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第三章

264話目

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そこで話を聞くとユーリアスさんの魔力の扱いがかなりの腕前だったらしい。

「爺さんよりも上手い」

「なっ儂の方が上手いわい!!」


倉敷さんが断言するとマッヘンさんが口に含んでたお酒を吹き出し、脊髄反射で反論した。
我に返るとこぼしたお酒を見てしょぼんと落ち込み、いそいそと紙ナプキンで口元を拭い、新しい紙ナプキンでテーブルも拭いていた。

「意外だったよね。 なんかすぐ投げ出すかと思ってたよ」

菅井さんがそんなことを言う。

「見どころはあるかと思います、魔獣の亡骸を見てはしゃいでましたから」

相良さんまで好印象らしい。

ちょっと待って。
……来た初日に魔獣の亡骸見せたの?

話を聞けばユーリアスさんは家を出る際魔道具コレクションを全部持って出たらしい。
色々マジックバックから取り出すうちに盛り上がったそうな。
そんでその持ち込んだ魔道具の一つを再現してみようとなったらしい。

ユーリアスさんが鑑定書を見ながら素材が足りないと言ったので相良さんがアイテムボックスから該当する魔獣を取り出したんだそうだ。
……相良さんのアイテムボックスの中はだいぶスプラッタしてるね。

ユーリアスさんはそれを見ていたく感激したそうな。

……魔獣の亡骸見て感激ってなんでだ。 その感性がよく分からないんだけど。
その魔獣は選別して冒険者ギルドに持ち込み解体してもらうようだ。

流石に解体までは出来ないよね。

そう思っていたら、
「冒険者ギルドに一緒に行って解体作業を見たいとおっしゃってたので今度領主様に許可を得られたら一緒に行く予定です」

そう相良さんに告げられた。
ユーリアスさんは何を目指しているんだ?! お貴族様だよね?!

「冒険者ギルドに解体を頼んでもええのじゃがやはり思い通りにいかんからのぅ、冒険者ギルドの解体で腕のいいやつの基準は早さじゃ。 まぁ当然じゃな、数をこなせなければおまんま食えないんじゃからな。 儂らが欲しいのはもっと丁寧にはぎ取ってもらったやつじゃ。 処理の仕方で魔力の伝導率が全然違うんじゃよな。 おっと余談じゃったな。 まぁぶっ倒れずに自分で解体したいとは……本当に逸材じゃ。 貴族にしておくのが勿体ないの」

しみじみとした口調でマッヘンさんが言う。
貴族にしておくのが勿体ないって何。 ……いや何!?

「フォルラーニ侯爵が来てなかったら貴族って言われても信じられなかったね」

そう菅井さんが呟く。

それで最後は領主邸へ行くのを拒否か。
初日だけでこれだ。
どうやらだいぶ面白い人らしい。

話を聞くだけでそう思った。



そしてしばらくしてアルフォート様から許可を得られたので相良さん付き添いの下冒険者ギルドに通うようになった。

この日は久しぶりに孤児院に貯まっていた果物を持ってきがてら灯里が廃村に遊びに来ていた。
ここ最近の出来事を話すと会得の行ったような表情を浮かべた。

灯里曰く冒険者ギルド職員の間でも話題になっているらしい。

「身なりの良い美青年が血なまぐさい解体場に入り浸っている」 と。

ユーリアスさん、魔道具はどうした魔道具はそのためにここに来たのでは……いやここに来たのは倉敷さんのせいだ。
私も色々と染められているらしい。
頭を振って考えを戻した。

ユーリアスさんがそうなっている現状の理由をマッヘンさんに聞けば、持ち込んだ魔道具の再現をする際に素材の処理による性能の違いを見せつけたようだ。

倉敷さんやマッヘンさんは元々その辺は理解していたそうだ。
だが解体まで手を出すならばその分魔道具を作製したいと言う事で冒険者ギルドに丸投げのまま今まできていたそうだ。

そこに来てユーリアスさんが解体にまで興味を持ち始めた。
マッヘンさんと倉敷さんは阿吽の呼吸でいかに魔獣の解体の処理の具合で性能に差があるか語ったそうだ。

コレクションように集めた魔道具の鑑定書まで作るユーリアスさんの、その細部までこだわりたい気質に見事にクリーンヒットしたそうだ。

幸いなことにユーリアスさんは血を見ても倒れることは無かったそうで冒険者ギルドで手伝いをしながら解体を学んでいるそうだ。

相良さんのスプラッタコレクションを見せられても平気なら血は平気だよね。

「そんなことがあったの。 私が来ないうちに色々あったんだね」

最近は寒くなって来たので暖かい飲み物を飲みながら談笑した。

「うん、なんか貴族らしからぬ人だよ。 侯爵家の人なのに」

「まぁ、お貴族してる人よりは良いんじゃないかな? あ、そう言えばなんか最近ブリストウ領の良くない噂が流れてるみたい」

「噂?」

「うん、他の街から来た冒険者が噂してたの」

「どんな?」

「なんか……ここの領主が渡り人を使って金儲けしてるだとか、渡り人を奴隷にしてるだとか、そのうち陛下の命令で捕まるとか」

「何それ」

「私も初めて聞いたときびっくりしちゃったもん」

「それアルフォート様知ってるのかな?」

「どうだろう……分からないけど他の領では結構広まってるみたいだよ」

「そうなの?」

「うん、他の領に依頼で行ってて、依頼完了の手続きに戻って来た冒険者の人たちに無事でよかったとか言われるもん」

「そんなにひどいの……」

そう二人で話しててもらちが明かないので商業ギルドで働いている春子さんをお誘いして一緒に旅館に宿泊することにした。


今日の旅館はマッヘンさん達とは別で女子会を行うことになった。



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