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第1章エリア1 英雄の誕生

第7話死線

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痛い、痛すぎる。息をするのも苦しい。そうか……。そういえば魔王は、痛みの概念も与えるとか言ってたっけ……。

 完全に死ぬことばかりに気を取られて、忘れてた。って、そんな悠長なことを考えてる場合じゃない! 
 
 本当に死ぬ! 僕のHPバーは一発で半分近く持ってかれ、既に半死の状態だ。おかしいだろ! 仮にも序盤の一番最初に敵対するモンスターだぞ。

 難易度設定に不備があるとしか思えない。僕は何発も殴ってようやく相手モンスターのHPバーを半分まで削ったというのに、相手は一発で僕の体力を半分も持っていきやがった。

 バランスの取れてないゲーム設定にいきどおりを感じつつも、僕は一度相手から距離をとり、態勢を立て直す。

 どうやらこのゲーム、痛みはあるがそれによって身体の部位が損傷することはないらしい。

 きっと現実であんなタックルを食らったら、肋骨あばらぼねは砕け、骨が内臓に刺さり、歩くたび全身に痛みがほとばしったに違いない。

 だけど今、僕はゆっくり歩いているが、歩くことによる振動で痛みを感じることはない。

 あの突進を食らった瞬間だけものすごい痛みが走り、その後は徐々に痛みが薄れていく。なるほど。なんとなくゲーム性を理解する。

 とりあえず今は、この減ってしまったHPを回復させよう。先ほど購入したポーションの効果は、HPを30回復させると記載きさいされていた。

 一旦これを飲んで、態勢を立て直さなくては……。僕は右手に持っていた剣を左手に持ち替えると、慣れた手つきで人差し指を突き出し、空中で下方向にスワイプする。

 これでいつもなら、メニューウィンドウが表示される。なのに、今はいくら人差し指を下にスワイプしても、メニューウィンドウが表示されない。

 どういうことだよ! 焦って何度も指を下にスワイプさせるが、いくらやってもメニューウィンドウは姿を現さない。

 まさか——!

 なんとなく今の状況を察して敵に向き直ろうとするが、気づけばイノシシモンスターは僕めがけて突進してきており、とてもじゃないが躱せそうになかった。

 防衛本能に従いなんとか体を丸めてガードを試みるが、僕は数メートルぶっ飛ばされ、さらにHPを削られた。

 痛い、怖い、死ぬ! 先ほどまで感じていた高揚感は微塵みじんもなく、今はただ、恐怖の感情が僕を支配する。

 地面に突っ伏してしまった身体をなんとか立ち上がらせると、痛みを我慢し、再度モンスターの前に立ち、相手を観察する。

 このバトルフィールの中では、メニューウィンドウが開けない。つまり自力では回復ができないということ。

 残りのHP残量からして、あと2発ほど攻撃をもらえば僕は絶命する。怖い……。でも、決して勝てない相手じゃない。

 行動パターンは単調なんだ。慢心せず、相手の行動を見極めて攻撃を入れれば必ず勝てる。

 恐怖を殺せ! こんなところで、つまづいている場合じゃないだろ! 自分に喝を入れると、負傷した身体にむちを打ち、攻撃に転じる。

 イノシシの攻撃パターンは2つ。予備動作なしの突進か、予備動作ありの強突進。どちらも動き自体は単純で、冷静に見極めれば余裕でかわすことが出来る。

 ザッザとイノシシが地面を蹴り上げ突進してくると同時に、僕は右側に避け、すかさずイノシシの顔面に剣を叩き込む。

「プゴォォォ!」

 モンスターが叫び声をあげると、またも一定の距離を保ち、敵の攻撃を誘発する。さあ、かかってこい! 
 
 同じ動作を繰り返し、モンスターのHPバーが緑から黄色。最終的に赤のラインに突入すると、僕は両手で剣を上段に振り上げ、思いっきり振り降ろす!

「プゴォ……」

 モンスターのHPバーがゼロになると、イノシシは情けない声を漏らしながらその場で倒れこみ、じゅうううと一瞬で蒸発して、跡形もなくなった。そして、モンスターを倒した報酬として、10の経験値と、10のお金。ついでに「モンスターの毛皮」という物を入手した。

「はぁ……はぁ……勝った」

 息切れが止まらない。剣を鞘に収めると、右手の人差し指でメニューウィンドウを開く動作をする。

 僕が指を下にスワイプすると同時、シュウィンと機械的な音を出しながらメニュー画面が表示される。
 
 よかった。やっぱりさっきのはバグじゃなかった。メニュー画面の道具を選択すると、ポーションを2つ使い体力を全回復させる。

 すると、先ほど突進された時に生じた体の痛みは一瞬で引いていき、この世界がゲームであることを実感させられる。

 初戦闘で生き残れたことに安堵しつつも、メニューウィンドウからマップを選択すると、すぐさま《はじまりの街スタート》に戻る。

 これ以上モンスターと戦闘する気力が、今の僕にはどうしてもなかったから……。




 それから2日が経とうというのに、僕はあれから一度もモンスターと戦闘すら出来ずにいた……。
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