上 下
76 / 79

フィンの溺愛

しおりを挟む
エスペラから帰り一週間。

フィンの第2王位継承者の儀が行われ、私も聖女として祝福をした。

そして、今夜フィンの為の夜会が開かれる。
私は婚約者として出席する。
着替えの支度になり、私は躊躇していた。
並べられたこのドレスや宝石もきっと高いんだろう。
いや高いのはわかっていたが、ピンとこなかった。
でも、あの家より高いとルディに言われてなんだか身につけにくい。
やっぱり私は庶民育ちなのだ。
いや、庶民より下だったのだ。

「あの、エスカ様。そろそろ支度しませんとフィン様をお待たせしてしまいます。」

侍女は私が断ったので侍女はいないが、ドレスを着る時は支度の手伝いにいつも来てくれるマリーさんが言った。

「…もっと地味なものはないですか?」
「…地味…ですか?フィン様のお見立てですので。今夜はフィン様の為の夜会ですし、お綺麗にしませんと。」

ですよね。うぅ、なんだか気が引ける。

「大丈夫ですよ。エスカ様はお綺麗です。」

にこやかな笑顔でマリーさんは言った。

「宝石が高いと聞いてつけるのが怖くなりました。すみません…」
「フィン様は立派なものをエスカ様に揃えましたからね。私もこういう仕事じゃないと触ることもありませんわ。」

マリーさんは笑顔のまま話し、手際良く支度をしてくれた。

支度が終わるとマリーさんは、凄くお綺麗です。きっとフィン様は廊下でお待ちですわ。と言いドアを開けた。

ドアが開くと、マリーさんの言うとおりフィンが正装で立っていた。

「エスカ、凄く綺麗だ。」

フィンはすぐに抱き締め、褒めてくれた。
でも、使用人の方々が見てるのに、と恥ずかしくなった。

「フィン、皆が見てますよ。」
「噂を消す為に見せつけると決めただろう。今日は離さないからな。」 
「…逃げたくなりました…」
「では、逃げられないようにしっかり捕まえておこう!」

うぅ、この調子なら絶対心臓が持たない!

フィンは素敵な笑顔でエスコートしてくれた。

夜会はやはりきらびやかで目が眩みそうだった。

陛下達が見ている前で、一番最初にダンスが始まった。

演奏が始まりフィンがエスコートし、ホールの真ん中に手を引かれ歩いた。

フィンのダンスは上手く私を上手にリードしてくれた。

きっと、見ている女性達はフィンに見とれているだろうと思うほどフィンは優雅で素敵だった。

もうすぐで私達のダンスが終わりフィンと手を握ったまま、皆に会釈する。
そう思った時、フィンは会釈の前に手を引き寄せ抱き寄せた。

ホールの真ん中です!?

頭の中が真っ白になった。
周りの、きゃあ、と言う声が聞こえないほどだった。

「エスカ、好きだよ。」

耳元で囁き、そのまま失神しそうだった。

フィンはそのまま私の肩を抱き寄せたまま会釈し、私も慌てて会釈した。

その後は、各々ダンスや歓談が始まりフィンの周りに人が集まり挨拶をした。

「フィン様エスカ様、素敵でしたわ。」
「ありがとうございます。」
「あのフィン様があのようなことをするなんて、娘どもは驚いていますよ。」

ハハッ、と笑い侯爵や伯爵の方々がにこやかに話しかけてきた。

「エスカだけ特別です。俺はエスカに一目惚れし、夢中なんです。」

フィンは抱き締めるように肩を寄せた。
私はゆでダコみたいに真っ赤になった。

「エスカ様は初々しいですな。」
「ええ、可愛くて結婚が待ち遠しいです。」

フィン、やり過ぎです!
こんな時どんな態度をしていいか全くわかりません!

「少しダンスで火照ったようですね。少し風に当たってきます。おいでエスカ。」

フィンが侯爵様達に挨拶をし、バルコニーに連れ出してくれた。

「フィン、限界です。心臓が爆発します。」

フィンはバルコニーのベンチに座り笑っていた。

「おいで、少し夜風に当たろう。」

フィンに言われて横に座るとフィンが抱き締めた。

「皆がいますよ!」
「誰もいない。俺達に気を使い今は誰もバルコニーに来ないよ。」

確かにバルコニーには誰もいない。
でも窓から見えるんじゃ…。

「しばらくこうしていよう。エスカを離したくないんだ。」
「…頑張ります…」

二人は、星空のバルコニーの元しばらく寄り添っていた。

フィンの溺愛が広く知れ渡り、全てではないが確実に噂は減っていった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。

待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。 父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。 彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。 子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。 ※完結まで毎日更新です。

闇黒の悪役令嬢は溺愛される

葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。 今は二度目の人生だ。 十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。 記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。 前世の仲間と、冒険の日々を送ろう! 婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。 だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!? 悪役令嬢、溺愛物語。 ☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

愛を知らない「頭巾被り」の令嬢は最強の騎士、「氷の辺境伯」に溺愛される

守次 奏
恋愛
「わたしは、このお方に出会えて、初めてこの世に産まれることができた」  貴族の間では忌み子の象徴である赤銅色の髪を持って生まれてきた少女、リリアーヌは常に家族から、妹であるマリアンヌからすらも蔑まれ、その髪を隠すように頭巾を被って生きてきた。  そんなリリアーヌは十五歳を迎えた折に、辺境領を収める「氷の辺境伯」「血まみれ辺境伯」の二つ名で呼ばれる、スターク・フォン・ピースレイヤーの元に嫁がされてしまう。  厄介払いのような結婚だったが、それは幸せという言葉を知らない、「頭巾被り」のリリアーヌの運命を変える、そして世界の運命をも揺るがしていく出会いの始まりに過ぎなかった。  これは、一人の少女が生まれた意味を探すために駆け抜けた日々の記録であり、とある幸せな夫婦の物語である。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」様にも短編という形で掲載しています。

【完結】灰かぶりの花嫁は、塔の中

白雨 音
恋愛
父親の再婚により、家族から小間使いとして扱われてきた、伯爵令嬢のコレット。 思いがけず結婚が決まるが、義姉クリスティナと偽る様に言われる。 愛を求めるコレットは、結婚に望みを託し、クリスティナとして夫となるアラード卿の館へ 向かうのだが、その先で、この結婚が偽りと知らされる。 アラード卿は、彼女を妻とは見ておらず、曰く付きの塔に閉じ込め、放置した。 そんな彼女を、唯一気遣ってくれたのは、自分よりも年上の義理の息子ランメルトだった___ 異世界恋愛 《完結しました》

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...