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第一章 ブラッドフォード編

これが出会いなのか

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父から婚約の話がきて半年。
レオン様は優しい方だと思ったが、私だけに優しいのではなかったのだろう。

もしかしたら、婚約自体レオン様の意に介さぬことだったのだろうか。

婚約が決まってからは王宮に通い、マナーや勉強、とにかくやりたくない花嫁修業に務め、それでも頑張ったつもりだった。

それが、今こんなに虚しいものに感じてしまう。

壁の花に一人なりレオン様とアリシアのダンスを眺めるように見ていると、アリシアのダンスはまだまだと思う。
時々レオン様の足を踏んでいるが、レオン様は嫌な顔一つしない。

私が踏んだらどうなるかしら。

比べることに意味はないと、自分自身に言い聞かせながらも、つい思ってしまう。

そんなことを考えていると、レオン様の愉快な仲間達の集団から一人私の元にやって来た。

彼女は友人のアニス。
父の友人の子爵令嬢だが、同い年で友人と思っていた。
でも、レオン様の周りにいたということは彼女も私ではなくレオン様をとったのだろう。

「リディア、レオン様への贈り物は父からありますが、私からも贈り物があるのよ。レオン様とお揃いのものを準備しましたから後で絶対受け取ってね。」
「ありがとう、アニス。嬉しいわ。」

本当に嬉しいと思っているのか、自分の言葉が白々しく感じた。

「あの…リディア。アリシアのこと気にしないでね。その、きっと今だけだから…。」
「ええ、大丈夫よ。気にしてないわ。」

そんな申し訳わけ無さそうな顔をしなくてもいいですよ。
惨めさと同時に冷めてきている自分がいますからね。

「リディア。」

名前を呼ぶ声と同時に、男性が三人近づいてきた。
レオン様の兄上のアレク様だ。
左右にいる二人は、一人は護衛の方のヒース様ともう一人はご友人の方らしき方だった。

アニスは、アレク様に頭を下げると、すすっと、離れて行った。

「レオンはリディアをほったらかしなのか?」
「今はダンスをしてますから、」
「リディアはしたのか?」
「いえ…」

少し伏し目がちに言うと、アレク様はしょうがないな、とため息をついた。

「オズ、レオンのダンスが終われば控室に連れて来てくれ。」
「わかりました。」

アレク様は、注意する気なのだろうけどレオン様はきっと素直に聞かない気がする。
お二人ともお優しいけど、勉強も武術もアレク様の方が優れているから、少なからずコンプレックスはあったようだった。

「あの、私のことはお気になさらなくて大丈夫ですよ。」
「そうはいかないだろう。婚約者を一人にするべきではない。」

私がいるのに堂々とアリシアといますからね!

「…アレク様のご婚約者のフェリシア様はどちらに?」
「控室で休んでいる。そろそろ迎えに行くよ。オズしばらく、リディアの話相手をしてやってくれ。」
「わかりました。」

そう言うと、アレク様はヒース様を連れて行ってしまわれた。

話相手にと、置いて行ったオズと呼ばれた方を見ると、目があってしまった。

「俺はオズワルド・ブラッドフォードです。お相手をしますよ。」
「リディア・ウォードです。私のことならお気になさらないで大丈夫ですよ。」
「いや、大丈夫ですよ。俺ではご不満ですか?」
「…レオン様が気にするかもしれません。」
「レオン様が他の方といるのに?」
「それでも、婚約破棄を言われない限りは、まだ婚約者ですから。」

そうです。
仮にも、この国の王子ですからね。
私から婚約破棄はできません。

「…以前ハワード伯爵夫人のシェリー様のお茶会にいらっしゃいましたよね。」

シェリー様のお茶会に呼ばれたのは半年ぐらい前だ。
流行りのよく当たる占い師を呼んだと言われて、皆で恋占いを楽しんだりした。

皆は、今から一年後に出会う人と結婚する、とか結婚はまだとか、色々だった。
シェリー様は、元気な男の子が産まれると言われて喜んでいた。

でも、私の時だけ首をかしげ、半年後から今日出逢う、と言われた。
普通なら、今日から半年後ではないのかしら、と思った。
私だけ、変な結果だった。
でも、このオズという方はいなかったと思う。

「あの時いらっしゃいました?」
「ええ、直接はお会いはしなかったのですが、サロンにいる所をお見かけしました。」
「まあ、そうだったのですか。あの…オズワルド様はあの時占いをしましたか?」
「いえ、少用でしたのですぐに帰りました。占いはどうでした?」
「私だけ変な占いでしたよ。オズワルド様はブラッドフォード公爵の方ですよね。お邸に図書館があると聞いたことがあります。」
「良ければ、ぜひどうぞ。かなり街から離れた邸ですけど。それとオズと呼んで下さい。」

オズワルド様はニコリと笑顔で言った。

話やすい方ですけど、いきなりオズ様とは言えません。
しかし、本は読みたい。

「…オズワルド様、行きたいですけどレオン様が…」
「気にしないでしょう。それと、オズです。」
「オズワルド様、本当なら本を読みながらゴロゴロしたいのですけど。」

はぁ、とため息をつき、ハッとした。

「…ゴロゴロ…?」
「空耳ですわ。オズワルド様。」

いけない、いけない。
地がでそうでしたわ。
何となく話しやすい雰囲気でつい緩んでしまいそうだった。

オズワルド様は一瞬固まったが、すぐに優しく微笑み直した。

「…オズです。…本が好きですか?」
「ええ。」

それにしても、愛称で呼んでほしいのか、何度も、オズ、と言ってくる。
でも、私はレオン様の婚約者だから言わない方がいいと思った。
でも…一瞬でもこの方が婚約者なら、あの王宮での花嫁修業もしなくてよかったのかも…とか思ってしまった。

そして、レオン様がずっとアリシアとダンスをしている間、レオン様を忘れたようにオズワルド様と会話を楽しんでしまった。


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