上 下
55 / 148
第一章 ブラッドフォード編

悪巧みのサインをどうぞ

しおりを挟む
オズワルド様は、席にどうぞと座ったまま促していた。
そして、ノートン男爵親子の座る様子を見ながらウィルに仕事の話を振るように話かけた。

「ウィル、献上するワインはどうだ?」
「はい、オズワルド様の指示通り、アレクセイ様にワインの献上の手配は済みました。追加の受注も手配しました。」

は?
アレク様にワインの献上?
ワイナリーも持っているのかしら?
まだフォーレ伯爵のは買い取ってないはず。

しかし、アリシアの胸を見てないでしょうね。
私にはあんなに立派な胸はありませんからね!
でも…決して私のも小さくないはず!

「さて、ノートン男爵。今日お越し下さったのは、そろそろ全額を返して頂きたく思いまして。」
「も、もう少し待って下さったら、きっとお返しできます!」
「…何か当てでも?」
「それは…」

ノートン男爵は返す当てがないのね。
歯切れが悪すぎるわ。

「まぁ、ワインでもどうぞ。フォーレ伯爵のワイナリーのワインですよ。中々気に入っています。フォーレ伯爵は真面目な方ですしね。金を出しても惜しくないと思ってます。」
「……!私もフォーレ伯爵のワイナリーに投資をしようと思ってます。きっと成功すると思います。…ですから、投資分の資金を少しだけまたお借り出来たら…。」
「そうですか。俺は男爵がどこに投資しようが口を出すつもりはありません。お好きにどうぞ。それから、返済が滞っていますが、そろそろ返済が出来なければ担保の屋敷を頂きたく存じます。今回で返済が無理なら容赦なく実行しますよ。投資で得る金も借金の徴収に当てますからね。」
「…わかりました。」
「では、期限や追加の借金についての書類です。サインをどうぞ。」

そして、ノートン男爵は書類にサインを始めた。

フォーレ伯爵のワイナリーは近々、事業の金を使い破産すると思う。
ノートン男爵は、オズワルド様の言ったワインの献上とフォーレ伯爵のワイナリーとでおそらく王宮に献上するとを結びつけたのだろう。

本当に、ワインを献上するのかどうかも知らないけど。

そして、オズワルド様が金を出すと言ったのを投資と勘違いしている。
オズワルド様はフォーレ伯爵のワイナリーを落とし買い取ろうとしているのだ。
投資ではない。

多分、オズワルド様はノートン男爵が投資に失敗したあと、ワイナリーを買い取るのだ。
そして、容赦なくノートン男爵の担保を回収するのだろう。

ノートン男爵がサインしている間に、アリシアはオズワルド様に話しかけた。

「憧れの公爵様にお会いできて光栄です。それに、貸し切りなんて凄いですわ。もしよろしければ、この後、ご一緒致します。」

オズワルド様はフッと笑った。

「この後、婚約者と食事をする為に貸し切りました。あなたとは、生涯婚約することはありませんよ。お相手もしません。」
「えっ…婚約者…?」
「知りませんでしたか?宮中の夜会に連れて行ったのですが。あぁ、招待されてませんでしたか。」

アリシアは恥をかかされたような顔になっていた。

いや、アリシアが恥をかくのはお門違いですからね!
自業自得だ!

そして、あのプレゼントを出した。

「これは、慰謝料みたいなものですが良ければどうぞ。あなたと婚約できませんので。お守りみたいなものです。」

アリシアが、プレゼントを開けると、中身は立派な赤い宝石が連なっているネックレスだった。

「こんな立派なのを私に…?」
「ええ、きっと似合いますよ。」

アリシアは嬉しそうにいそいそとネックレスを着けた。

オズワルド様はニッコリと片肘をついて、似合いますよ。と言った。

「金は明日にでも屋敷に送ります。」
「ありがとうございます!」

ノートン男爵とアリシアは成功を確信するかのように嬉しそうな顔で帰って行った。

しおりを挟む
感想 87

あなたにおすすめの小説

心がきゅんする契約結婚~貴方の(君の)元婚約者って、一体どんな人だったんですか?~

待鳥園子
恋愛
若き侯爵ジョサイアは結婚式直前、愛し合っていたはずの婚約者に駆け落ちされてしまった。 急遽の結婚相手にと縁談がきた伯爵令嬢レニエラは、以前夜会中に婚約破棄されてしまった曰く付きの令嬢として知られていた。 間に合わせで自分と結婚することになった彼に同情したレニエラは「私を愛して欲しいなどと、大それたことは望んでおりません」とキッパリと宣言。 元々結婚せずに一人生きていくため実業家になろうとしていたので、これは一年間だけの契約結婚にしようとジョサイアに持ち掛ける。 愛していないはずの契約妻なのに、異様な熱量でレニエラを大事にしてくれる夫ジョサイア。それは、彼の元婚約者が何かおかしかったのではないかと、次第にレニエラは疑い出すのだが……。 また傷付くのが怖くて先回りして強がりを言ってしまう意地っ張り妻が、元婚約者に妙な常識を植え付けられ愛し方が完全におかしい夫に溺愛される物語。

侯爵様に婚約破棄されたのですが、どうやら私と王太子が幼馴染だったことは知らなかったようですね?

ルイス
恋愛
オルカスト王国の伯爵令嬢であるレオーネは、侯爵閣下であるビクティムに婚約破棄を言い渡された。 信頼していたビクティムに裏切られたレオーネは悲しみに暮れる……。 しかも、破棄理由が他国の王女との婚約だから猶更だ。 だが、ビクティムは知らなかった……レオーネは自国の第一王子殿下と幼馴染の関係にあることを。 レオーネの幼馴染であるフューリ王太子殿下は、彼女の婚約破棄を知り怒りに打ち震えた。 「さて……レオーネを悲しませた罪、どのように償ってもらおうか」 ビクティム侯爵閣下はとてつもない虎の尾を踏んでしまっていたのだった……。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。

こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。 彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。 皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。 だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。 何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。 どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。 絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。 聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──…… ※在り来りなご都合主義設定です ※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です ※つまりは行き当たりばったり ※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください 4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。

たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。 その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。 スティーブはアルク国に留学してしまった。 セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。 本人は全く気がついていないが騎士団員の間では 『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。 そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。 お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。 本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。 そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度…… 始めの数話は幼い頃の出会い。 そして結婚1年間の話。 再会と続きます。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

醜いと言われて婚約破棄されましたが、その瞬間呪いが解けて元の姿に戻りました ~復縁したいと言われても、もう遅い~

小倉みち
恋愛
 公爵令嬢リリーは、顔に呪いを受けている。  顔半分が恐ろしい異形のものとなっていた彼女は仮面をつけて生活していた。  そんな彼女を婚約者である第二王子は忌み嫌い、蔑んだ。 「お前のような醜い女と付き合う気はない。俺はほかの女と結婚するから、婚約破棄しろ」  パーティ会場で、みんなの前で馬鹿にされる彼女。  ――しかし。  実はその呪い、婚約破棄が解除条件だったようで――。  みるみるうちに呪いが解け、元の美しい姿に戻ったリリー。  彼女はその足で、醜い姿でも好きだと言ってくれる第一王子に会いに行く。  第二王子は、彼女の元の姿を見て復縁を申し込むのだったが――。  当然彼女は、長年自分を散々馬鹿にしてきた彼と復縁する気はさらさらなかった。

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

処理中です...