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第二章 ユニコーン
奉殿の幻獣 6
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『私のフィリ―ネに近づくな。男はいらん』
「それは、こっちのセリフだ。リーネを連れ去る気だろ」
『それの何が悪い』
「悪いに決まっている。リーネは、俺との結婚を控えている。邪魔するなら、力で従えるぞ」
『できるわけがない』
ユニコーンがフンと鼻を鳴らすと、フェリクス様は真一文字に口を引き締めて怒っていた。
「察しが悪い……なぜ、俺がユニコーンの幻獣士でないのにお前の声が聞こえるのか考えてないのか?」
『それは不思議だ。だが、フィリ―ネ以外に興味がない。邪魔するなら、あの愚かな人間と同じだ』
兄上たちと同じだと言われて、冷ややかになるフェリクス様の感情が私にわかる。
(やりたくない……やりたくないが……)
「あの……フェリクス様?」
フェリクス様が、一言そう呟くと彼が片手を横に伸ばした。
「顕現せよ。幻獣の扉! 来い! フェンリル!!」
『……っ!?』
フェリクス様の伸ばした手の先から、青白く透き通るような不思議な魔法陣が現れる。それも、床から天井に着くほど大きな魔法陣が一気に現れたのだ。まるで、力を示すように。
そして、その魔法陣からフェンリルがこの奉殿に飛び込むように現れた。
「フェン様……?」
『フェンリル!?』
フェンヴィルム国にいるはずのフェンリルが、フェリクス様の出した魔法陣から現れたことに驚きを隠せない。私だけでなくユニコーンも同じだ。フェンリルが現れたせいか、冷ややかな空気が流れ込んできた。
『……フィリ―ネ。大丈夫か?』
「は、はい……どうやってここに?」
『ユニコーンか? 久しいな。何百年ぶりか……お前が選んだのがフィリ―ネか?』
フェンリルのたてがみがピリッと逆なでている気がした。幻獣二匹が睨みあっているせいか、奉殿の中の空気が張り詰めている。
『フェンリルの声が聞こえるのか? 幻獣士は一人のはずだぞ』
『私の幻獣士はフェリクスただ一人だ』
フェリクス様と私、そして、フェンリルを順番に見据えると、なぜフェリクス様にまでユニコーンの声が聞こえたのか察したように納得したユニコーンが呟いた。
『……そういうことか。それで、私の声がその男にも聞こえたのか……余計なことを……』
『眠っていたお前が悪い』
フェンリルがフェリクス様と私を囲むように、ユニコーンを見据えて移動してくる。
「これで、リーネを連れては逃げられんぞ。俺とフェンリル相手にリ―ネ争奪戦でもするか? 死ぬぞ」
ユニコーンは、珍しい幻獣。でも、フェンリルの方がランクは上だった。敵わないと悟ったユニコーンは、無言でフェリクス様を見ている。フェンリルを従えるフェリクス様を脅威に思っているのだ。
「フィリ―ネを幻獣士にしたくないなら、今すぐに幻獣界へ帰るんだ」
フェリクス様が、幻獣の扉を指さして言う。
「それとも、こちらの世界を彷徨うか? どちらでも構わん。今すぐに決めろ」
『私を脅すか?』
『どう思っても構わん。力は示した。幻獣の扉を開《ひら》けることはわかったはずだぞ』
ユニコーンが無機質な瞳で私を見た。話しかけてくるのがわかる。そのユニコーンに、そっと近づいた。
『フィリ―ネ……』
「ユニコーン様は、ここにいたいのですか? 私は……フェリクス様とフェンヴィルム国に帰ります。だから……一緒に来られないなら、私はユニコーン様の幻獣士にはなれません」
『そうか……だが、私は、この国いたいわけではない……いずれ産まれる幻獣士を待っていただけだ』
ユニコーンに手を伸ばすと、撫でてくれと言わんばかりにユニコーンはそっと頭を下げた。
「ユニコーン様……私の幻獣になって一緒にフェンヴィルム国に行きましょう」
『お前がいるなら、どこにでもついて行こう』
ユニコーンの首に腕を回し、抱き寄せると安堵したように柔らかい感情が流れてきた。
ユニコーンの口が私の上腕に当たると、チクンと痛みを感じた。
「ユニコーン様……?」
『幻獣士の印だ』
チクンとした左の上腕を見ると、うっすらとユニコーンの紋様が浮かび上がり始めた。
「これが、幻獣士の証……」
これをきっと兄上は誰にも見せられなかったのだ。ユニコーンの幻獣士の印などないから……だから、確信のない噂だけが広がり後に引けなくなった。フェリクス様が(愚かだな)と心の中で呟いたのが聞こえる。
「フィリ―ネ。よくやった」
フェリクス様が、私を後ろから大事そうに抱き寄せて労わる。その腕に手を添えて応えた。
「フェリクス様……フェリクス様も、フェン様の印があるのですか? 見たことありません」
「背中にある」
「背中に?」
「フェンは、俺の背中を引っかいて印をつけたんだ。そこに、フェンリルの紋様が浮かんでいる」
引っかかれた時のことを思い出すように、フェンリルに向かって親指を立てて指すフェリクス様は、眉間にシワがよっている。
「痛そうですね……」
『軟弱者は、私の幻獣士にはなれん』
「本当に痛かったぞ」
フェンリルは、いつも通り淡々としている。フェリクス様を見上げると、私を慈しんでいる目と合う。
「リーネ。一緒にフェンヴィルム国に帰るぞ」
「はい……必ず連れて帰ってください。そして、またお茶会をしましょう」
「ああ。楽しみだ」
フェリクス様の腕に包まれて、その胸板に身体を預けた。その様子を二匹の幻獣が見守っていた。
「それは、こっちのセリフだ。リーネを連れ去る気だろ」
『それの何が悪い』
「悪いに決まっている。リーネは、俺との結婚を控えている。邪魔するなら、力で従えるぞ」
『できるわけがない』
ユニコーンがフンと鼻を鳴らすと、フェリクス様は真一文字に口を引き締めて怒っていた。
「察しが悪い……なぜ、俺がユニコーンの幻獣士でないのにお前の声が聞こえるのか考えてないのか?」
『それは不思議だ。だが、フィリ―ネ以外に興味がない。邪魔するなら、あの愚かな人間と同じだ』
兄上たちと同じだと言われて、冷ややかになるフェリクス様の感情が私にわかる。
(やりたくない……やりたくないが……)
「あの……フェリクス様?」
フェリクス様が、一言そう呟くと彼が片手を横に伸ばした。
「顕現せよ。幻獣の扉! 来い! フェンリル!!」
『……っ!?』
フェリクス様の伸ばした手の先から、青白く透き通るような不思議な魔法陣が現れる。それも、床から天井に着くほど大きな魔法陣が一気に現れたのだ。まるで、力を示すように。
そして、その魔法陣からフェンリルがこの奉殿に飛び込むように現れた。
「フェン様……?」
『フェンリル!?』
フェンヴィルム国にいるはずのフェンリルが、フェリクス様の出した魔法陣から現れたことに驚きを隠せない。私だけでなくユニコーンも同じだ。フェンリルが現れたせいか、冷ややかな空気が流れ込んできた。
『……フィリ―ネ。大丈夫か?』
「は、はい……どうやってここに?」
『ユニコーンか? 久しいな。何百年ぶりか……お前が選んだのがフィリ―ネか?』
フェンリルのたてがみがピリッと逆なでている気がした。幻獣二匹が睨みあっているせいか、奉殿の中の空気が張り詰めている。
『フェンリルの声が聞こえるのか? 幻獣士は一人のはずだぞ』
『私の幻獣士はフェリクスただ一人だ』
フェリクス様と私、そして、フェンリルを順番に見据えると、なぜフェリクス様にまでユニコーンの声が聞こえたのか察したように納得したユニコーンが呟いた。
『……そういうことか。それで、私の声がその男にも聞こえたのか……余計なことを……』
『眠っていたお前が悪い』
フェンリルがフェリクス様と私を囲むように、ユニコーンを見据えて移動してくる。
「これで、リーネを連れては逃げられんぞ。俺とフェンリル相手にリ―ネ争奪戦でもするか? 死ぬぞ」
ユニコーンは、珍しい幻獣。でも、フェンリルの方がランクは上だった。敵わないと悟ったユニコーンは、無言でフェリクス様を見ている。フェンリルを従えるフェリクス様を脅威に思っているのだ。
「フィリ―ネを幻獣士にしたくないなら、今すぐに幻獣界へ帰るんだ」
フェリクス様が、幻獣の扉を指さして言う。
「それとも、こちらの世界を彷徨うか? どちらでも構わん。今すぐに決めろ」
『私を脅すか?』
『どう思っても構わん。力は示した。幻獣の扉を開《ひら》けることはわかったはずだぞ』
ユニコーンが無機質な瞳で私を見た。話しかけてくるのがわかる。そのユニコーンに、そっと近づいた。
『フィリ―ネ……』
「ユニコーン様は、ここにいたいのですか? 私は……フェリクス様とフェンヴィルム国に帰ります。だから……一緒に来られないなら、私はユニコーン様の幻獣士にはなれません」
『そうか……だが、私は、この国いたいわけではない……いずれ産まれる幻獣士を待っていただけだ』
ユニコーンに手を伸ばすと、撫でてくれと言わんばかりにユニコーンはそっと頭を下げた。
「ユニコーン様……私の幻獣になって一緒にフェンヴィルム国に行きましょう」
『お前がいるなら、どこにでもついて行こう』
ユニコーンの首に腕を回し、抱き寄せると安堵したように柔らかい感情が流れてきた。
ユニコーンの口が私の上腕に当たると、チクンと痛みを感じた。
「ユニコーン様……?」
『幻獣士の印だ』
チクンとした左の上腕を見ると、うっすらとユニコーンの紋様が浮かび上がり始めた。
「これが、幻獣士の証……」
これをきっと兄上は誰にも見せられなかったのだ。ユニコーンの幻獣士の印などないから……だから、確信のない噂だけが広がり後に引けなくなった。フェリクス様が(愚かだな)と心の中で呟いたのが聞こえる。
「フィリ―ネ。よくやった」
フェリクス様が、私を後ろから大事そうに抱き寄せて労わる。その腕に手を添えて応えた。
「フェリクス様……フェリクス様も、フェン様の印があるのですか? 見たことありません」
「背中にある」
「背中に?」
「フェンは、俺の背中を引っかいて印をつけたんだ。そこに、フェンリルの紋様が浮かんでいる」
引っかかれた時のことを思い出すように、フェンリルに向かって親指を立てて指すフェリクス様は、眉間にシワがよっている。
「痛そうですね……」
『軟弱者は、私の幻獣士にはなれん』
「本当に痛かったぞ」
フェンリルは、いつも通り淡々としている。フェリクス様を見上げると、私を慈しんでいる目と合う。
「リーネ。一緒にフェンヴィルム国に帰るぞ」
「はい……必ず連れて帰ってください。そして、またお茶会をしましょう」
「ああ。楽しみだ」
フェリクス様の腕に包まれて、その胸板に身体を預けた。その様子を二匹の幻獣が見守っていた。
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