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第三章

237話目

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「ここは……屋敷かしら?」

「見たこともない造りだな」

サフィリア様と陛下が玄関でそんなことを言いながら靴のまま上がろうとした。

「陛下。 サフィリア、靴のまま上がってはいけません」

「ん?」

私やアルフォート様が教える前にベルゲマン公爵がすっと前に出て説明を始めた。

「ここは玄関です。 この段差が見えますか? ここの段差から先は靴を脱いで進んでください」

「靴を……?」

「脱ぐんですか?」

「し、失礼します」

陛下とサフィリア様と王妃様が公爵の説明に怪訝な表情を浮かべたのを見て、私は急いでスリッパの準備をした。

「こちらにお召し変え願います」

「これは?」

「室内の履物にございます」

「室内の履物? あぁ、あの宿にもあった物か」

「どういうことですの?」

王妃様は訝しんでいる様子だったが、公爵とアルフォート様やオリヴィア様が率先して履き替えたおかげですんなりと履き替えてくれた。

「こちらがリビングになります」

私が先導し、リビングへ案内する。
私が先を歩いているので顔は見えないが声を聞く限り悪い印象は持っていないようだ。

「まぁ……」

季節は新緑、高台にあるこの一棟貸しの宿は眺めが良い。
王妃様からは感嘆の声が漏れた。

「良い眺めですね」

「これもガラスか。 おぉ……高いな」

陛下は高いところがお好きなのかな? 前回も商業施設で高い高い言ってたよね。

「このベランダは木で作られているのですね、素晴らしい」

ベルゲマン公爵はベランダ……ウッドデッキの作りが気になっているようだ。
しゃがみ込んで釘が打たれている箇所や軽く叩き強度を測っているみたいだ。

公爵って最初に案内した時もそうだけど、建築様式とか造りの方が気になるタイプなんだね。

「このソファーも座り心地も良いですね。 レオノーラも座ってはいかが?」

「ありがとう存じます」

室内の白いソファーにサフィリア様が座る。
流石に外には出たくないみたいだ。
ウッドデッキを見慣れない人からしたら怖いかもね。
手すりもガラスだし。

アルフォート様とオリヴィア様はサフィリア様達が座っている後ろで控えている。

「遠くに見えるのは海か?」

「そうみたいですよ、美しい景色ですね」

「そうだな」

皆でリビングを堪能するのは良いよ。
確かに綺麗だもんね。

でも、問題は解決してないんだけど!!

一人やきもきしていたらサフィリア様から声が掛かった。

「では問題の部屋を見せてもらおうかしら」

ソファーから優雅に立ち上がると綺麗な姿勢でこちらへ振り返った。

「陛下、部屋へ参りましょう」

「おお、母上、かしこまりました」

「陛下」

「失礼致しました。 公爵夫人」

陛下の気がすっかり緩んでいるようだ。

問題の部屋を見て回る。

2つは露天風呂付きの部屋。 1つは露天風呂無しの部屋。 最後の一つは和室だ。

「私はここが良い」

「私もここが良い」

和室を見た瞬間陛下と公爵の声が被った。
被った瞬間陛下と公爵の間で静かなる戦いが繰り広げられた気がする。

どっちがこの部屋を使うか。

「確かにこの部屋は異国情緒溢れていてこの間の宿とも趣が違うな」

アルフォート様がそう感想を述べる。

気に入ってもらえるのはありがたいがこの部屋お風呂無しなんだよ? 隣に露天風呂あるけどさ。
陛下も公爵もそれでいいの?

口には出せないが内心やきもきしてしまう。
陛下優先? それともベルゲマン公爵優先? そうなったら王妃様とサフィリア様は?
どうすればいいの?


「陛下も旦那様もこの部屋が気に入ったのですね、アルフォートはいかがかしら?」

「は、私もこの部屋は素晴らしいと思います」

サフィリア様の問いかけにアルフォート様はそう述べた。

「そう」

そう言ってサフィリア様がにっこりとほほ笑んだ。

「なら決まりですね。 私とレオノーラがお風呂付の部屋の一室を使用します。 もう一部屋はオリヴィアと桜で使用しなさい。 お風呂無しの部屋は長谷川が。 陛下と旦那様とアルフォートでこの和室を使用なさい」

サフィリア様が判断を下した。

「父上と相部屋ですか?!」

「ふふ……まあ……いいか」

陛下は驚いたような表情を浮かべたがベルゲマン公爵は楽しそうに笑っていた。
巻き込まれたアルフォート様は静かに諦めたような顔をした。

思いがけず一人部屋を獲得した長谷川さんは満面の笑みを浮かべた。
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