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第5章 聖女として……

第四十七話 回復魔法

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 自分が発光しているのにも全く気にせず、結菜は自分の魔力を彼の身体へと注ぎ込む。
 加減がわからないので、とりあえず自分が今できることをしようと思ったのだ。
 正直言って、ヒールは実践などした事がなかった。イメージや発動方法は賢者が文献などで調べてくれたのだが…………。
 結菜は、今更だが少しは練習しとくべきだったなと後悔していた。
 しかし、今どうこう言っている場合ではない。
 結菜は鑑定を併用しながら、自身の魔力を最大出力で放出した。
 膨大な魔力が渦巻き、結菜を中心に魔力の奔流が生まれる。
 その魔力は結菜のスキル《鑑定+》が再度調節しているため、魔力酔いを起こす者は誰もいない。結菜はほとんど無自覚で鑑定さんを併用したが、そのおかげか以前貴賓室で起こっていた魔力溜まりは発生しなかったのである。………本当にいいスキルである。鑑定さんグッジョブ‼
 聖魔法の発動をする兆候なのか、結菜の魔力がキラキラと光り、パァァと輝いた。
 それはまるで夜空に輝く満天の星空のようで。その美しい光景に、周りで心配そうに見ていた騎士達は驚きのあまり言葉を失った。
「綺麗………………………………」
 誰かがぽつりと呟く。
 結菜が放つヒールの光は次第に大怪我した若い騎士の身体を包み込み、より一層輝きを増していった。

《告。胸部の損傷率37%の回復を行います。欠損部分の補填にヒールの発動者、合田結菜の魔力を使用します。魔力消費量4328。発動者の所持魔力量∞。よって、ただいまより欠損部分の回復を行います。聖魔法ヒールを合田結菜の許可申請に基づき発動します。……………………………》

 頭の中で鑑定さんがヒールを発動してくれる。
 溢れる光の海の中でどこか心地よさを感じながらも、結菜はずっと騎士の手を握り続けていた。
 白くなった手をロンが労るようにペロペロ舐めてくれる。そのことも気にならないほど、結菜は少し冷たくなってきている彼の手を固く握りしめる。
(お願い………………。お願いだから…………………………)
 ぎゅっと目を瞑って、心の底から祈る。

《…………………完了しました。聖魔法の終了を宣言します》

 鑑定の告知が終わると同時に、騎士の身体に変化が現れ始めた。
 シュウゥゥと傷口から白い煙が出て来る。それは煙が出た所から、瞬く間に大きかった傷がふさがっていくようであった。
 光の粒が傷ついた騎士の身体に吸収されていく。
 心なしか、瘴気汚染の影響で青白くなっていた顔にも血の気が戻っていった。
 ヒールの効果が終わったのか光が収まると、結菜は急いで彼の胸に巻かれている包帯をそっと外した。
 そこには、あるはずだった傷口が一切消えてなくなっていた。
「治った……………………」
 安堵からか嬉しさからか。結菜はほぅと息を漏らした。
 後ろからわっと歓声が上がる。
「ありがとう‼本当にありがとう‼」
「凄い………。あんな大怪我が傷一つなくなってる………………」
「これで皆大丈夫だ‼」
「クルトさんを助けてくれてありがとうございます‼」
 お礼を言いながら騎士達が結菜に本当に嬉しそうに笑いかけてくる。
 傷が治ったクルトという騎士に駆け寄る者。結菜に泣きながらお礼を言う者。皆一様に奇跡のような光景に感動し、そして喜びを顔に浮かべていた。
 騒ぎを聞きつけ、テントの外にいた騎士達も入ってきて、そこまで広くないテントの中は人でごった返しになってしまう。
 たくさんの人に口々にお礼を言われ、まだ実感の湧いていなかった結菜は、どこか夢見心地でぼぅとその様子を眺めていた。
「聖女様、ありがとうございます」
 柔らかで静かな低い声が隣からする。
 声の主は副団長であった。
「実は、このクルトという騎士は一年前に辺境騎士団に入ったばかりなんです。この地域出身でもあり誠実で心根が優しい真面目な青年で…………。彼は我々騎士団の中の大切な仲間の一人なんです。本当に助かりました…………ありがとうございます」
 どこかぼんやりしながら、結菜は温かい光を灯す彼の目を見た。
「……私、本当に…………………?」
 言葉が足りずとも、副団長は結菜の意図を汲み取って笑った。
「はい。あなたのおかげです。……本当にありがとう」
 もう一度、改めて感謝の言葉を述べる副団長。騎士達もそれに続く。
 結菜はだんだんその実感が湧いてきた。
 喉の奥が熱くなり、ぐっと何かこみ上げてくるものを堪える。
(あぁ、…………………私、助けれたんだ…………)
 どこか心の中で、何か人のために自分ができることを、この世界に来てからずっと無意識に探していたのかもしれない。
 どこか心の中で、今までずっと何かを探していたのかもしれない。
 自分はずっと前から、地球にいた時から、誰かが喜ぶ顔を見るのが好きだった。あの「笑顔」がこの遠く離れた世界にもあったのだ。
 ずっとそうして生きて来たから。そうして生きて生きたいから。
 私の自由の原点は「笑顔」なんだと。やっぱり自分も周りも「笑顔」なのが…………。
 心に広がる温かい気持ちに、結菜はふわりと笑った。
「……はいっ‼」
 助けたはずなのにこっちが助けられた感じがする。視界が色づいていく感じだ。
 一気に元気になり、ぐっと結菜は拳を握りしめた。さて、気合の入れ直しである。
「さぁ、ばんばん皆さんの怪我も直して行きましょうか‼」
 その後、他の怪我人も結菜は文字通りばんばん直していった。テントの中のあちこちでヒールの温かい光が発せられる。
 はい次。はい次。とばかりに怪我人及び瘴気汚染を受けた人達を次々とヒールにかけていく結菜。本当に待った無しであった。
 実は、度重なるお礼の嵐にちょっと照れ始めたのも関係していなくもない。
 っていうか、その照れが結菜の無限ヒールループに拍車をかけていた。
 その怒涛のようなヒールループに歓声を上げていた騎士達も、だんだん結菜自身のことが心配になってきてしまう。
 騎士達は目を見合わせながら、そろりとそのうちの一人の騎士が結菜に声をかけた。
「……せっ、聖女様?大丈夫ですか?」
「ほぇ?何が?」
「「「「…………………………………………」」」」
 恐る恐る聞く騎士の質問の意図がわからず、振り返って首を傾げる結菜。
 気づいてないんかい‼騎士達は結菜の魔力の多さに底知れず驚きを隠せなかった。それと同時に魔力不足になることを全く気にせず、回復魔法を騎士達にばんばんかけまくる結菜。
 振り返っている間も、彼女は回復魔法を騎士達にかけまくる。どんどんどんどんかけまくる。
 遂には、ちょっと離れた所にいる怪我人の方にヒールをぶっ放し始めていた。あちらこちらで怪我人が回復していく。
 その作業効率はどんどんスピーディーかつ円滑になっていった。結菜(と鑑定さん)、恐ろしい子……………。
 ……………マジか。騎士達が全員思わずボソリと呟いたのは言うまでもない。
 

 
 
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