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第二章
妻の不思議と第一殿下 2
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クレイグ殿下と庭へと行くと、やはりフィルベルド様がクリーム色の髪の令嬢といた。
「フィルベルドの奥方。あれは誰かな?」
「ディアナです……クレイグ殿下。フィルベルド様とわかって聞いてますよね?」
「どうかな……」
誰かな? と聞かれても、あれはフィルベルド様と今日任命式前に逢引きしていたご令嬢だ。『夜会で待ってなさい』みたいなことを言っていたから、秘密の逢引きをしているように見える。
その様子を私と笑みを溢すクレイグ殿下は、植木の茂みに隠れるようにしゃがみ込み見た。
「アルレット。しばらくは仕事で忙しい。結婚もしばらくはするつもりはない。父上たちにもそう申し出ているんだ」
「そんな……なら、せめて私を側において下さい。しばらくは、結婚できなくてもかまいませんわ!」
私とフィルベルド様が結婚しているから、第2夫人でもいいという事だろうか。
いずれ、離縁する時までは愛人でいいという話に聞こえる。
潤んだ瞳でフィルベルド様に迫る令嬢に、フィルベルド様は険しい顔つきになっている。
「……ディアナ。あれは、どう思う? 後宮に住みたいのかな?」
「……フィルベルド様が、結婚していてでも側にいたいのでしょうか……でも、うちには後宮なんてないのですよ……クレイグ殿下は後宮をお持ちですよね?」
私が邪魔者だと思ってしまう。
それに、王族でもないのに、後宮なんかあるわけない。
「もちろんあるが。我が国では、側室も第二夫人も認められているからね。まだ、正妃がいないから、一応管理は私がしているが……」
「後宮は、王族が持つものですよ……貴族が愛人を連れてくるときは、別邸を準備するところもあると聞いたことはありますが……」
「……すまないね。ついそんな言い方をしてしまった」
くすりとクレイグ殿下は笑う。愛人を入れる事を後宮と例えてしまったのだろうか。
やっぱり、私がいるからフィルベルド様は彼女と一緒にもなれないし、家にも連れてこれないんだ。
「落ち込んでいるのかい?」
「そんなことありません……」
俯きながら、そう言った。
ほんの数秒俯き顔を上げると、アルレットと呼ばれた令嬢の手をフィルベルド様が添えるように持っている。
「では、これで……」
その手に、フィルベルド様の顔が近づいた。
そして、「……どうして……っ」とアルレットと呼ばれた彼女が、切なさと怒りを込めてそう言った。
そして、2人は庭から出ていった。
「ディアナ……大丈夫かい?」
「大丈夫ですよ」
「彼は、アルレットが好きなのかな?」
「そうかもしれませんね……」
そう言って立ち上がり、ドレスに付いた葉っぱをポンポンとはらった。
「そろそろ夜会に戻るかい? フィルベルドも戻って来るかな?」
「そうですよね……ご用が終われば、戻ってきますよね」
控え室にいる暇はなくなってしまった。それとも、控え室に来てくれるのだろうか。
フィルベルド様がよくわからず呆然と考えていると、クレイグ殿下に手を取られてハッとした。
「ディアナ。また、会えるかい? 嫌なものを見せてしまったから、今度何かお詫びをしよう」
「……フィルベルド様が、ここにいることを知っていたんじゃないですか?」
「彼とは知らなかったけど……そうだな。ここは、ひと気がないから、少し休めると思っただけだよ」
うそっぽい笑顔なのだろうか。何か宝物を見つけたような楽しそうな笑顔でそう言われるが、殿下とまた会うのは緊張すると思う。
「私は、気にしていませんし、お詫びを殿下から頂くわけには…………っ!?」
そう言うと、クレイグ殿下は手にキスをして、悪戯っぽく尋ねてくる。
「一緒に夜会に行く?」
「控え室に帰ります!」
「それは、残念……だが、また会おう」
「ご冗談ですよね?」
「どうかな……さぁ、今日はもう行きなさい。それとも、控え室まで送ろうかい?」
「ご遠慮します!」
女の扱いに慣れた様子の殿下から、やっと解放された。帰りにそっとクレイグ殿下を振り向くと、何が楽しいのか嬉しそうにフフッと笑っていた。
「フィルベルドの奥方。あれは誰かな?」
「ディアナです……クレイグ殿下。フィルベルド様とわかって聞いてますよね?」
「どうかな……」
誰かな? と聞かれても、あれはフィルベルド様と今日任命式前に逢引きしていたご令嬢だ。『夜会で待ってなさい』みたいなことを言っていたから、秘密の逢引きをしているように見える。
その様子を私と笑みを溢すクレイグ殿下は、植木の茂みに隠れるようにしゃがみ込み見た。
「アルレット。しばらくは仕事で忙しい。結婚もしばらくはするつもりはない。父上たちにもそう申し出ているんだ」
「そんな……なら、せめて私を側において下さい。しばらくは、結婚できなくてもかまいませんわ!」
私とフィルベルド様が結婚しているから、第2夫人でもいいという事だろうか。
いずれ、離縁する時までは愛人でいいという話に聞こえる。
潤んだ瞳でフィルベルド様に迫る令嬢に、フィルベルド様は険しい顔つきになっている。
「……ディアナ。あれは、どう思う? 後宮に住みたいのかな?」
「……フィルベルド様が、結婚していてでも側にいたいのでしょうか……でも、うちには後宮なんてないのですよ……クレイグ殿下は後宮をお持ちですよね?」
私が邪魔者だと思ってしまう。
それに、王族でもないのに、後宮なんかあるわけない。
「もちろんあるが。我が国では、側室も第二夫人も認められているからね。まだ、正妃がいないから、一応管理は私がしているが……」
「後宮は、王族が持つものですよ……貴族が愛人を連れてくるときは、別邸を準備するところもあると聞いたことはありますが……」
「……すまないね。ついそんな言い方をしてしまった」
くすりとクレイグ殿下は笑う。愛人を入れる事を後宮と例えてしまったのだろうか。
やっぱり、私がいるからフィルベルド様は彼女と一緒にもなれないし、家にも連れてこれないんだ。
「落ち込んでいるのかい?」
「そんなことありません……」
俯きながら、そう言った。
ほんの数秒俯き顔を上げると、アルレットと呼ばれた令嬢の手をフィルベルド様が添えるように持っている。
「では、これで……」
その手に、フィルベルド様の顔が近づいた。
そして、「……どうして……っ」とアルレットと呼ばれた彼女が、切なさと怒りを込めてそう言った。
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「大丈夫ですよ」
「彼は、アルレットが好きなのかな?」
「そうかもしれませんね……」
そう言って立ち上がり、ドレスに付いた葉っぱをポンポンとはらった。
「そろそろ夜会に戻るかい? フィルベルドも戻って来るかな?」
「そうですよね……ご用が終われば、戻ってきますよね」
控え室にいる暇はなくなってしまった。それとも、控え室に来てくれるのだろうか。
フィルベルド様がよくわからず呆然と考えていると、クレイグ殿下に手を取られてハッとした。
「ディアナ。また、会えるかい? 嫌なものを見せてしまったから、今度何かお詫びをしよう」
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「ご遠慮します!」
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