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夜の丘 1
しおりを挟む深夜。ずっとカイゼル様が帰宅するのを窓から見張るように待っていた。でも、未だに帰ってこない。
夕食も準備していたけど、彼は帰って来なかった。せめて夜食ぐらいになるかと、残っているサラダなどをパンに挟んでバスケットに詰めて待っていた。
そのバスケットを膝に抱えたままで、別邸の一階の窓からずっとフォルクハイト伯爵家の門の方角を見ていた。
……カイゼル様の様子がおかしい。いつも何も言わないから、何を考えているのかわからないけど、今にも壊れそうな彼が心配だった。
「……っつ」
そんな時に背筋がぞくりとした。左胸が刺すように痛みが走る。
呪いだ。嫌な気配がする。
まさかこの別邸に呪いが来たんじゃ……カイゼル様の本邸では歩き回っているのか黒い影が動いているのを幾度も見たことがあるし……この別邸の中に来ていると思うと、怖くて、慌ててバスケットを持ったままで窓から別邸を飛び出した。そして、外門のところでカイゼル様を待っていようと考えて向かおうとすると、別邸のそばまで来ている黒いモヤを見つけてしまった。
思わず、走っていた足が止まった。
目が合った気もする。目があるかどうかはわからないけど……すごく嫌な感じがする。
背筋が冷たくなっている。
「キャァーー!」
背筋がぞくりとして、思わずそのまま走り出した。黒いモヤと反対方向の外門へと一目散に向かうと、帰宅したカイゼル様と鉢合わせた。彼は悲鳴を上げてカイゼル様に突撃する私に驚いている。
「クローディア!?」
「カ、カイゼル様ーー!」
カイゼル様の胸に飛び込むと、私をすかさずマントの中に入れて隠してくれる。力強い手が震える私を支えた。
「近寄るな!!」
バスケットを持ったままで、彼の腕の中で震えていると、後ろから追ってきていたものに背筋がぞくりとしていた視線が消えた。そして、優しくて低い声が私の名前を呼んだ。
「クローディア……大丈夫か?」
「だ、大丈夫です……!」
マントの中から顔を出すと、カイゼル様と目が合う。自分を責めているような表情だ。
その様子に「怖かった……」と口から出そうな言葉を飲み込んだ。
「……お。遅かったですね……そう言えば、馬車は……?」
「馬車よりも、クローディアが叫んできた方が気になるぞ。別邸に呪いが入って来たのか?」
「入ってきたわけではないですけど……カイゼル様が遅いから、待っていたら……」
「少し頭を冷やしていただけだ……そのバスケットはなんだ? こんな深夜にピクニックでもする気か?」
本当に無愛想な言い方だ。でも、一人になった私を迎えに来てくれたのは、カイゼル様だけで……それでだろうか。仄かに胸に温かいものをカイゼル様に感じている。
「カイゼル様に夜食を準備していて……もう、食事は摂ってるかと思って……」
「……」
無言で見下ろされている。こんな深夜に夜食の入ったバスケットを持って、呪いから逃げるためとはいえ、突撃してきたから呆れているのだろう。絶対にそんな顔だ。
「……馬を取ってくる」
「また、どこかに出かけるのですか? 忙しいのですね」
「近くに人の来ない静かな丘がある。そこに行くぞ」
「ピクニック……夜に? 仕事ではないのですか?」
「仕事は終わりだ。それに、ひと気がないほうが落ち着く」
「はぁ……」
どうせ深夜なのだから、どこにいてもひと気はないけど……私が夜食を準備していたから、食べるための口実にも思えてきた。
口も悪いし、無愛想だし、絶倫だけど……優しい。
門のそばにある厩舎から、カイゼル様が馬を引いて戻ってくるのを見つめていた。その視線に気付いたのか、眉一つ動かさないで私から目をそらすカイゼル様。本当に何を考えているのかわからないけど……。
「クローディア」
無愛想な様子で私に手を差し出してくれるカイゼル様の手を取ると、馬の乗せてくれる。そのまま、深夜の丘へと馬を走らせていた。
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