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第7章 王家主催のパーティー
第六十五話 家族との一時
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「そうか!帰ったか‼」
待ちわびていた吉報が届いた。
それは王城の王族と許された者しか入れない奥宮で、アデレードと家族達がゆっくりと一時を味わっていた時のことであった。
侍女が王に頭を下げながら続ける。
「はい。城の門番の兵からユーナ様と勇者様と賢者様のご帰還の報が伝えられた次第でございます。皆様ご無事だそうです」
てきぱきと報告する侍女。彼女は王や王妃からの信頼も厚い。次期侍女長にとの声も挙がるほどの優秀な人材であった。
そのためか彼女にはいち早く帰還の情報が入り、それを彼女が王に報告に来たのだ。
侍女の報告はアデレードに安心をもたらした。結菜達は急な魔物の発生に伴い、緊急出動したのだ。心配やらなんやらがやっぱりあったようである。
「無事だったか。なら、良い。報告ご苦労であった」
「いえ」
侍女を下がらせるとアデレードは手元にあった書類にサラサラとサインをした。
「これで、ある程度の後始末はできるだろう」
「あら、珍しいですね。アデレード様がそのような子供のような顔をなさるなんて」
「仕方がないだろう?大切な友が皆無事で帰って来たのだから」
「ふふっ。あらあら」
「笑うなよ……。テレーゼ」
ふんわりとした雰囲気の貴婦人がアデレードに微笑みかける。アデレードの妻であり、王妃である彼女は隣にいる二の姫ルナレアの頭を撫でた。
「今回の件、随分と手を回しているようですから。めったにありませんわよね?いくらあの辺境の騎士団団長が失態を犯したからと言って、御自ら処遇を決めなさるなんて」
テレーゼは先ほどアデレードがサインした書類をちらりと見やった。そこには辺境騎士団団長の簡単な処遇が記されていた。
「前々から嘆願書も多数出ていたしな。ちょうどいい頃合いだろう」
「ふふふっ。そういうことにしておきましょう」
もっともな意見をしたアデレードであったが、本心は別だとテレーゼにはわかったようである。ころころと笑う彼女にアデレードは微妙な顔をした。
騎士団除籍処分。それは一見重いか重くないかよくわからないようであるが、実際は影響がかなり大きい。彼も貴族である。その影響は彼にとって堪えるものとなることは間違いない。実質、没落まっしぐらであろう。
「それにしても随分と詳しいな」
ベルで人を呼んでサインし終わった書類を手渡しながら、アデレードは駆け寄ってくる二の姫のルナレアを自分の隣に座らせた。
「貴族の中では軽く噂にはなっていますわね。事の大まかな流れくらいなら皆知っていると思います。随分批判されていますよ。彼」
「そうだろうな。……まったく。貴族は噂の回りが早い」
「仕方がありませんわ。今の貴族の興味は先に選定なさった聖女様に向けられていますもの。聖女様に関係することはすぐに噂になりますわ」
「はぁ………」
「父様。またため息をついています。幸せが逃げますわよ?フィーナお姉様も言っていたでしょ?」
むぅと口を尖らすルナレアにアデレードは苦笑した。もはや職業病である。
「ルナ。ありがとう、気をつけよう」
「いいえ、父様。気にしないでくださいませ」
「修行は順調なのか?」
「大丈夫ですわ。この頃は発作もなく、精霊との交感もできていますから」
「そうか。なら良かった」
アデレードはルナレアの母親譲りの柔らかな金髪を優しく撫でた。大きな碧色の瞳がこちらを見て笑った。
ルナレアは長女の一の姫フィーナとは双子である。一の姫のフィーナは魔法の才があるが、二の姫たる彼女にはなかった。
幼い頃それを気にしていたルナレアだが、母のテレーゼの提案もあり、精霊術師としての道を歩むことを決意したのである。
精霊術師はこのルーベルト王国ではマイナーである。それよりも魔術師の方が圧倒的に人気も知名度もあった。
そもそもの話、精霊術師は魔術師と同じく素質がないとなれない。その上、努力で何とかする魔法とは違い、精霊にどれだけ気に入られているかが能力の強さに左右される。
ルナレアが幼い頃、ルーベルト王国内で名のある高位精霊と精霊契約を結んでいるのは母のテレーゼのみだった。
しかし、その能力の実力はかなりのものであり、テレーゼの力は誰しもが認めていた。
当時のルナレアが母の進めにのったのも、それが一役買っていたようである。
幸いルナレアには精霊術師としての才があり、契約を結べた。
しかし、幼い彼女が契約できたのは幸か不幸か母と同じく上位精霊であった。イフリート。それは意思を持つほどの大精霊である。
そして属性は違えども、ドライアドを使役しているテレーゼが手とり足取りルナレアに修行を施すようになったのであったのだ。
時々イフリートの力を抑えきれず発作を起こしていたが、近頃はないらしい。安心した。
ルナレアが胸を張って笑う。
「心配はいりませんわ。ルナレアは大丈夫よ」
「そうか」
子供の成長は早いなとアデレードは複雑な気持ちになる。だがそれも嬉しいと思ってしまう。少しばかり寂しくはあるが……。
「この頃はイフリートの力もだいぶん抑えられるようになったので、交感の仕方を教えていますの。ルナは上達が早いですわ。教えがいがあります」
「だって、早く母様みたいになりたいんだもの!」
「あらあら」
「良かったな。テレーゼ」
「えぇ。今日の修行も頑張りましょうね、ルナ」
「はい‼母様‼」
女子二人の絆が深い。見つめ合ってくすくすと笑う二人に微笑ましさを覚える。
この頃はなかなかこういう家族とゆっくりする機会がなかった。
魔物の件も一段落したため、しばらくはこうして時間を取れるだろう。こんな暖かい時間も悪くないものである。
それにもともと予定していた王家主催のパーティーも開催されるのだ。楽しみである。
結菜が帰って来たので、彼女にもパーティーに参加してもらう予定だ。これからはしばらく準備などで忙しくなるだろう。
こういう楽しい時間も時には大切である。
「そういえば、フィーナは今どこにいるんだ?ずっと姿が見えないが……」
「フィーナ、ですか?私も見ておりませんわね」
「フィーナお姉様ならまた魔術師塔に行ってます」
「あぁ……」
「そうでしょうね………」
三者三様に遠くを見る。
魔法の才能もあり魔法好きな彼女は、昔からよく魔術師塔に入り浸っていた。そして今もそれは続いている。……いや、ひどくなっているようである。
近頃は奥宮ではなく、魔術師塔で起床していることもしばしばあると聞いていた。
一同は同時にため息をついた。……幸せが逃げそうである。
何だかんだあったが、家族との時間はゆっくりできたアデレードであった。
ちなみに。テレーゼ、フィーナ、ルナレアの他にも王子のベルクティアがいる。母親譲りの女の子みたいな綺麗な顔立ちの男の子である。
本人はそのことを気にしているが、アデレードにとっては彼も大切な家族だ。
ただいまガルティアは王立学園に通っており、なかなか王宮に帰ってこれない身であった。まぁ、それはまた別のお話。
「……まぁ、フィーナがいいのならそれでもよいか…………」
「まっったく良くありませんわっ」
「そうですよ‼父様‼」
「は………?」
「もう!ルナ、言ってやってくださいな‼」
「もちろんですわ、母様‼」
意気投合する女子二人。被せて返事をされたアデレードは、わけがわからず目をぱちくりさせた。
んんっ、と軽く咳払いをしてからルナレアが続ける。
「父様よく聞いてくださいませ。起床は魔術師塔でするわ、遠いところの物を取るのが面倒だからって魔法をいちいち使うわ、魔法が好きすぎて眠れない時には魔法を自分にかけて強制睡眠をするわ。フィーナお姉様はヤバいのです。今とってもヤバいのです!」
「アデレード様。ルナレアの言う通りですわ。聖女様の噂を魔術師塔で聞いてからというもの、フィーナの様子が変なのです」
「そ、そうか………。大変だな……………」
詰め寄る彼女達。どう答えればよいのだろうか。……うん。わからない。
目をそらしながらとりあえずアデレードは相づちを打った。いつでもどこでも気苦労が絶えないようである。……合掌。
曖昧な反応を返しながらアデレードは女子トークの嵐をやり過ごす。
しばらくして、ようやくアデレードは開放された。
「あら、もう日が傾いて来て………。そろそろ修行しなければなりませんわ」
「え?もうそんな時間?もう少し父様ともお話したかったのに………」
「毎日の練習が身を結ぶのですよ」
「そうですわね!母様‼」
きゃいきゃいと笑い合いながら、テレーゼとルナレアは外にいる侍女達を連れて奥宮を出た。
誰もいなくなってシンとした奥宮の一室で、グッタリと椅子にもたれかかるアデレード。
女子トークとは恐ろしいものである。それを実感したのであった。
「まぁ。これも楽しいし、たまにはよいな。………たまには」
テレーゼもルナレアも今日は異様にテンションが高かった。珍しい。
しかし、これもまた一興である。
家族とは良いものだな、とアデレードは口角を上げるのであった。
待ちわびていた吉報が届いた。
それは王城の王族と許された者しか入れない奥宮で、アデレードと家族達がゆっくりと一時を味わっていた時のことであった。
侍女が王に頭を下げながら続ける。
「はい。城の門番の兵からユーナ様と勇者様と賢者様のご帰還の報が伝えられた次第でございます。皆様ご無事だそうです」
てきぱきと報告する侍女。彼女は王や王妃からの信頼も厚い。次期侍女長にとの声も挙がるほどの優秀な人材であった。
そのためか彼女にはいち早く帰還の情報が入り、それを彼女が王に報告に来たのだ。
侍女の報告はアデレードに安心をもたらした。結菜達は急な魔物の発生に伴い、緊急出動したのだ。心配やらなんやらがやっぱりあったようである。
「無事だったか。なら、良い。報告ご苦労であった」
「いえ」
侍女を下がらせるとアデレードは手元にあった書類にサラサラとサインをした。
「これで、ある程度の後始末はできるだろう」
「あら、珍しいですね。アデレード様がそのような子供のような顔をなさるなんて」
「仕方がないだろう?大切な友が皆無事で帰って来たのだから」
「ふふっ。あらあら」
「笑うなよ……。テレーゼ」
ふんわりとした雰囲気の貴婦人がアデレードに微笑みかける。アデレードの妻であり、王妃である彼女は隣にいる二の姫ルナレアの頭を撫でた。
「今回の件、随分と手を回しているようですから。めったにありませんわよね?いくらあの辺境の騎士団団長が失態を犯したからと言って、御自ら処遇を決めなさるなんて」
テレーゼは先ほどアデレードがサインした書類をちらりと見やった。そこには辺境騎士団団長の簡単な処遇が記されていた。
「前々から嘆願書も多数出ていたしな。ちょうどいい頃合いだろう」
「ふふふっ。そういうことにしておきましょう」
もっともな意見をしたアデレードであったが、本心は別だとテレーゼにはわかったようである。ころころと笑う彼女にアデレードは微妙な顔をした。
騎士団除籍処分。それは一見重いか重くないかよくわからないようであるが、実際は影響がかなり大きい。彼も貴族である。その影響は彼にとって堪えるものとなることは間違いない。実質、没落まっしぐらであろう。
「それにしても随分と詳しいな」
ベルで人を呼んでサインし終わった書類を手渡しながら、アデレードは駆け寄ってくる二の姫のルナレアを自分の隣に座らせた。
「貴族の中では軽く噂にはなっていますわね。事の大まかな流れくらいなら皆知っていると思います。随分批判されていますよ。彼」
「そうだろうな。……まったく。貴族は噂の回りが早い」
「仕方がありませんわ。今の貴族の興味は先に選定なさった聖女様に向けられていますもの。聖女様に関係することはすぐに噂になりますわ」
「はぁ………」
「父様。またため息をついています。幸せが逃げますわよ?フィーナお姉様も言っていたでしょ?」
むぅと口を尖らすルナレアにアデレードは苦笑した。もはや職業病である。
「ルナ。ありがとう、気をつけよう」
「いいえ、父様。気にしないでくださいませ」
「修行は順調なのか?」
「大丈夫ですわ。この頃は発作もなく、精霊との交感もできていますから」
「そうか。なら良かった」
アデレードはルナレアの母親譲りの柔らかな金髪を優しく撫でた。大きな碧色の瞳がこちらを見て笑った。
ルナレアは長女の一の姫フィーナとは双子である。一の姫のフィーナは魔法の才があるが、二の姫たる彼女にはなかった。
幼い頃それを気にしていたルナレアだが、母のテレーゼの提案もあり、精霊術師としての道を歩むことを決意したのである。
精霊術師はこのルーベルト王国ではマイナーである。それよりも魔術師の方が圧倒的に人気も知名度もあった。
そもそもの話、精霊術師は魔術師と同じく素質がないとなれない。その上、努力で何とかする魔法とは違い、精霊にどれだけ気に入られているかが能力の強さに左右される。
ルナレアが幼い頃、ルーベルト王国内で名のある高位精霊と精霊契約を結んでいるのは母のテレーゼのみだった。
しかし、その能力の実力はかなりのものであり、テレーゼの力は誰しもが認めていた。
当時のルナレアが母の進めにのったのも、それが一役買っていたようである。
幸いルナレアには精霊術師としての才があり、契約を結べた。
しかし、幼い彼女が契約できたのは幸か不幸か母と同じく上位精霊であった。イフリート。それは意思を持つほどの大精霊である。
そして属性は違えども、ドライアドを使役しているテレーゼが手とり足取りルナレアに修行を施すようになったのであったのだ。
時々イフリートの力を抑えきれず発作を起こしていたが、近頃はないらしい。安心した。
ルナレアが胸を張って笑う。
「心配はいりませんわ。ルナレアは大丈夫よ」
「そうか」
子供の成長は早いなとアデレードは複雑な気持ちになる。だがそれも嬉しいと思ってしまう。少しばかり寂しくはあるが……。
「この頃はイフリートの力もだいぶん抑えられるようになったので、交感の仕方を教えていますの。ルナは上達が早いですわ。教えがいがあります」
「だって、早く母様みたいになりたいんだもの!」
「あらあら」
「良かったな。テレーゼ」
「えぇ。今日の修行も頑張りましょうね、ルナ」
「はい‼母様‼」
女子二人の絆が深い。見つめ合ってくすくすと笑う二人に微笑ましさを覚える。
この頃はなかなかこういう家族とゆっくりする機会がなかった。
魔物の件も一段落したため、しばらくはこうして時間を取れるだろう。こんな暖かい時間も悪くないものである。
それにもともと予定していた王家主催のパーティーも開催されるのだ。楽しみである。
結菜が帰って来たので、彼女にもパーティーに参加してもらう予定だ。これからはしばらく準備などで忙しくなるだろう。
こういう楽しい時間も時には大切である。
「そういえば、フィーナは今どこにいるんだ?ずっと姿が見えないが……」
「フィーナ、ですか?私も見ておりませんわね」
「フィーナお姉様ならまた魔術師塔に行ってます」
「あぁ……」
「そうでしょうね………」
三者三様に遠くを見る。
魔法の才能もあり魔法好きな彼女は、昔からよく魔術師塔に入り浸っていた。そして今もそれは続いている。……いや、ひどくなっているようである。
近頃は奥宮ではなく、魔術師塔で起床していることもしばしばあると聞いていた。
一同は同時にため息をついた。……幸せが逃げそうである。
何だかんだあったが、家族との時間はゆっくりできたアデレードであった。
ちなみに。テレーゼ、フィーナ、ルナレアの他にも王子のベルクティアがいる。母親譲りの女の子みたいな綺麗な顔立ちの男の子である。
本人はそのことを気にしているが、アデレードにとっては彼も大切な家族だ。
ただいまガルティアは王立学園に通っており、なかなか王宮に帰ってこれない身であった。まぁ、それはまた別のお話。
「……まぁ、フィーナがいいのならそれでもよいか…………」
「まっったく良くありませんわっ」
「そうですよ‼父様‼」
「は………?」
「もう!ルナ、言ってやってくださいな‼」
「もちろんですわ、母様‼」
意気投合する女子二人。被せて返事をされたアデレードは、わけがわからず目をぱちくりさせた。
んんっ、と軽く咳払いをしてからルナレアが続ける。
「父様よく聞いてくださいませ。起床は魔術師塔でするわ、遠いところの物を取るのが面倒だからって魔法をいちいち使うわ、魔法が好きすぎて眠れない時には魔法を自分にかけて強制睡眠をするわ。フィーナお姉様はヤバいのです。今とってもヤバいのです!」
「アデレード様。ルナレアの言う通りですわ。聖女様の噂を魔術師塔で聞いてからというもの、フィーナの様子が変なのです」
「そ、そうか………。大変だな……………」
詰め寄る彼女達。どう答えればよいのだろうか。……うん。わからない。
目をそらしながらとりあえずアデレードは相づちを打った。いつでもどこでも気苦労が絶えないようである。……合掌。
曖昧な反応を返しながらアデレードは女子トークの嵐をやり過ごす。
しばらくして、ようやくアデレードは開放された。
「あら、もう日が傾いて来て………。そろそろ修行しなければなりませんわ」
「え?もうそんな時間?もう少し父様ともお話したかったのに………」
「毎日の練習が身を結ぶのですよ」
「そうですわね!母様‼」
きゃいきゃいと笑い合いながら、テレーゼとルナレアは外にいる侍女達を連れて奥宮を出た。
誰もいなくなってシンとした奥宮の一室で、グッタリと椅子にもたれかかるアデレード。
女子トークとは恐ろしいものである。それを実感したのであった。
「まぁ。これも楽しいし、たまにはよいな。………たまには」
テレーゼもルナレアも今日は異様にテンションが高かった。珍しい。
しかし、これもまた一興である。
家族とは良いものだな、とアデレードは口角を上げるのであった。
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