異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!

コスモクイーンハート

文字の大きさ
上 下
70 / 75
第7章 王家主催のパーティー

第六十八話 訓練①

しおりを挟む
「くしっ‼……う~。誰かが私の噂でもしているのかな?」
 訓練がしやすいように整備された演習場の真ん中で、一の姫フィーナはズズッと鼻を啜った。ちらりと向こうに見える王城の奥宮の方に目をやる。
 その予想は当たっているのだが、彼女はそれを知らない。
 今日も奥宮を抜け出して来てしまった。だが、それも仕方がないこと。何たって、この前ようやく念願の第一宮廷魔術師団に入団の許可が降りたのだから。今までずっと通い詰めたかいがあった。これで自分は新人魔術師である。
(ルナと母様に事あるごとに第一宮廷魔術師団だけは止めとけと言われていたからな~。……でも、入ったものはしょうがないよな‼せっかくの魔法日和だもの。楽しんだ者の勝ちに決まっている‼)
 なぜ妹ルナレアと母テレーゼが必死の形相で自分を引き止めていたのか不思議だが、まぁそこまでたいした理由もないだろう。
 二の姫ルナレアと同じフィーナの金髪が心地よい風にたなびく。涼やかなさっぱりとした印象だ。彼女の瞳は明後日の方向を見ながらもキラキラと希望に満ち溢れていた。
「ようやく思いっきり大好きな魔法が使えるんだ‼今‼私の輝かしい人生が始まる‼そう、今‼」
 両手を天高く広げて声高々に興奮気味に叫ぶフィーナ。彼女の周りはキラキラしているが、周りの新人魔術師達はスルーしている。……温度差、これいかに。
 涼やかな印象が一瞬で霧散するのであった。
 傍から見たらちょっとテンションの高すぎる変人……ヤバい人……いや、何でもない。とにかく明るさマックスのフィーナであった。普段はここまでではないのだが、ようやく魔術師団に入れた事が彼女の気持ちをパワーアップさせているようである。こればかりはご容赦願いたい。
「何しているんです?フィーナ姫」
「うひゃあ⁉……何だ魔術師長殿か」
 急に話しかけられると流石に驚く。バクバクいう心臓を抑えながら、フィーナは魔術師長の方を振り返った。
「ん?」
 魔術師長の後ろに自分よりも少し年下っぽい少女が一人。この世界では珍しい黒髪黒目の可愛らしい見た目だ。
(……ん?黒髪黒目の異国の少女……?この組み合わせどこかで聞いたような……)
 しかし、思い出せない。頭の中で引っかかっている感じだ。
「失礼。君は?」
「私、合田結菜。あっ、こっちではユーナ·アイーダかな?魔術師長さんの紹介で訓練に参加させてもらうことになったの」
「そうか。私はフィーナ·クルス·ルーベルトだ。一応この国の王女だがあまり気にしないでくれ。ただの魔法好きなだけだから。あっ、もしかしてユーナも魔法が好きなのかい?」
 彼女からは心地よい魔力を感じる。その場にいるだけで暖かい。ユーナという目の前の女の子は太陽のような少女であった。
「うん‼好きだよ‼」
「そうか、そうか!それなら私達は同士だね‼これから訓練するんだろう?ねぇ、一緒に訓練しよう‼今から私も訓練の時間なんだ!」
「うわぁ~!ありがとう‼よろしくね‼」
「うん!こちらこそよろしく‼」
 ユーナという名前にまたしても聞き覚えがあるなと「ん?」と首を傾げはしたが、結菜によろしくと言われるとフィーナは瞬時にそのことは忘れてしまう。
 うん。一瞬で仲良くなったようである。二人にはどこか同類の気配がするのはたぶん間違っていないだろう。好きなものには没頭するもの同士のようである。
 ほわほわと笑い合いながら手を取り合う結菜とフィーナ。……何か大事なことのような気もするがその認識はもう頭の中になくなっていた。
 「こほんっ」という魔術師長の咳払いに二人はすぐさまピシッと姿勢を正す。
「では、ユーナ様。魔法のコツを教えます」
「コツ、ですか?」
「はい。魔法は端的に言えばイメージの塊です。頭の中ではっきり発現する魔法を想像してから呪文を唱えるのがベストでしょう」
 フィーナは自分が昔に同じことを言われていたな、と懐かしく思いながらふふっと苦笑した。イメージと言ってもこれがまた難しいのである。
 そもそも、この世界にはテレビとかインターネットとかいう便利グッツは当たり前だがない。それは至極当然のことなのだが、画像がないぶん魔法の高度な技などを自力で想像することなど到底できないことなのだ。
 なので、魔術師団や王立魔法学校で初めて本当の魔法というものを見る者がほとんどなのである。
 この世界では魔法を使える者が少ないとはいえ、貴族ともなれば庶民とは違って魔法を使える者もある程度いる。他の国と比べてもその数は多い。まぁ、個々によって魔法の威力は大きく違うのだが……。
 ともあれ、その魔法を使える者達の中でもトップクラスの者達が集まる所。それがこの宮廷魔術師団なのである。その中でも第一師団ともなれば別格だ。
 フィーナは魔法の才が優れており、幼少期からこの魔術師塔に入り浸り、練習を積み重ねてきたのだ。その魔法のイメージを正確に掴むことが難しいのはよくわかっている。自分だって魔術師達に魔法を見せてもらって、本をたくさん読んだ過去があるからこそここまで上達したのだから。
 結菜が困っているだろうと思って、助け舟を出そうとしたフィーナは結菜の方を向いた。
 しかし、結菜は予想に反してうむうむと頷いて、事もなさげに魔術師長に質問した。
「イメージってことはそれができれば、詠唱の省略とか無詠唱とかもアリだったりするんだよね?」
「熟練の魔術師になれば可能かもしれませんが、普通であれば呪文の演唱によってイメージの定着を行うので、なかなか困難だと思います。省略であってもよほどの練習をしないと無理でしょう」
「そっか。ありがと‼」
 何でそんな発想ができるのだろうか。無詠唱なんて、魔法そのものを熟知していないと不可能ものである。
 詠唱の省略だってそうだ。無詠唱ほどとはいかずとも、その魔法をものにしていないと話にならない。
 フィーナは、まさか結菜がすでに詠唱の省略をしていることなど知る由もなかった。知っていたら卒倒ものだっただろう。何たって長年魔法と共に生活してきた自分でさえ、この前詠唱の省略をようやくできたばかりなのだから。
 一方、結菜は魔術師長がしてくれたその返答に内心小躍りしていた。魔物を倒す時に鑑定さんが教えてくれた方法は間違っていなかったようである。魔法のイメージなら頭の中でいくらでも想像できるのだ。最高である。
 結菜はルンルン気分で魔術師長の話に耳を傾ける。
「まぁ、ずっと話すのも何ですし。そろそろ魔法をお見せしますね」
 手にしていた身の丈よりも長い杖を地面にトンとついて掌を上に向けた。魔術師長の魔力が掌に収束し直径三十センチ大ほどの風の塊が渦を巻く。
「風魔法ならこんな感じでしょうか。まずは一番簡単な魔法の操作から始めましょう。楽に魔力操作の訓練ができると思いますよ」
 流石宮廷魔術師長と言われるだけある。熟練の粋に達しており、かつ魔法の才溢れる彼は詠唱無しで魔法を展開してしまった。フィーナは尊敬の眼差しを瞳に讃えた。
「魔術師長さんも風魔法使えるんだ」
「はい。風属性と水属性ですね」
 真似してみてくださいと言う魔術師長に促され、結菜は彼同様に無詠唱で風魔法を展開した。
 鑑定さんが韻律に魔法の発動の効率化·最適化のための演算処理を組み込んでくれているので、それくらいはわけもなかった。それに前回の聖魔法での極大の浄化のように大規模でもないので、すんなりスムーズだ。
「えいっ」
 思わず気が抜けるようなかけ声にフィーナは首を傾げた。
 ゴゥッ。
 結菜の目の前にどデカい風の塊が出来上がる。
「……は⁉」
 

しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~

ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ 以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ 唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活 かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...