15 / 36
第一章 フェンリル
氷のバラ
しおりを挟む
「……というわけで、フェリクス様は友人になってくださいませんでした」
『ククッ……なぜその時に私を呼ばん? 是非とも観察したかった』
フェリクス様に叫ばれたあの時のことを庭の温室の前でフェンリルに話していた。彼は、大笑いで話を聞いている。
「婚約者だと友人は無理なのでしょうか? でも、私はお茶飲み友人だと思うんです」
『さぁ、私にはわからん。それよりも、上手くできているな』
フェンリルに話しながら、彼に言われた通りに手のひらに氷を作っていた。フェンリルは氷の属性だから、氷の魔法を教えてくれているのだ。
『それを大きくできるか?』
「魔力を上げればいいのでしょうか? それなら大丈夫です」
手のひらの氷を大きくするために魔力を上げると瞬く間に氷が大きくなっていく。
『筋がいい。これなら、すぐに氷も飛ばせるな』
「飛ばすなら、もう少し小さくしないと私には無理かもしれません……」
『フィリ―ネは、冷静だからすぐにできる。槍のようにすれば立派な攻撃魔法になるぞ』
魔法はイメージが大事だ。でも、そのイメージするものが私にはない。離宮という小さな世界がすべてだった私には、よくわからないのだ。
「槍を見たことがありません……本で見たのは、こんな感じでしたが……」
絵本で読んだ三叉槍を氷で作ると、古臭い槍だとフェンリルが笑った。
『武器を見たことがないとそうなるのか? なら、色んな物をみろ。見たものを魔法に生かせばいい』
「……でしたら、お花を氷で作れますか?」
『氷で形作ればいいだけだ』
温室にあった花を思い浮かべて、手の平に氷を作る。それが見る見るうちにバラの形に変わる。
「……お花に見える……」
『やはり、フィリ―ネはもともとの才があるのだ』
「でも、氷の魔法は使えませんでした」
『それは、使ったことがないからだろう。私が使える魔法は、氷だからそれしか教えられんが……癒しの魔法は珍しいが、本当に誰にも教わらなかったのか? ディティーリア国の幻獣が教えたのではないのか?』
「ディティーリア国のことは知りません。幻獣様もフェン様が初めてお会いしました……」
ディティーリア国に幻獣がいたのだろうか。わからない。
でも、ふと思い出した。年に一、二度だったと思う。離宮を出て父上に連れられて行ったところがあった。でも、私の魔法を見て「やっぱりダメか……なら、なぜこの娘を生む必要があったのだ……」そう言って、私をさげすんでいた。
その時に、フェンリルの耳がピクリと上がる。
使用人たちが温室にお茶の準備に来たのだ。そこにはジルやヴァルト様もいる。
「フィリ―ネ様。本日のお茶もこちらでなさるそうで、すぐに準備いたします」
返事をすると、ヴァルト様が私の手のひらの氷を見てにこりとした。
「その氷は?」
「私が魔法で作りました」
「でしたら、そちらも飾りましょうか? フェリクス様もきっとお喜びになりますよ」
ヴァルト様が指示すると、一人のメイドが青磁のお皿を出してくれた。乗せると青が透き通って青バラのように見えてキレイだった。
「キレイ……」
「はい。とても美しいですわ」
笑顔でそう言ってくれたメイドを見ると、その方もすごくキレイな方だった。
「フィリ―ネ様。こちらは、メイドのアリエッタです」
ヴァルト様が紹介すると、アリエッタと呼ばれたメイドが、「よろしくお願いします」と微笑んだ。
(背が高くてすごくキレイだわ……)
金髪に近い薄くてさらりとした髪を一つにまとめており、茶色の瞳が印象的な彼女は、ヴァルト様に「アリエッタ。仕事を」と言われてお茶の準備に戻った。
(氷のバラを見るとフェリクス様はどう思うかしら?)
心の声がフェンリルに聞こえてしまい、頭の中で会話する。
『それは、フェリクスにやるのか? それなら、私にくれ。食べたい』
(……食べるのですか? でも、初めて作ったのでフェリクス様に見せたいのです)
『私は友人だろう?』
(……これを差し上げたらフェリクス様とも友人になれますか?)
『さぁ?』
……どうやったら、フェリクス様と友人になれるのかわからない。
「でも、なにか食べたいのでしたら持ってきます」
そう言って温室に目をやると、お茶の準備をしている中でジルが私とフェンリルを青ざめた様子で立ちつくしていた。
(どうしたのかしら? でも、ちょうどいいわ)
「ジル。なにかお菓子をください。フェンリル様に差し上げたいのです」
「フェンリル様……? あれがこの国の幻獣ですか!?」
「そうです」
「あの氷のバラもフィリ―ネ様が……?」
「はい。魔法で作りました」
ヴァルト様たちは驚かなかったから忘れていたけど、ジルは初めて見るから驚いたのだろう。でも、青ざめるほど怖いのだろうか。
「どうしました? フィリ―ネ様」
「ヴァルト様。フェンリル様になにか差し上げたくて……ジルは、初めて幻獣をみたから驚いてしまったの」
「でしたら、アイスクリームでもお持ちしますか? ちょうど準備していますから」
「ありがとうございます。ヴァルト様」
アイスクリームを受け取り、フェンリルに差し出すと美味しそうにぺろりと食べた
『ククッ……なぜその時に私を呼ばん? 是非とも観察したかった』
フェリクス様に叫ばれたあの時のことを庭の温室の前でフェンリルに話していた。彼は、大笑いで話を聞いている。
「婚約者だと友人は無理なのでしょうか? でも、私はお茶飲み友人だと思うんです」
『さぁ、私にはわからん。それよりも、上手くできているな』
フェンリルに話しながら、彼に言われた通りに手のひらに氷を作っていた。フェンリルは氷の属性だから、氷の魔法を教えてくれているのだ。
『それを大きくできるか?』
「魔力を上げればいいのでしょうか? それなら大丈夫です」
手のひらの氷を大きくするために魔力を上げると瞬く間に氷が大きくなっていく。
『筋がいい。これなら、すぐに氷も飛ばせるな』
「飛ばすなら、もう少し小さくしないと私には無理かもしれません……」
『フィリ―ネは、冷静だからすぐにできる。槍のようにすれば立派な攻撃魔法になるぞ』
魔法はイメージが大事だ。でも、そのイメージするものが私にはない。離宮という小さな世界がすべてだった私には、よくわからないのだ。
「槍を見たことがありません……本で見たのは、こんな感じでしたが……」
絵本で読んだ三叉槍を氷で作ると、古臭い槍だとフェンリルが笑った。
『武器を見たことがないとそうなるのか? なら、色んな物をみろ。見たものを魔法に生かせばいい』
「……でしたら、お花を氷で作れますか?」
『氷で形作ればいいだけだ』
温室にあった花を思い浮かべて、手の平に氷を作る。それが見る見るうちにバラの形に変わる。
「……お花に見える……」
『やはり、フィリ―ネはもともとの才があるのだ』
「でも、氷の魔法は使えませんでした」
『それは、使ったことがないからだろう。私が使える魔法は、氷だからそれしか教えられんが……癒しの魔法は珍しいが、本当に誰にも教わらなかったのか? ディティーリア国の幻獣が教えたのではないのか?』
「ディティーリア国のことは知りません。幻獣様もフェン様が初めてお会いしました……」
ディティーリア国に幻獣がいたのだろうか。わからない。
でも、ふと思い出した。年に一、二度だったと思う。離宮を出て父上に連れられて行ったところがあった。でも、私の魔法を見て「やっぱりダメか……なら、なぜこの娘を生む必要があったのだ……」そう言って、私をさげすんでいた。
その時に、フェンリルの耳がピクリと上がる。
使用人たちが温室にお茶の準備に来たのだ。そこにはジルやヴァルト様もいる。
「フィリ―ネ様。本日のお茶もこちらでなさるそうで、すぐに準備いたします」
返事をすると、ヴァルト様が私の手のひらの氷を見てにこりとした。
「その氷は?」
「私が魔法で作りました」
「でしたら、そちらも飾りましょうか? フェリクス様もきっとお喜びになりますよ」
ヴァルト様が指示すると、一人のメイドが青磁のお皿を出してくれた。乗せると青が透き通って青バラのように見えてキレイだった。
「キレイ……」
「はい。とても美しいですわ」
笑顔でそう言ってくれたメイドを見ると、その方もすごくキレイな方だった。
「フィリ―ネ様。こちらは、メイドのアリエッタです」
ヴァルト様が紹介すると、アリエッタと呼ばれたメイドが、「よろしくお願いします」と微笑んだ。
(背が高くてすごくキレイだわ……)
金髪に近い薄くてさらりとした髪を一つにまとめており、茶色の瞳が印象的な彼女は、ヴァルト様に「アリエッタ。仕事を」と言われてお茶の準備に戻った。
(氷のバラを見るとフェリクス様はどう思うかしら?)
心の声がフェンリルに聞こえてしまい、頭の中で会話する。
『それは、フェリクスにやるのか? それなら、私にくれ。食べたい』
(……食べるのですか? でも、初めて作ったのでフェリクス様に見せたいのです)
『私は友人だろう?』
(……これを差し上げたらフェリクス様とも友人になれますか?)
『さぁ?』
……どうやったら、フェリクス様と友人になれるのかわからない。
「でも、なにか食べたいのでしたら持ってきます」
そう言って温室に目をやると、お茶の準備をしている中でジルが私とフェンリルを青ざめた様子で立ちつくしていた。
(どうしたのかしら? でも、ちょうどいいわ)
「ジル。なにかお菓子をください。フェンリル様に差し上げたいのです」
「フェンリル様……? あれがこの国の幻獣ですか!?」
「そうです」
「あの氷のバラもフィリ―ネ様が……?」
「はい。魔法で作りました」
ヴァルト様たちは驚かなかったから忘れていたけど、ジルは初めて見るから驚いたのだろう。でも、青ざめるほど怖いのだろうか。
「どうしました? フィリ―ネ様」
「ヴァルト様。フェンリル様になにか差し上げたくて……ジルは、初めて幻獣をみたから驚いてしまったの」
「でしたら、アイスクリームでもお持ちしますか? ちょうど準備していますから」
「ありがとうございます。ヴァルト様」
アイスクリームを受け取り、フェンリルに差し出すと美味しそうにぺろりと食べた
16
お気に入りに追加
857
あなたにおすすめの小説
恋詠花
舘野寧依
恋愛
アイシャは大国トゥルティエールの王妹で可憐な姫君。だが兄王にただならぬ憎しみを向けられて、王宮で非常に肩身の狭い思いをしていた。
そんな折、兄王から小国ハーメイの王に嫁げと命じられたアイシャはおとなしくそれに従う。しかし、そんな彼女を待っていたのは、手つかずのお飾りの王妃という屈辱的な仕打ちだった。それは彼女の出自にも関係していて……?
──これは後の世で吟遊詩人に詠われる二人の王と一人の姫君の恋物語。
婚約破棄されたい公爵令息は、子供のふりをしているけれど心の声はとても優しい人でした
三月叶姫
恋愛
北の辺境伯の娘、レイナは婚約者であるヴィンセント公爵令息と、王宮で開かれる建国記念パーティーへ出席することになっている。
その為に王都までやってきたレイナの前で、ヴィンセントはさっそく派手に転げてみせた。その姿はよく転ぶ幼い子供そのもので。
彼は二年前、不慮の事故により子供返りしてしまったのだ――というのは本人の自作自演。
なぜかヴィンセントの心の声が聞こえるレイナは、彼が子供を演じている事を知ってしまう。
そして彼が重度の女嫌いで、レイナの方から婚約破棄させようと目論んでいる事も。
必死に情けない姿を見せつけてくる彼の心の声は意外と優しく、そんな彼にレイナは少しずつ惹かれていった。
だが、王宮のパーティーは案の定、予想外の展開の連続で……?
※設定緩めです
※他投稿サイトにも掲載しております
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
「結婚しよう」
まひる
恋愛
私はメルシャ。16歳。黒茶髪、赤茶の瞳。153㎝。マヌサワの貧乏農村出身。朝から夜まで食事処で働いていた特別特徴も特長もない女の子です。でもある日、無駄に見目の良い男性に求婚されました。何でしょうか、これ。
一人の男性との出会いを切っ掛けに、彼女を取り巻く世界が動き出します。様々な体験を経て、彼女達は何処へ辿り着くのでしょうか。
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
【完結】公子が好きなのは王子ですよね? 私は女ですよ?
ユユ
恋愛
公爵令息と親友の王子様の秘密の恋…
“貴公子の秘め事”という小説の世界に
生まれた私はモブのはずだった。
なのに何故…
赤ちゃんのときに小説の令息とは違う令息と
婚約した。
それが“貴公子の秘め事”の主人公だった。
転生はしたものの、小説の中だと気付いたのも遅かった?
とにかく秘密はバラしません!
好きになったりしません!私は石コロです!
お願いです 私を解放してください!
* 作り話です
* 短いです
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる