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第1章エリア1 英雄の誕生
第21話レベル5
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洞窟の奥底から漂ってくる酷い死臭に、冒険者たち一行は顔を顰め鼻をつまむ。そんな冒険者パーティーのリーダーである彼の名前はベリト。
ベリトはついさっきレベル3になったばかりの冒険者だ。決してこんな場所にある洞窟に来ていいような人間じゃない。
だが、他の人間たちよりもいち早くレベル3に到達したことにより、少々慢心してしまったのだろう。この世界が囚われてから一週間ほどが経つが、いまだにほとんどの人間は初期状態であるレベル1のまま。
みな怯え、戦うことを放棄してしまっているからだ。だけど、みんながみんなそうじゃない。ベリトたちのように、この世界を救うべく凶悪なモンスターと戦う者もいる。
そんな戦う者の中でも、レベル3というのは平均よりも高いのだ。ほとんどはレベル2。始まって一週間で3に到達しているものたちなど、数えるほどしか出会っていない。
そんな優越感に浸り、チームリーダーであるベリトは街から少し離れたこの洞窟内に足を踏み入れてしまったのだ。
だが、この行動が過ちなんじゃないかとベリトは思い始める。いや、ベリトだけでなく、メンバー全員が同じ思いを抱きながら前に進んでいる。
普通の洞窟ならダンジョンのように、道が入り乱れ、各場所に宝箱やモンスターが配置されているのだ。だが、この洞窟は違う。
道は一本道で構成されており、モンスターの姿はどこにも見当たらない。さらに極め付けには、この奥から漂う悪臭。一体奥には何があるんだ?
興味と恐怖を天秤にかけるが、重さは同じ。この歩みが間違いである可能性は非常に高い。ベリト以外のメンバーは歩く速度を緩めると、リーダーに進言する。
「なあベリト、この洞窟おかしいぜ。どう見ても普通じゃねえ。引き返すべきだ」
パーティーメンバーの魔術師であるブッドが適切なアドバイスを送るが、ベリトは前に進む決断をした。
「確かにそうかもしれないけど、まだ危険と決まったわけじゃない。それに、僕たちが早く強くなってお金を稼げば、多くの人たちを救えるだろ?」
柔和な笑みでベリトがパーティーメンバーに言うと、呆れたのかやれやれといった様子で彼の後をついていく。
もともとベリトたち一行は知り合いというわけじゃない。にも関わらず彼らがベリトをリーダーに添えて活動しているのは、ひとえにベリトの優しさに惚れたからである。
この囚われた世界を一刻も早く解放して、人々が安心して暮らせる元の世界に戻して見せると、彼は心の底から本気で思っている。
見ず知らずの他人のためにここまで真剣に考えることができる人間というのは、そう多くはない。
そんな愚直とも言えるベリトの願いを叶えるために、このパーティーは結成されたのだ。だからベリトのため、ひいては今後の人類のためを思うなら、ここは先に進むべきなのだろうとパーティーメンバーは判断した。
なんとか長い道のりを超え、ようやく明るい大広間に到着したベリト一行。だが、そんなベリトたちの目に、異様とも言える光景が映った。
地面に倒れる男三人に、女性を膝枕する幼い顔立ちの青年。異臭が充満するこの空間で、血まみれの青年が女の子に膝枕している。
この光景を異様と言わずなんというのか。ベリトの目に映った青年は彼がやってきたこに気がつくと、縋るような声で初対面のベリトに頼み込んできた。
「す、すいません! どなたか存じませんが少量でいいのでポーションを分けてはくれませんか? もしくは回復魔法を」
突然の願いに、ベリトたちは戸惑う。どうする? でも別に断る理由もないし、とりあえず話を聞くためにも回復してあげるのが正解か。
ベリトは僧侶職のマーシャに顎で合図すると、彼女はこくんと頷き青年の方に近寄り回復魔法をかけた。他の倒れ込んでいるゴツい男も同様に。
マーシャが回復呪文を掛けたことで倒れていた男の意識が戻ると、男たちはすぐに青年の元へ駆け寄り、頭を下げた。
「ありがとうございます! おめ……いや、あなたが居なければ、俺たちは確実に死んでました」
一番大柄な男が青年に頭を下げると、他の2人も続けて頭を下げた。またも不思議な光景だ。あんなに柄の悪そうな大男が、ひ弱そうな男の子に頭を下げるなんて……。どういった関係なのだろう?
そこらへんも含めて、何が起こったのか彼らに聞いてみよう!
「……レベル5?」
聞いてみようなどと息巻いていたベリトであったが、彼のレベルを聞いた瞬間に質問の内容が脳から弾け飛んだ。
なんだレベル5って。幻聴か? もしくはふざけているのか? どちらにしても青年の言葉を素直に信じられなかったベリトは、もう一度尋ねる。
「えーと、もう一回レベルを聞いても?」
どうしても青年の話を信じることができないベリトは、訝しげに彼を観察する。あまり覇気のない幼い顔立ちに、黒いコートを着飾る青年。正直な感想として、あまり強そうではない。
同じ質問を彼方と名乗る青年にすると、彼はめんどくさそうにメニューウィンドウを開き、こちらにステータス画面が見えるようにする。
するとそこには、しっかりとレベル5の表記がなされていた。本当にレベル5だ。このたった一週間で、一体どうやって?
ベリトたちが驚きの声を上げていると、彼方は照れ臭そうにしながらも経緯を説明してくれた。なんでも、廃村にいる女の子からキークエストとやらを受け、村を滅ぼしたゴブリンロードを討伐したらこんなにもレベルが上がったとか。
ちなみにそのゴブリンロードはレベル6だったらしい。いやいや、おかしいだろ。つまり彼の話では、レベル4の状態でレベル6のボスモンスターを倒したということになる。
しかもゴツい男たちの話を聞く限りでは、HPの半分以上を彼1人で削りきったとか。
「いやー俺たちも兄貴のおこぼれでレベル5にしてもらってすいませんね」
「それは別にいいけど……。てか兄貴ってなに? 恥ずかしいからやめてほしいんだけど……」
「つれねえこと言わないでくださいよ! 昨日までのことなら謝ったじゃないすか」
「別に昨日のことはどうでもいいから、とりあえず名前で呼んでほしいんだよ」
「じゃあ彼方の兄貴で」
「はぁ……もういいよ」
軽口を叩く彼方と、彼方を尊敬するガーランド。2人の軽快なやりとりを見ていると、あれ……? とベリトは違和感を覚える。
彼方に愛花にガーランドにガラにザラス。明らかに1人多い。パーティーは通常4人までしか組めないはずだが、もしかしたらそれ以上で組む方法を知っているとか? レベル5に到達した人たちだ。知っていてもおかしくない。
パーティーメンバーが増えれば、その分戦闘行為が安全に行える。人が多ければ安定して戦えることなど、猿でもわかることだ。
「ね、ねえ君たち。なんで5人パーティーなんだい?」
問いかえると、彼方は簡潔に説明してくれた。
「このキークエストは、2組のパーティーで受けるものだったんですよ。だから僕と愛花ちゃん。それにこの人たちの計5人で挑んだってわけです」
「な、なるほど」
そんなクエストがあるのか。勉強になったとベリトが関心を示していると、横から割って入るようにガーランドが自慢げに話し始める。
「それだけじゃねえ! これは共闘で挑む関係上、普段よりもモンスターのステータスが高めに設定されてたんだよ。だからあのボスも、レベル7相当の実力だったと俺は見ている。そんな奴を彼方の兄貴はほぼ1人で倒しちまったんだよ!」
まるで自分のことのように自慢話を始めたガーランドに、またもベリトは驚く。実質レベル7? 流石に眉唾だが、共闘なんて仕様を取っているぐらいだからおかしな話でもないのか?
にしても、目の前にいる彼方という青年は一体どれほど強いんだ? ベリトの中に眠る好奇心が、ウズウズと騒ぎ始める。ベリトは確かにこの世界を救うための、いわば慈善活動として攻略しているといっても過言じゃない。
だが、そんなベリトも多少はこの世界に楽しみを見出していた。彼方ほどの狂人というわけではないが、この世界で早くもレベル3になっているほどの人間だ。
モンスターと戦うのが嫌いというわけではない。むしろ最初の街で怯えている人間と比べれば、好きの部類に入るだろう。
だが何も、戦いたいのはモンスターだけに止まらない。目の前にいる、負けると分かっている彼方とも戦ってみたいと、ベリトの好奇心が刺激される。そもそも生物のオスとして、強者と戦いたいという欲望は至極真っ当のものである。
負けることはわかってる。だが、試さずにはいられない。レベル7相当のボスモンスターを倒すことができる、彼方という人間の実力を。
そしてその力が本物ならば、是非とも力を貸してほしいと思う。
「ねえ彼方くん、もしよければ僕とPvPをしないかい」
唐突な誘いに、その場にいた誰もが動揺する。当然だ。ベリトが彼方に勝てるわけないと、その場にいた誰もが思ったから。
だが、そんなことはベリトも承知の上。ただ好奇心を満たしたいがための、自己満足によるお願いだ。
「だ、だめかな? 出会って間もないのに失礼なお願いをしていることは重々承知なんだけど」
不安げに尋ねると、彼方はため息交じりに了承してくれた。
ベリトはついさっきレベル3になったばかりの冒険者だ。決してこんな場所にある洞窟に来ていいような人間じゃない。
だが、他の人間たちよりもいち早くレベル3に到達したことにより、少々慢心してしまったのだろう。この世界が囚われてから一週間ほどが経つが、いまだにほとんどの人間は初期状態であるレベル1のまま。
みな怯え、戦うことを放棄してしまっているからだ。だけど、みんながみんなそうじゃない。ベリトたちのように、この世界を救うべく凶悪なモンスターと戦う者もいる。
そんな戦う者の中でも、レベル3というのは平均よりも高いのだ。ほとんどはレベル2。始まって一週間で3に到達しているものたちなど、数えるほどしか出会っていない。
そんな優越感に浸り、チームリーダーであるベリトは街から少し離れたこの洞窟内に足を踏み入れてしまったのだ。
だが、この行動が過ちなんじゃないかとベリトは思い始める。いや、ベリトだけでなく、メンバー全員が同じ思いを抱きながら前に進んでいる。
普通の洞窟ならダンジョンのように、道が入り乱れ、各場所に宝箱やモンスターが配置されているのだ。だが、この洞窟は違う。
道は一本道で構成されており、モンスターの姿はどこにも見当たらない。さらに極め付けには、この奥から漂う悪臭。一体奥には何があるんだ?
興味と恐怖を天秤にかけるが、重さは同じ。この歩みが間違いである可能性は非常に高い。ベリト以外のメンバーは歩く速度を緩めると、リーダーに進言する。
「なあベリト、この洞窟おかしいぜ。どう見ても普通じゃねえ。引き返すべきだ」
パーティーメンバーの魔術師であるブッドが適切なアドバイスを送るが、ベリトは前に進む決断をした。
「確かにそうかもしれないけど、まだ危険と決まったわけじゃない。それに、僕たちが早く強くなってお金を稼げば、多くの人たちを救えるだろ?」
柔和な笑みでベリトがパーティーメンバーに言うと、呆れたのかやれやれといった様子で彼の後をついていく。
もともとベリトたち一行は知り合いというわけじゃない。にも関わらず彼らがベリトをリーダーに添えて活動しているのは、ひとえにベリトの優しさに惚れたからである。
この囚われた世界を一刻も早く解放して、人々が安心して暮らせる元の世界に戻して見せると、彼は心の底から本気で思っている。
見ず知らずの他人のためにここまで真剣に考えることができる人間というのは、そう多くはない。
そんな愚直とも言えるベリトの願いを叶えるために、このパーティーは結成されたのだ。だからベリトのため、ひいては今後の人類のためを思うなら、ここは先に進むべきなのだろうとパーティーメンバーは判断した。
なんとか長い道のりを超え、ようやく明るい大広間に到着したベリト一行。だが、そんなベリトたちの目に、異様とも言える光景が映った。
地面に倒れる男三人に、女性を膝枕する幼い顔立ちの青年。異臭が充満するこの空間で、血まみれの青年が女の子に膝枕している。
この光景を異様と言わずなんというのか。ベリトの目に映った青年は彼がやってきたこに気がつくと、縋るような声で初対面のベリトに頼み込んできた。
「す、すいません! どなたか存じませんが少量でいいのでポーションを分けてはくれませんか? もしくは回復魔法を」
突然の願いに、ベリトたちは戸惑う。どうする? でも別に断る理由もないし、とりあえず話を聞くためにも回復してあげるのが正解か。
ベリトは僧侶職のマーシャに顎で合図すると、彼女はこくんと頷き青年の方に近寄り回復魔法をかけた。他の倒れ込んでいるゴツい男も同様に。
マーシャが回復呪文を掛けたことで倒れていた男の意識が戻ると、男たちはすぐに青年の元へ駆け寄り、頭を下げた。
「ありがとうございます! おめ……いや、あなたが居なければ、俺たちは確実に死んでました」
一番大柄な男が青年に頭を下げると、他の2人も続けて頭を下げた。またも不思議な光景だ。あんなに柄の悪そうな大男が、ひ弱そうな男の子に頭を下げるなんて……。どういった関係なのだろう?
そこらへんも含めて、何が起こったのか彼らに聞いてみよう!
「……レベル5?」
聞いてみようなどと息巻いていたベリトであったが、彼のレベルを聞いた瞬間に質問の内容が脳から弾け飛んだ。
なんだレベル5って。幻聴か? もしくはふざけているのか? どちらにしても青年の言葉を素直に信じられなかったベリトは、もう一度尋ねる。
「えーと、もう一回レベルを聞いても?」
どうしても青年の話を信じることができないベリトは、訝しげに彼を観察する。あまり覇気のない幼い顔立ちに、黒いコートを着飾る青年。正直な感想として、あまり強そうではない。
同じ質問を彼方と名乗る青年にすると、彼はめんどくさそうにメニューウィンドウを開き、こちらにステータス画面が見えるようにする。
するとそこには、しっかりとレベル5の表記がなされていた。本当にレベル5だ。このたった一週間で、一体どうやって?
ベリトたちが驚きの声を上げていると、彼方は照れ臭そうにしながらも経緯を説明してくれた。なんでも、廃村にいる女の子からキークエストとやらを受け、村を滅ぼしたゴブリンロードを討伐したらこんなにもレベルが上がったとか。
ちなみにそのゴブリンロードはレベル6だったらしい。いやいや、おかしいだろ。つまり彼の話では、レベル4の状態でレベル6のボスモンスターを倒したということになる。
しかもゴツい男たちの話を聞く限りでは、HPの半分以上を彼1人で削りきったとか。
「いやー俺たちも兄貴のおこぼれでレベル5にしてもらってすいませんね」
「それは別にいいけど……。てか兄貴ってなに? 恥ずかしいからやめてほしいんだけど……」
「つれねえこと言わないでくださいよ! 昨日までのことなら謝ったじゃないすか」
「別に昨日のことはどうでもいいから、とりあえず名前で呼んでほしいんだよ」
「じゃあ彼方の兄貴で」
「はぁ……もういいよ」
軽口を叩く彼方と、彼方を尊敬するガーランド。2人の軽快なやりとりを見ていると、あれ……? とベリトは違和感を覚える。
彼方に愛花にガーランドにガラにザラス。明らかに1人多い。パーティーは通常4人までしか組めないはずだが、もしかしたらそれ以上で組む方法を知っているとか? レベル5に到達した人たちだ。知っていてもおかしくない。
パーティーメンバーが増えれば、その分戦闘行為が安全に行える。人が多ければ安定して戦えることなど、猿でもわかることだ。
「ね、ねえ君たち。なんで5人パーティーなんだい?」
問いかえると、彼方は簡潔に説明してくれた。
「このキークエストは、2組のパーティーで受けるものだったんですよ。だから僕と愛花ちゃん。それにこの人たちの計5人で挑んだってわけです」
「な、なるほど」
そんなクエストがあるのか。勉強になったとベリトが関心を示していると、横から割って入るようにガーランドが自慢げに話し始める。
「それだけじゃねえ! これは共闘で挑む関係上、普段よりもモンスターのステータスが高めに設定されてたんだよ。だからあのボスも、レベル7相当の実力だったと俺は見ている。そんな奴を彼方の兄貴はほぼ1人で倒しちまったんだよ!」
まるで自分のことのように自慢話を始めたガーランドに、またもベリトは驚く。実質レベル7? 流石に眉唾だが、共闘なんて仕様を取っているぐらいだからおかしな話でもないのか?
にしても、目の前にいる彼方という青年は一体どれほど強いんだ? ベリトの中に眠る好奇心が、ウズウズと騒ぎ始める。ベリトは確かにこの世界を救うための、いわば慈善活動として攻略しているといっても過言じゃない。
だが、そんなベリトも多少はこの世界に楽しみを見出していた。彼方ほどの狂人というわけではないが、この世界で早くもレベル3になっているほどの人間だ。
モンスターと戦うのが嫌いというわけではない。むしろ最初の街で怯えている人間と比べれば、好きの部類に入るだろう。
だが何も、戦いたいのはモンスターだけに止まらない。目の前にいる、負けると分かっている彼方とも戦ってみたいと、ベリトの好奇心が刺激される。そもそも生物のオスとして、強者と戦いたいという欲望は至極真っ当のものである。
負けることはわかってる。だが、試さずにはいられない。レベル7相当のボスモンスターを倒すことができる、彼方という人間の実力を。
そしてその力が本物ならば、是非とも力を貸してほしいと思う。
「ねえ彼方くん、もしよければ僕とPvPをしないかい」
唐突な誘いに、その場にいた誰もが動揺する。当然だ。ベリトが彼方に勝てるわけないと、その場にいた誰もが思ったから。
だが、そんなことはベリトも承知の上。ただ好奇心を満たしたいがための、自己満足によるお願いだ。
「だ、だめかな? 出会って間もないのに失礼なお願いをしていることは重々承知なんだけど」
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