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第三章

253話目

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「倉敷さんが消えた」

それは突然の出来事だった。

その日は珍しく倉敷さんが用事があると言って転移門が設置されているネーアの相良さんの家に向かった。

マッヘンさんは魔道具を作製するので忙しく、ついでにワシのも購入してきてくれと。
菅井さんは魔法の練習するから忙しいと。
私は街に行くなと皆に止められ。
長谷川さんは領主の館に用事があると。

皆それぞれの理由から倉敷さんが一人で街に向かった。

なんでもそれは魔道具を作るには一般的な物だが、廃村周りでは手に入らないらしい。
襲撃対策に魔道具を持ち歩いていたこともあり、護衛は要らないと相良さんの護衛を断っていた。

夜はあちらに泊まるのか? と声を掛ければ、すぐ帰って来るから待ってろと言われ、皆で倉敷さんの帰りを待った。

お昼が過ぎ、夕方になり、夜が来た。

約束していた時間を過ぎても倉敷さんは帰ってこなかった。
通信の魔道具に連絡を入れても返答はない。

それで皆で廃村の私の家に集まり、リビングスペースで話し合いをすることになった。

口火を切ったのは私だ。

「倉敷さんってどこの素材屋に行ったんですか?」

「確か……商業ギルドの近くの裏路地にある顔なじみの素材屋だったはずじゃ。 あのばあさんが作るリキッドが伝導率が良い事に気づいてのうよく使ってたんじゃ」

「じゃあその素材屋さんにいけばいいんですかね?」

「じゃがその店に行ってもこれほど時間はかからん筈じゃ、何かあったと考えた方が無難じゃろ」

「え? あの魔道具じゃらじゃら付けてる倉敷攫ったの? チャレンジャーだね」

菅井さんがマッヘンさんの言葉に驚いている。
それもそのはず。
私も倉敷さんからレシピ産の魔道具貰ったから分かるが、倉敷さんは私よりもはるかに多い魔道具をその身に着けている。
下手に攻撃しようものならその十倍、数十倍の威力の攻撃が襲撃者を襲うだろう。
そんな歩くカウンターが倉敷さんだ。

「なら顔なじみの人と意気投合したのかな? この街に倉敷さんの顔なじみってどのくらいいるの?」
「そんなにいないはずじゃが……なんせこっちに来て早々ここに引きこもっておるからの。 あの街に行くとしたらその素材屋のばあさんのとこか商業ギルドぐらいじゃの」

「でもそれでもこんなに時間かからないよね……」

意見の堂々巡りである。

皆で頭を悩ませていると通信の魔道具が鳴った。


『……聞こえるか』

「倉敷さん?!」

「「透?!」」

「倉敷?!」

話題の中心人物の声が通信の魔道具から聞こえてきた。


「倉敷さん大丈夫ですか? 何かあったんですか?」

『ちょっとな。 飛び込んだら拉致られた』

「「「「どういうこと?!」」」」

倉敷さんから出た言葉に一同疑問がわいた。


ここからは倉敷さんの話である。

曰く、街に買い出しに行ったら身なりの良いプラチナブロンドの男性に声を掛けられたと。

「君、ちょっといいかな」

えらく機嫌の良さそうな男性で何やら期待したような眼差しでこちらを見てきた。

身なりからして商人、下手をすれば貴族のお忍び風な衣装だ。
関わると面倒そうだなと聞かないふりをしてそのまま立ち去ろうとした。

「え? ちょちょ……ちょっとまってよその黒髪の人」

まさかスルーされるとは思っていなかったらしい。
箸にも棒にも掛からぬ扱いを受けてきたんだろう。
大層驚いて俺の腕をつかんできやがった。

掴んだら当然魔道具が発動する。

バチッっと音がし男性が「へ?」 と呟くとそのまま後ろに転がって集まっていた群衆の中に飛び込んでいった。

「正当防衛だしまぁいいか」とそのまま人込みに紛れ立ち去ろうとしたら後ろから嬉しそうな声が聞こえてきた。

「素晴らしい!! これは防衛の魔道具!! やはり僕の目に狂いは無かった!! そこの君ちょっと待ちたまえ……あれ?」

待てと言われて待つやつはいない。
気にせずに目的の素材屋へとたどり着いた。

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