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最後の夜
しおりを挟む本邸は、人の気配などなく只々不気味だった。使用人がいないとはいえ、廊下にはランプ一つ灯りが燈ってない。一言でいえば、温もりがないのだ。
「……淋しくないのですか?」
「忘れた……それと……」
そう言って、カイゼル様に肩を抱かれた姿勢で私の肩にかかっていたショールを頭から被せてきて私を隠すように抱き寄せた。
「近づくな!!」
わかる。背後から感じるこの不気味な気配はあの呪いだ。近くにいたのだ。でも、カイゼル様の呪いが近づかない体質のおかげで呪いがそばに寄れない。でも、いつも見ているのだろう。
階段を上がりカイゼル様の部屋に着くと、中はなかなか広い。でも、整理されているとは言い違い部屋だった。本棚に収まり切れず部屋中に置かれた書物の数々に、窓のそばには大きなベッド。暖炉には火も付いてない。
「……大きなベッドですね」
部屋の感想を言うものがベッドぐらいの家具しかないこの部屋で、本の積み重なったテーブルの隅に持ってきたバスケットを置いた。
カイゼル様は、ベッドに乗っている本を片付けようとしている。
「今まで一人で寝ていたのですか?」
「この邸には、誰も入れられないと言っただろ。クローディアが初めてだ。大体、俺は身体が大きいんだ。これぐらいでちょうどいい」
確かに昔よりもずっと大きい。背も高いし、身体も筋肉質でがっしりとしていた。
昔は華奢で繊細な感じだったのに……絶対に貴公子のように見目麗しい感じになると思っていた。
「……確かに大きな身体ですね」
「呪いは、健康な身体を嫌うと言われている。だから、身体も鍛えた」
そう言いながら、カイゼル様が雑に本を本棚へと片付けている。
「寒くないか? 暖炉も今、火をつけるから……」
「いりません……カイゼル様がいれば、温かいですから……」
カイゼル様の後ろから、しがみつくように抱き着いた。その逞しい背中に頭を付けた。
「抱いてください……」
「……ずっと、拒否していたのにか?」
「だって……怖い……でも、私は夜伽係ですから……ダメですか?」
「いや……身体は俺に差し出すと言ったからな」
力強い手で身体を抱き上げられると、ベッドに優しく押し倒された。上からは、カイゼル様が覆いかぶさってくる。
近づいてくる顔に好きだと言いたい言葉を飲み込んでキスを交わす。持ち上げるように支えられた手は力強くて安心してしまう。
「夜伽係り、か……」
「はい。それに伽をしているんですから、たまにはご褒美をくださいね。私はカイゼル様の恋人ではないのですから……」
本当はご褒美なんかいらない。でも、呪いが見ているなら、私とカイゼル様が惹かれあっていると気付かれてはいけないのだ。カイゼル様が、私にずっとそうしてきたように……でも、私たちはきっともう限界だ。それでも、カイゼル様を倣いそう言った。
「何でも買う。何が欲しい。ドレスでも、宝石でも……」
「では大きなリボンを下さい。黒に合うような赤いリボンがいいです」
カイゼル様は、いつも黒い服を身にまとっている。それに合う様なリボンにしたかった。
「朝一番に買ってくる」
「はい……でも、朝食はちゃんと食べてくださいね。明日は一緒に食べましょう」
「わかった……」
上から覆いかぶさっているカイゼル様の背中に腕を伸ばして抱き寄せた。何度も唇を交わしている。いつの間にか濡れそぼった秘所に彼の手が伸びており、それを喜んで迎えた。
「はぁっ……」
大事に抱き寄せていた身体から少し離れたかと思えば、両足がグッと開かれる。濡れた秘所をカイゼル様のしっかりとした長い指が出し入れされてそれだけで身体がベッドの上で弓なりに反っていた。お腹の奥がキュッと疼く。今だけは何も考えなくていい。
カイゼル様だけを感じていればいいのだという言葉すらも思考から消した。
「カイゼル様……もっとしてください」
「聞かれるぞ……」
「いいの……あの呪いは大嫌い……っ」
唇が重なる。それと同時にカイゼル様の大きなモノが奥をつくと、身体がびくんと跳ねる。
もう何度も受け入れたモノが、抽送を始める。彼の息も早くなっていた。
そのまま、何度も朝まで抱かれていた。
♢
白む朝日が、窓から指している。
乱れたベッドで私を腕の中に閉じ込めたままで眠っていたカイゼル様の身体が目の前にある。身体も顔も何度見ても男らしい。これなら、誰もが見惚れる。今も、彼にときめいている自分がいた。
薄いレースのカーテンからの光が眩しくて身体を起こすとカイゼル様の手が私の腰に伸びてきた。
「起きるのか?」
「もう朝ですし……シチューを作ろうかと思いまして……」
「朝から?」
「スープの代わりです」
シーツで身体を隠して裸の上半身を起こすと、起き上がったカイゼル様が後ろから愛おしそうに私を抱き寄せる。
その仕草が堪らなく心地よく思えた。
「いつもちゃんと寝てくださいね」
「クローディアが来てからは、よく眠っているが……」
「最近は、ずっと目の下が黒くて怖い顔でしたよ?」
「お前が、拒否するからだ」
「す、すみません……」
眠れなかったのは、私のせいだという風に言われてしまった。
「クローディア……」
「はい」
名前を呼ばれて顔を上げようとするとそれよりも早くにカイゼル様の指が私の顎をクイッと上げる。
朝の優しいキスだ。唇だけが重なる甘い恋人のようなキスだった。
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