたばかりで、事務所も応接室もないんです。リビングでも大丈夫ですか?」
「勿論です」
買ったばっかりのソファに座ってもらい、桜に飲み物を用意してもらう。
「お茶~コーヒー~紅茶~がありますけど~何になさいますか~?」
「あ、コーヒーを二つお願い出来ますか?」
「ういうい~」
お前はいつも通りだな。
男性の方もびっくりしてるじゃないか。
俺ですら一応敬語使ってるのに。
「どうぞ~」
「えーっと、織田天魔です。今日はよろしくお願いします」
「ご挨拶が遅れました。探索者協会日本支部本部長の朝倉と申します」
とりあえず自己紹介と思って、名乗ったら名刺を頂いた。
本部長ってどれくらい偉いんですかねぇ。
中卒だから分かりませんな。
「私は日本支部会長の伊達と申します」
これまた名刺を女性の方から頂いて、改めてみてみる。
会長が一番偉いのかな? ほんとにわかんねぇや。
「前置きとかは面倒なので、さくさくと話を進めましょうか。とりあえず最初に動画を見てもらった方が話やすいですかね?」
「こちらとしても、その方が助かります。正直、1級が崩壊する事なく攻略されたのは、初めての事ですので…。何から話してよいのやらと考えていた所なんです」
「じゃあ、テレビと繋ぎますね」
繋ぎ方は分からないので、桜に任せる。
あぁ。今から黒歴史の放送か。
胃がキュッとなるなぁ。
絶対心の中で笑うよねぇ。
それから、狭間に入った所からの動画が流れ始める。
朝倉さんと伊達さんは食い入る様に見ているが、こっちは恥ずかしさを顔に出さないように、必死だ。
音声もしっかり入っていて、街を歩く感覚でふざけながら1級を攻略してるのをみて唖然としていた。
そして、動画が中盤くらいになると、憑依対象を変えた所で2人ともポカンとした表情になった。
「ちょ、ちょっと、止めてもらえますか!?」
「えっと…。分からん。桜止めてくれ」
リモコンのボタンが多すぎる。
一時停止って、四角のボタンじゃないの?
同じ様なのがいっぱい合って分からんぞ。
「そ、その、織田さんの能力は二つあるんですか? 今二つ目の魔法を使ってらっしゃいましたが…?」
朝倉さんが、信じられない様子で問いかけてくる。
まぁ、そう見えても仕方ない。
向こうの世界でも悪魔に魂を売ったとか難癖つけてくる奴が居たんだ。微妙に間違ってないのが、腹立つよね。あの人達も向こうで元気にしてるのかなぁ。あ、300年も経ったら死んでるか。
「いや、一つですよ。その一つで色々な事が出来るだけで。よろしければ後でお見せします」
「す、凄いですね…。規格外の能力です。これなら攻略出来たのも頷けます」
実は三つだけど。
バレなかったら良いでしょ。
憑依以外は見て分かるもんじゃないし。
何個能力持ってても、ちゃんと自分の物に出来てないと、結局は弱いしな。
本人の努力次第よ。
朝倉さんが、納得した所で動画を再度見始める。
伊達さんの様子がおかしいんだよね。
最初家に来た時はキリッとした出来る女性って感じだったのに、今はキラキラした瞳で動画を見ている。
異世界にはこういう人もいたんだよ。
神の使徒だとか言って崇拝しようとしてくるタイプの人。
これも間違ってないのが、困るんだよね。
悪気がないのもポイント。
悪意が無い人を流石に排除出来ないからね。
動画は進んでボス戦。
空間魔法を使ってた事にも驚いていたけど、あっさり倒したボスのリッチ戦を見て、どうでも良くなったみたいだ。
もう、なんて表現したら良いのか分からない顔をしている。
「ちょっと、想像以上の映像でしたね…」
朝倉さんは姿勢を崩してグッタリと、伊達さんはもうキランキランと。
ここからまともな話し合いなんて出来るのかね。
こんな事言ったらあれなんだけど、全然本気出して戦ってないから、これぐらいでびっくりされても困るんだよな。
調子に乗ってるとかではなく、事実だしさ。
本当に今まで良く地球は滅亡しなかったな。
先が思いやられるぜぃ。
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