上 下
18 / 75
第3章 ダンジョン脱出から約二週間、早朝に誘拐されました‼

第十六話 その運び方やめてください‼切実に‼

しおりを挟む
 早朝のため、まだ通りに出歩いている人は誰もいなかった。パン屋さんが開店すると同時にふわふわパンを入手するため、早くクランを出てきたのだから無理もない。
 結菜は石畳の上を軽い足取りで歩いていた。石畳の道に結菜の足音だけが響く。


 っとその時、突然結菜の視界がぐるんと一回転した。結菜は一瞬の出来事にぽかんとする。
「はぇ?」
 何が起こったのかわからず、自分の一つ括りにされた髪がゆらゆら揺れるのを、結菜は呆然としながら眺めた。
 逆さまになった視界の端にロンが慌てたように鳴いているのを見て、結菜は自分の身に起こったことをようやく理解し始めた。
(こっ、これってもしかして、いやもしかしなくても誘拐、なんじゃ……)
 助けを求めようと辺りを見回したが、当然のことながら通りには誰もいない。そうだよね、うん、そうだと思った‼結菜はもう嫌だと心の中で嘆いた。
 そもそもパン屋さんの開店は普通の人が起きていないくらい早いのだ。結菜はその開店時刻ピッタリにパン屋さんに着くようにクランを出てきたのだから、誰も歩いていないのも当然のことなのである。そのことに、はたと結菜は気づいた。
(っていうか、誰も歩いていなかったじゃん‼なんで私は今、誰かさんに担がれてるの⁉)
 頭の中が真っ白になっていくのを感じながら、結菜はその場のノリでツッコミを入れる。今日も結菜のツッコミEXは絶好調の働きを見せていた。

《鑑定。常人では認識できないほど気配を消していた模様。訓練を重ねることで習得可能な技術です。》

(はい、ありがとうございます。鑑定ご苦労様です。……でも今はこの状況を打破する方法を教えてほしいな‼)
 結菜のスキル《鑑定+》が、必死にツッコミながらした結菜の心の問いに答えたようだ。
 結菜は鑑定のスキルが自分にあったことを思い出し、鑑定さんにお願いしてみる。今更である。今更ではあるのだが………。まぁ、そこは気にしたらいけない。

《……………………………………。》

 黙るんかい‼いやいや黙らないで何か言ってよ、と思う結菜。しかし鑑定さんの反応は皆無であった。ドンマイである……。
 鑑定さんが答えてくれないので、結菜は誰かが気づいてくれることを願いとりあえず思いっきり叫ぼうとした。

「ぐぉぇ‼」

 …………はい、無理でした。結菜は乙女にあるまじき声が出たことに恥ずかしさで身悶えた。まるでガマガエルが潰れた時のような声であった。……まぁ実際に聞いたことはないけどね‼
 お腹が誘拐犯の肩に食い込んで圧迫されまくっている。胃の付近がぐっと抑えられているため、何度試してみてもガマカエルが潰れたような声しか出てこない。グギュ、グエッ、グォェ、の連発である。
 せめて痛くないように担いでほしくて、結菜は手足をじたばたさせた。だがしかし、さらに胃が圧迫されてよけいに痛くなっただけだった。何も食べてないのに何かが出そうになる。このままだと、誘拐犯の背中に画像規制がかけられうるものがかかることになりそうである。
 ある意味自分の身の危険を感じた結菜はぐったりと大人しくなったのであった。




 
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

大賢者の弟子ステファニー

楠ノ木雫
ファンタジー
 この世界に存在する〝錬金術〟を使いこなすことの出来る〝錬金術師〟の少女ステファニー。 その技を極めた者に与えられる[大賢者]の名を持つ者の弟子であり、それに最も近しい存在である[賢者]である。……彼女は気が付いていないが。  そんな彼女が、今まであまり接してこなかった[人]と関わり、成長していく、そんな話である。  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

【完結】僕は今、異世界の無人島で生活しています。

コル
ファンタジー
 大学生の藤代 良太。  彼は大学に行こうと家から出た瞬間、謎の光に包まれ、女神が居る場所へと転移していた。  そして、その女神から異世界を救ってほしいと頼まれる。  異世界物が好きな良太は二つ返事で承諾し、異世界へと転送された。  ところが、女神に転送された場所はなんと異世界の無人島だった。  その事実に絶望した良太だったが、異世界の無人島を生き抜く為に日ごろからネットで見ているサバイバル系の動画の内容を思い出しながら生活を開始する。  果たして良太は、この異世界の無人島を無事に過ごし脱出する事が出来るのか!?  ※この作品は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さん、「ノベルアップ+」さん、「ノベリズム」さんとのマルチ投稿です。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順
ファンタジー
ある日、異世界と行き来できる『門』を手に入れた。 友人たちとの下校中に橋で多重事故に巻き込まれたハルアキは、そのきっかけを作った天使からお詫びとしてある能力を授かる。それは、THERE AND BACK=往復。異世界と地球を行き来する能力だった。 しかし異世界へ転移してみると、着いた先は暗い崖の下。しかも出口はどこにもなさそうだ。 「いや、これ詰んでない? 仕方ない。トンネル掘るか!」 これはRPGを彷彿とさせるゲームのように、魔法やスキルの存在する剣と魔法のファンタジー世界と地球を往復しながら、主人公たちが降り掛かる数々の問題を、時に強引に、時に力業で解決していく冒険譚。たまには頭も使うかも。 週一、不定期投稿していきます。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しています。

処理中です...