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フレッド視点

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朝から俺は優雅だった。
香り高い高級茶葉を嗜む姿は貴公子に見えるだろう。

そんな時間に廊下を誰かがうるさく走る音が響くように大きくなって来る。
なんと、はしたないものか。
そんな使用人は解雇だな。この、バーグナ伯爵家にはふさわしくない。
このバーグナ伯爵家は貴族や殿下に茶葉を卸している商いをしている。
そのおかげで、裕福なのだから、使用人も優雅に仕えてもらいたいものだ。

バンッーーーー!!

「フレッドーー‼」
「なんだ……父上でしたか。落ち着きがないですよ。もうすぐで使用人を解雇するところでしたよ」
「お、お前‼ なんてことをしてくれたんだ⁉」

来るなり落ち着きのない父上は、真っ青になりながら怒鳴り散らす。
優雅なお茶が台無しだった。

「なんの話ですか?」
「ふざけるなーー! 婚約破棄だ! アレックス・ノルティス伯爵から書類が届いたぞ!」
「どなたです?」
「アシュリーの後見人だ!」

そういえば、アシュリーの父親の跡を継いだ男がそんな名前だったような……。
どうでもいいから、忘れていたな。

「それがなにか?」
「なにが、じゃない! ワシが茶葉の視察に行っている間になんてことをするんだ⁉」
「そうですよね。アシュリーの奴、バレンティア伯爵が臥せってから、仕事を覚えに来なくなり、父上と俺の負担ばかりでしたね。でも、もう大丈夫です。あんな冷たい奴とはおさらばしましたから。ハハハ」
「おさらばしてどうするのだーー‼ アシュリーがいないと我が家は没落だ!」
「はぁ? 父上……なにを言っているのです? 跡継ぎなら大丈夫ですよ。次の婚約者はもう見つけております」

父上は泡を吹きそうなくらい青ざめた。
アシュリーは、臥せった父親の側にいたいと言い、うちの茶葉専門店の仕事を手伝いに来なくなった。将来の仕事を放棄したも同然だった。
父上は優しいから、「お父上に付き添ってあげなさい。無理をすることは無い」とアシュリーを咎めなかった。まぁ、まだ手伝いだから、実際運営しているのは、我が父上だけど。
でも、あんなところで婚約破棄を言ってやったから、もう縁談なんかこないだろう。
どうせ、捨てないで、と泣きついて来るに決まっている。その時に、アニエスの代わりに仕事をさせて、妾ぐらいにしてやる。
なんせ、アニエスは、仕事をすると俺との時間が減ると言って悲しんでいるからな。
そう泣かれては、男としてなんとかしてやらねばならん。

「もう婚約したのか⁉」
「まだですが……待ちきれないなら、すぐにいたしましょう!」
「やめろーー!! そんな女より、すぐにアシュリーと婚約してこい‼」
「父上、どうされたのですか? アシュリーとは破棄したと……まさか慰謝料を吹っかけてきてますか? いくら親がいないと言っても、法外な慰謝料を要求するとは!」
「慰謝料なんか払えるか! アシュリーがいないと我が家は破産するかもしれん! 没落だ!」
「あの……父上、なんの話ですか? もう、婚約破棄をしたから、アシュリーは我が家とは関係ないでしょう?」
「関係ない……⁉ おしまいだ……!」

倒れそうな父上を支えると、キッと恐ろしい形相で睨みつける。

「我が家が何故裕福な暮らしをしているか、わかってないのか⁉」
「我が家の茶葉専門店のおかげでしょう? 殿下たちもお気に入りで貴族に大人気ですからね。庶民も憧れているぐらいの茶葉専門店ですよ。売り上げは上々です」

その言葉に父上がわなわなと震えだす。そして、叫んだ。

「その茶葉専門店はアシュリーのものだーーーー‼」
「はぁーーーー⁉」





 
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