30 / 47
30
しおりを挟む「先ずは魔法を何とかしないとな」
「魔道具を買ってください」
「あとで金を請求するぞ」
「そうですね……」
そう言えば、魔鳥の雛を置いてきてしまった。アイゼン様は餌を上げてくれるのだろうか。でも、勝手にどこかへ飛んで行ってしまいそうだ。
「そう言えば、魔道具のお店を知っているんですか?」
「ディートヘルムの記憶にあった。この男は魔法を使えるから、ちょうどよかったぞ。魔法師団とかいうのに所属しているらしい」
「魔法師団……ラヴィニア王女の身体を直した機関ですね」
「ああ、それは知っているのか。優秀な魔法使いが所属しているようだな」
ふーん、と思いながら、お師匠様と歩いている。街並みはアイゼン様と馬車の中から見た通り栄えている。綺麗な石畳の街路に貴族も平民も行きかっていた。
「……子ウサギ。フードを被りなさい」
「別に寒くないですよ?」
「どうもその容姿は目立つ」
「ああ、そういうことですか。とっても美人ですものね。でも、アイゼン様はちょっと雰囲気が違うと言ってましたよ」
「王女と思って見られているかどうかは判断が付かないが、その容姿は目立つのだよ」
周りに視線を移すと、確かにちらちらと見られている。でも、私だけではない。女性たちからのお師匠様への視線も感じる。スーツ姿に紳士らしい帽子姿は女性の目を惹くのだろう。
「お師匠様のディートヘルムも目立ちますよ。令嬢様たちが釘付けです」
「困ったな」
「困りましたね」
うーんとディートヘルムと顔を見合わせる。
「仕方ない。少し遠回りになるが、路地裏へ行くか」
「面倒ですね……別に気にしなければいいと思いますよ」
「誰のせいだと思っている。子ウサギの身分が高すぎるんだ。すぐに気付かれる可能性がある。王都から、騎士団でも派遣されたら面倒だ」
「私のせいではないですよ? 転生先は誰にも選べないんですから」
「それこそ神のみぞ知る、ということだな」
そう言いながら、お師匠様が被っていた帽子を直した。
「とりあえず、一緒では目立つ。それに、グレイド辺境伯が王女を気に入っているなら、目立たない方がいい。子ウサギはここで待ってなさい」
「わかりました……では、この辺りで待ってますね」
仕方なくディートヘルムを見送り、街並みにあるベンチに座った。お師匠様と同じ時代に転生したのは、良かったかもしれない。これで、魔女の森へと帰れる。
(転生の術を使う前に死ぬわけにはいきませんからね)
しかし、足を見ればお洒落な踵のある靴だ。これでは、長旅には向かないだろう。そう思いながら、足元に視線を向けていた。
「ラヴィニア王女……」
すると、誰かが近づいて来て、何だろうと思いながら顔をあげた。ギラリとナイフが日に反射したせいで、顔は判明しない。だけど、長い髪の女性が迷わずに、ナイフを振り下ろした。
まだ。転生の術を使ってない。今ここで死ねば二度と復活できない。
「止まりなさい!」
魔法で動きを止めようとして叫んだ。すると、一瞬だけ私にナイフを振り下ろそうとした女性の身体が固まった。だけど、それも一瞬のこと。どこまでもラヴィニアは魔法が使えない。でも、その一瞬で慌ててから身体を捩らせて逃げようとした。
「ラヴィニア__……!!」
名前を呼ばれた。と思った瞬間に誰かが私を庇った。一瞬だけ、真っ赤な鮮血が目の前舞う。
「……アイゼン様?」
庇われた相手の顔を見れば、アイゼン様が必死な形相で私を心配気に見つめた。彼の左腕から血が滲んだ。アイゼン様は、私を大事に腕に隠して女性へと叫んだ。アイゼン様の腕の隙間から女性を見れば、血の付いたナイフを持っているのはレアンだった。
「レアン! 何をやっている!」
「アイゼン様!? どうしてここにいるの!?」
「それは俺のセリフだ! ここで何をやっているんだ!?」
「その女を殺さないと……! 私は騙されたのよ!? アイゼン様だって……!」
「……何の話だ? いや、何をしようとした。自分が何をやっているかわかっているのか!? こんなことが知られたら、一族がどうなると思うんだ!」
両手で顔を覆い泣きわめくレアンにアイゼン様が恐ろしい表情を向けた。王都に知られれば、レアンの一族は皆殺しだ。もしかしたら、辺境伯の婚約者だったアイゼン様にまで危害が及ぶかもしれない。そうなったら、アイゼン様がラヴィニアにしてきたことが全て無駄になる。
「……どうして庇うの? その女は最低よ! 人間じゃないわ!」
「レアン……君を捕える」
「イヤよ! 絶対にイヤ! ディートヘルムのことだって知らないわ!」
取り乱しながらレアンが叫んだ。
ディートヘルム? なぜ、そこでディートヘルムの名前が出て来るのか。お師匠様を思い浮かべると、ディートヘルムと何かあったのかもしれないけど……。何か嫌な予感がする。
その間もアイゼン様が私を離さずにいると、レアンが逃げようと走り出した。
「レアン! 待て!!」
205
お気に入りに追加
748
あなたにおすすめの小説
夫の心がわからない
キムラましゅろう
恋愛
マリー・ルゥにはわからない。
夫の心がわからない。
初夜で意識を失い、当日の記憶も失っている自分を、体調がまだ万全ではないからと別邸に押しとどめる夫の心がわからない。
本邸には昔から側に置く女性と住んでいるらしいのに、マリー・ルゥに愛を告げる夫の心がサッパリわからない。
というかまず、昼夜逆転してしまっている自分の自堕落な(翻訳業のせいだけど)生活リズムを改善したいマリー・ルゥ18歳の春。
※性描写はありませんが、ヒロインが職業柄とポンコツさ故にエチィワードを口にします。
下品が苦手な方はそっ閉じを推奨いたします。
いつもながらのご都合主義、誤字脱字パラダイスでございます。
(許してチョンマゲ←)
小説家になろうさんにも時差投稿します。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから
キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。
「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。
何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。
一話完結の読み切りです。
ご都合主義というか中身はありません。
軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。
誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
もう一度あなたと?
キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として
働くわたしに、ある日王命が下った。
かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、
ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。
「え?もう一度あなたと?」
国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への
救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。
だって魅了に掛けられなくても、
あの人はわたしになんて興味はなかったもの。
しかもわたしは聞いてしまった。
とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。
OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。
どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。
完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。
生暖かい目で見ていただけると幸いです。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。
さよなら、私の初恋の人
キムラましゅろう
恋愛
さよなら私のかわいい王子さま。
破天荒で常識外れで魔術バカの、私の優しくて愛しい王子さま。
出会いは10歳。
世話係に任命されたのも10歳。
それから5年間、リリシャは問題行動の多い末っ子王子ハロルドの世話を焼き続けてきた。
そんなリリシャにハロルドも信頼を寄せていて。
だけどいつまでも子供のままではいられない。
ハロルドの婚約者選定の話が上がり出し、リリシャは引き際を悟る。
いつもながらの完全ご都合主義。
作中「GGL」というBL要素のある本に触れる箇所があります。
直接的な描写はありませんが、地雷の方はご自衛をお願いいたします。
※関連作品『懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい』
誤字脱字の宝庫です。温かい目でお読み頂けますと幸いです。
小説家になろうさんでも時差投稿します。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
相手不在で進んでいく婚約解消物語
キムラましゅろう
恋愛
自分の目で確かめるなんて言わなければよかった。
噂が真実かなんて、そんなこと他の誰かに確認して貰えばよかった。
今、わたしの目の前にある光景が、それが単なる噂では無かったと物語る……。
王都で近衛騎士として働く婚約者に恋人が出来たという噂を確かめるべく単身王都へ乗り込んだリリーが見たものは、婚約者のグレインが恋人と噂される女性の肩を抱いて歩く姿だった……。
噂が真実と確信したリリーは領地に戻り、居候先の家族を巻き込んで婚約解消へと向けて動き出す。
婚約者は遠く離れている為に不在だけど……☆
これは婚約者の心変わりを知った直後から、幸せになれる道を模索して突き進むリリーの数日間の物語である。
果たしてリリーは幸せになれるのか。
5〜7話くらいで完結を予定しているど短編です。
完全ご都合主義、完全ノーリアリティでラストまで作者も突き進みます。
作中に現代的な言葉が出て来ても気にしてはいけません。
全て大らかな心で受け止めて下さい。
小説家になろうサンでも投稿します。
R15は念のため……。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる