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ランタンの灯り

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カイゼル様をずっと待っていた。窓からランタンの灯りが早く付かないかと、待ち焦がれている。今思えば、このランタンも魔法の道具かもしれない。

窓から外を見ると、時折黒いモヤがさ迷っている。でも、この別邸には入って来られない。
きっと、別邸にずっと置いてあったこのランタンに何か仕掛けがしているのだ。それと、私に聖女の力が戻ってきているか……先日の夜の丘に行った時も、呪いが別邸に入って来られなかった。そんなことも知らなかった私は、外にいた呪いに驚き飛び出していったのだと思い出す。

鍵魔法は進行しており、その兆候はあったのに何も知らない私は、それさえもわからなかった。

「……鍵魔法を使わなくても、カイゼル様にならいくらでも身体を差し出すのに……」

鍵魔法を使うつもりで、私を迎えに来たカイゼル様。不器用な彼は、ああでも言わないと素直に伝えられなかったのかもしれない。初対面の時から、口が悪くて、呪いのことも話せなかったし……ロゼとゼルが繋がっていると、エルゼラの呪いにバレないようにしていたのだと、今ならよくわかる。

カイゼル様が、私の名前を間違えて覚えてしまっていたおかげで、私は何とかここまで呪いに侵されながらも生きて来られたのだ。

ふと見ると、真っ暗な庭をさ迷っていた黒いモヤがいない。その時に、綺麗な月明かりの中で、カイゼル様が帰宅したのか馬の音がした。

帰ってきた……。

持っていたランタンをしっかりと持って、カイゼル様の部屋からのランタンの灯りを待っていた。
しばらく待つと、カイゼル様の部屋の灯りも付かないままでランタンの灯りの合図が来た。

『帰った』

短い合図に、帰宅には気づいていますよと思いながら、くすりと笑みを零して返答した。

『おかえりなさい』

我ながら上手く返答出来たと思う。昔のように、うろ覚えではない。あれから、いつでも使えるように覚えていたことは無駄ではなかったと自分に頷いた。
そして、もう一度ランタンの灯りが合図を出した。

『ロゼ。好きだよ』
『知ってる。ゼルが好き』

私も、と言いたいところだけど、ランタンの灯りの合図だから、わかりやすいように、一言一言伝える。

そして、少しだけ間が開いた。少しでも、気持ちが伝わればいい。願わくば、私と同じ気持ちでいて欲しい。
昔は、彼のランタンの灯りだけを待っていた。あの閉じ込められた屋根裏部屋で唯一の光だった。でもずっと思っていた。どうして迎えに来てくれないの……と。

ゼルがいつか迎えに来てくれることを期待していた。
彼が、『いつか迎えに行く』とランタンを照らしていたのだ。それも、思い出した。
屋根裏部屋と、彼がいたところから、離れているのにそばにいるみたいに流れ星を見た。
同じものを同時に見ていることが……ゼルと共有していることが、私の心を癒していたのだ。

ずいぶんいろんなことを忘れていたなぁと、改めて思うとまたくすりと笑みが零れた。
忘れていたこともたくさんあるけど、子供の時に芽生えたゼルへの仄かな恋心は消えてなかった。今でも、忘れられないほど好きなのだ。
そして、カイゼル様から、またランタンの灯りがきた。

『どこにも行かないで』

胸が痛い。泣きそうになる。カイゼル様は、何も知らない私と違って一人で何もかも背負って来ているのだ。今も私を助けようと一人でもがいている。

『……部屋に連れて行って』
『ここには入れられない』

本邸に入れるということは、ただの夜伽係ではないと思われるからだ。でも、もうそんなことは関係ない。関係ないのだ。

『迎えに来て』
『無理だ』
『お菓子もある』
『いらん』

意外と頑固だ。お菓子でも、迎えに来てくれないとは……どうやって来てもらおうかと頭を悩ます。一人で行っても大丈夫だろうか。
そう思っていると、カイゼル様の部屋からランタンの灯りが消えた。

きっと私を迎えに来てくれるんだ……そう思うと、焼き菓子を入れたバスケットを持って玄関へと足早に降りた。閉じられた玄関の扉を開けてカイゼル様が迎えてくれる。
そう期待して、深呼吸をして待った。そして、静かに開かれた扉から、カイゼル様と一緒に月明かりが差した。

「迎えに来た」
「はい。ずっと待っていました……」

まるで昔交わした『迎えに行く』と言った約束を果たしたかのような錯覚に陥る。
目尻が潤むと、カイゼル様が優しく私を抱きしめる。

「何かあったのか?」
「なにも……ただ、あなたのベッドで眠りたくて……」

カイゼル様の背中に手を回して抱き返した。そして、愛おしそうにキスをされると私を初めて本邸へと連れて行ってくれた。




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