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第4章 ルーベルト王国王都

第二十五話 選定の間

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 何で「開け‼ごま‼」が合言葉なの?と結菜は思った。賢者曰く、初代賢者がつけた合言葉なんだと。どう考えても……いや、まぁ、そこは気にしてはいけない。気にしてはいけないのだ‼
「さて、これからユーナさんにはしてほしいことがあるのですが」
「?何を?」
「ここは《選定の間》と呼ばれる所です。実はこの扉のずっと先に湖があるのですが、そこに"証"となるものがあると思いますので取ってきてほしいんです。」
「"証"、ですか?」
 結菜は首を傾げた。賢者が頷く。
「えぇ。その証にふさわしい者であれば何かが起こると言い伝えられています。……ユーナさんは今何か感じますか?」
 何かって何よ、と思いながらも首を振る。ロンを見ても、ロンも何も感じないのか首を振っていた。何も感じないのにおかしな事を言うなぁと結菜は思った。
「そうですか……。やはりあなたでしたか……。」
 賢者が聞き取れないほどの声でぽつりと呟いた。何を言ったのかわからず、結菜は、はて?と首を傾げる。
 賢者は「あぁ、わかっていませんね」と苦笑しながら、詳しく教えてくれた。
「本来ならば、身体を圧迫するような感じがするんです。賢者の選定を受け、他の人達よりも耐性があるはずの私でさえ言いようもない圧迫感を感じているんです」
 ふむふむと頷く結菜。
「この扉の先が聖域というのもあるのですが、普通であればこの圧迫感は壮絶なんですよ?というか、ここ一帯に近づくだけで気絶する人もいますし」
「えっ⁉それヤバくないの⁉ここって、何か危険物質でも飛び交ってたり?」
 思わず普段の口調で言い返してしまった。……もう、後の祭りである。
 結菜が慌てていると、賢者は苦笑しながらそれを笑って許してくれた。普段通りの口調で接してもいいらしい。
「いえ、危険物質というわけではないのですが……………。まぁ、ここは本当に限られた者しか入れない所ですね。そもそもここは魔力の密度が半端ないんですよ。妙な圧迫感もそれが原因でしょうし……。ユーナさん、あなたにはその耐性がある。あなた自身が魔力の塊だとはアル達の話からもうわかってます。選定を受けても圧迫感を感じている私とは違い、あなたは選定を受ける前からこの圧迫感を感じていない。あなたならこの選定を受けることができるかもしれないんです。この誰も受け入れられなかった選定を。………あなたはこの部屋で選定を受けるべきです」
 真剣な顔で賢者は言う。
 結菜はじっと彼の目を見た。嘘ではないようである。
(あぁ、だから移動している時誰にも会わなかったんだ。そりゃ、嫌だよね。誰でも気絶なんかしたくないもん)
 何となく感じていた違和感にやっと気がついた。
「じゃあ、近づいても気絶しない私が適任ってこと?でも、何で?っていうか選定って何を選定するの?私はこのままでもいいんだけど」
「まぁ、それはこの部屋に入ってからのお楽しみです。さぁ、どうぞ。入ってください」
 ふわりと賢者は笑って、結菜に扉の先を示した。
(…………何か上手く乗せられてる気がするんだよね。ん~。まぁいっか‼)
 軽い足取りで結菜は扉の方を向いた。
 促されるまま部屋に入ってみると驚くべき光景が広がっていた。……それは部屋という概念すら吹っ飛ばされる光景だった。
「ほぇ~……………。何?この空間。綺麗………………………」
 入った瞬間、まず上が見えないくらい高くまで続く階段があった。透明で輝いており、クリスタルのようである。
 ぼんやりしながら結菜が階段に足をかけると、ふっと意識が浮上する感覚がした。
 その階段を登ると気がつけば、あっという間に頂上へ着いた。
 結菜はまるで導かれるように階段を登って行くように感じた。
 十二の銀の柱のような塔が円を描くようにそびえ立ち、太陽の光りを反射している。
 結菜が上を見上げるとそこには逆さまの大きな大木があった。………もう一度言おう。逆さまの大きな大木があったのだ……‼
 ちなみに、この空間は王城の真上に存在しており、地上からは城の上を取り囲むようにして銀の柱が建ち、さらにその上を空を埋め尽くすように巨大な逆さまの大木がある。それはまさに圧巻の一言につきる。
 その逆さまの大木をぐるりと一周するように塔は立っていた。大木は上空に浮いている。根、というか幹さえも途中で見えなくなっていた。
(でっかっ………。何なの?この逆さまの大木は……)

《鑑定しました。個体識別名 世界樹。世界の均衡を維持、調整、管理する特別認定個体種です。》

 鑑定さん、ナイスである‼いい仕事するね‼結菜はもう鑑定さんが話すことに驚かなくなっていた。「こういうのは慣れだよ慣れ‼あははははは」結菜は後にこう言った。もちろん遠い目をしているのだが……。…………哀れである。
 世界樹はこの世界にとっては、どうやら神様に一番近い存在であり、信仰の対象でもあるんだとか。世界を管理している時点でもはやそうである。巷では聖樹とも呼ばれているらしい。
「あれって世界樹なんだ。なるほど、どおりで大きいわけだ」
 
《はい。ちなみに世界樹のある、ここルーベルト王国は世界の中心であり、諸王国をまとめる主要国家の一つです。別名 聖王国。五大王国の一つでもあります》

 五大王国とは、文字通りこの世界のトップファイブの力を持つ大国の事を指す。この五つの大国が他の国々の間の利害を調整したりしていた。よって大きな戦争や争い事もない。いわば、世界の潤滑油みたいな存在なのである。
 互いに同盟関係にあるため五国間の関係も良好であった。むしろ、魔物の急増を機にさらに強固なものとなりつつある。
 結菜は見上げていた視線を下ろした。首が一直線になるくらい見上げていたので首筋が痛い。
 視線の先には泉があった。湖と言っても過言ではないほどの大きさである。
 上の世界樹から雫が美しい音を立てて落ちてきていた。
 結菜は泉の中央に水晶でできたような浮島に向かって行こうとした。船のようなものなどはもちろんない。
(まさか……。いや、でも他に方法がないし…………)
 結菜はなんとなくこうするべきなのではというアイデアが頭に浮かんだ。なんとなく、本当にパッと閃きに近い感じで……。
 ロンを一旦下ろすと、結菜は意を決して、水面の上に歩を進めた。



 
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