上 下
258 / 274
第三章

258話目

しおりを挟む


「この度は私の愚息がブリストウ領で迷惑をかけました。 申し訳ありません」

開口一番謝罪され頭を下げられた。

愚息が迷惑? ……どういうことだ?

その謝罪に面食らった私は間抜け面になるのを抑えるべく手で口元を覆った。

「ユーリアス、お前自ら説明しなさい」

ユーリアス……ユーリアス=フォルラーニ? 侯爵の次男か? 何をした? 領に入ったなどという情報は……。

そんなことが頭を過ぎっているとユーリアスと呼ばれた人物がフードを取った。

「はい……」

フードを取って現れた顔に私は言葉を失った。
ユーリアス=フォルラーニはフォルラーニ侯爵の次男だ。
母親譲りの美しいプラチナブロンドでサラリとしており、顔は優しげで美しいと社交界で女性たちに人気だ。

その人物の顔が今は見る影もない。
隣に居る母親から鉄拳制裁されたのか、目元や頬ははれ上がり、頭にはいくつかのコブが見受けられる。 美男子の面影はなく大変痛々しい姿が現れた。

その口元から語られた事によると、私の下に舞い込んだ一番新しい面倒ごとに深く関係していたらしい。
語られる内容が進むにつれ隣に座るフォルラーニ侯爵の顔がどんどん怒りでゆがんでいっている。

解決を喜べばいいのか、侯爵の令息が何してんだよ、という嘘偽りのない忌憚のない言葉を言いたくなってきて飲み込み、代わりに深いため息を吐いた。

「それではそちらのフードを被っているもう一人の人物は……」

「あぁ、フードを取りなさい、倉敷」

フォルラーニ侯爵がそう言葉を紡ぐとフードを取り倉敷の顔があらわになった。

つまるところの倉敷の拉致犯はフォルラーニ侯爵の次男だったわけだ。

「私も驚いたんですよ、珍しくユーリアスが友人を連れてきたという報告を聞いたから部屋に赴いたら、こちらに居るはずの倉敷が居たんですからね。 ユーリアスに問えばブリストウ領で出会った渡り人だという。 魔道具に精通し、他の者に知られたら危険だからと睡眠薬を使って保護してきたという。 どこが保護だ、立派な拉致だろう、この大ばか者が!!!!」

ゴチンッと盛大な音が響いた。

「痛っ!!」

「フォルラーニ侯爵、落ち着かれてはいかがか?」

「!! ……お見苦しいところをお見せしました」

ハッとした表情で取り付くようなそぶりを見せる。
当の被害者である倉敷を盗み見れば、侯爵と令息のやり取りに引いているようだ。


「してなぜこちらに連れてこられたのでしょう。 確かに倉敷はこちらの領内で暮らしておりましたが……申し訳ないのですがこれは侯爵家の内輪の話ではないのでしょうか?」

訝しるようにそう問えば侯爵が倉敷を見やりもう一度こちらに視線を寄越した。

「はい。 倉敷の魔法は以前こちらの領で確認し、ブリストウ領で保護しているという認識でした。 倉敷はこちらへ送り届ける予定でしたが、今回の件倉敷にユーリアスへの罰をどのようにしたいか聞いてみたところ、その内容の件でブリストウ伯爵にお伺いをした方が良いとこうして足を運んだ次第です」

は?
おっと……あまりの予想外の発言に領主にあるまじき言葉が出るところだった。
んん、と咳ばらいをしてごまかした。

「……ユーリアス殿への罰?」

「はい、倉敷はこのユーリアスを助手に欲しいと言い出しました」

「は?!」

今度は心の中だけに留めておけずついぞ言葉が口を継いで出てしまった。

「魔道具に囲まれる生活なんて夢のようだ!! 私もぜひこちらに住まわせていただけないだろうか!!」

熱を帯びうっとりとするユーリアス。
良くもまぁ懲りないものだなと感心していると、

「黙れ!! ユーリアス!!」

「痛っ!!」

侯爵からの鉄拳がその頭に降り注いだ。
なるほど、こうして頭のコブが増えて行ったのだな。

そんな考えで現実逃避をしてしまった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたんですけど、スキルが「資源ごみ」だったので隠れて生きたいです

新田 安音(あらた あのん)
ファンタジー
平凡なおひとりさまアラフォー会社員だった鈴木マリは異世界に召喚された。あこがれの剣と魔法の世界……! だというのに、マリに与えられたスキルはなんと「資源ごみ」。 おひとりさま上等だったので、できれば一人でひっそり暮らしたいんですが、なんか、やたらサバイバルが難しいこの世界……。目立たず、ひっそり、でも死なないで生きていきたい雑草系ヒロインの将来は……?

転生王女は現代知識で無双する

紫苑
ファンタジー
普通に働き、生活していた28歳。 突然異世界に転生してしまった。 定番になった異世界転生のお話。 仲良し家族に愛されながら転生を隠しもせず前世で培ったアニメチート魔法や知識で色んな事に首を突っ込んでいく王女レイチェル。 見た目は子供、頭脳は大人。 現代日本ってあらゆる事が自由で、教育水準は高いし平和だったんだと実感しながら頑張って生きていくそんなお話です。 魔法、亜人、奴隷、農業、畜産業など色んな話が出てきます。 伏線回収は後の方になるので最初はわからない事が多いと思いますが、ぜひ最後まで読んでくださると嬉しいです。 読んでくれる皆さまに心から感謝です。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...