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第三章

269話目

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「……って事はシャーロットさんがブリストウ領にまで来て自販機を求める理由はさっぱりわからないって事……ですか?」


灯里がユーリアスさんにそう問う。

「申し訳ないがその通りだマドモアゼル灯里。 力になれなくてすまないね」

いちいち恰好をつけて話すユーリアスさん。

「い、いえ。 色々話を聞かせて頂いてありがとうございます。 こちらの世情に疎くて……」

「他にも分からないことがあったら聞いてくれて構わない。 私が知っていることは教えよう。 レディーの頼み事は断らない主義なのでね」

ユーリアスさんが凄い。 なんというか凄い。
女性の扱いが上手いというかたらしというか。 聞く人が聞けば、合わない人が言えば鳥肌が立つんだろうけど自然体に言ってのけるところがなんかすごい。

「だがそうだね……私もちょっと探っておくよ。 アルフォート様にはお世話になるからね」

「ありがとうございます!!」

「いえいえどう致しまして」

そう言って私と灯里はこれ以上邪魔する訳にはいかないので失礼した。





「ユーリアス探るってどうすんだ? お前ここから出れないだろ」

「出れないなりにやりようはあるぞ!! 私はここでパワーアップしたからな」

女性陣が退出した部屋では、先ほどまでの有能そうなきらめきが綺麗さっぱり消え去り、アホ度が増したユーリアスが自信満々にそう告げる。

「……ユーリアス、お主なぜ女子が居ないとアホになるんじゃ?」

「アホとは失礼な!! やはり私もれっきとした紳士。 レディー達の前では振る舞いに気を付けるさ。 完璧だったろう?」

胸に手を置き自信満々にそう告げる。
それをワシと透がしらけた目で見やった。

「いや、かなり気持ち悪かった」

「失敬な!! 倉敷こそ気を付けたまえ。 そんなんじゃレディーからモテないぞ」

「……どうでもいいわ、あほらしい」

「……お主に若い女子を宛がうのは正解なんじゃろうな」

その様子を見て主催側の貴族がユーリアスに女性を宛がう理由がなんとなく分かった気がした。



ミラーリア侯爵領ヘルバー商会



「シャーロット様がブリストウ伯爵と面会したそうです」

「……そうか。 そうか……」


やはりブリストウ領の商業ギルドと伯爵は通じておったのか。

部下からの報告を部屋で受ける。

窓から見える景色を眺めつつふとあの日のことを思い出した。



+++

「アイゼル会頭、頼みごとがございますの」

ヘルバー商会はミラーリア侯爵の直下の商会として主に薬の流通や薬草などの仕入れを一手に引き受けている商会だ。
ミラーリア侯爵家が作る薬は、少ない回復魔法の使い手を補い、またその優れた効果はミラーリアの秘術により長期間の保存がきき、高価ながらも常備しておきたい貴族からの注文が殺到している。

ヘルバー商会が薬の素材を国を飛び越え他国にも渡りをつけ広範囲から買い付けを行い、珍しい植物なども仕入れてくる。
ミラーリア侯爵家はその素材を使用しさらに薬の改良を行う。
そしてヘルバー商会がそれを高値で販売する。
いわば互いになくてはならない、ミラーリア侯爵家の為の商会と言っても過言ではなかった。

だからミラーリア侯爵家からの信頼も厚く令嬢や令息も素材の目利きをしに幼少の頃よりよく訪れていた。

アイゼルもシャーロットのことは幼少の頃より顔見知りで、口に出せば間違いなく処罰の対象となるだろうが孫娘のような気持で見守っていた。

シャーロットは侯爵にも愛され、使用人たちにも愛され、ヘルバー商会の者達にも愛され、健やかに育って行った。

そんなシャーロットの頼み事だ。

「なんでしょうか? シャーロット様」

デレデレしないように表情を引き締め立場をしっかりと明確にしシャーロットへ聞き返した。


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