237 / 274
第三章
237話目
しおりを挟む「ここは……屋敷かしら?」
「見たこともない造りだな」
サフィリア様と陛下が玄関でそんなことを言いながら靴のまま上がろうとした。
「陛下。 サフィリア、靴のまま上がってはいけません」
「ん?」
私やアルフォート様が教える前にベルゲマン公爵がすっと前に出て説明を始めた。
「ここは玄関です。 この段差が見えますか? ここの段差から先は靴を脱いで進んでください」
「靴を……?」
「脱ぐんですか?」
「し、失礼します」
陛下とサフィリア様と王妃様が公爵の説明に怪訝な表情を浮かべたのを見て、私は急いでスリッパの準備をした。
「こちらにお召し変え願います」
「これは?」
「室内の履物にございます」
「室内の履物? あぁ、あの宿にもあった物か」
「どういうことですの?」
王妃様は訝しんでいる様子だったが、公爵とアルフォート様やオリヴィア様が率先して履き替えたおかげですんなりと履き替えてくれた。
「こちらがリビングになります」
私が先導し、リビングへ案内する。
私が先を歩いているので顔は見えないが声を聞く限り悪い印象は持っていないようだ。
「まぁ……」
季節は新緑、高台にあるこの一棟貸しの宿は眺めが良い。
王妃様からは感嘆の声が漏れた。
「良い眺めですね」
「これもガラスか。 おぉ……高いな」
陛下は高いところがお好きなのかな? 前回も商業施設で高い高い言ってたよね。
「このベランダは木で作られているのですね、素晴らしい」
ベルゲマン公爵はベランダ……ウッドデッキの作りが気になっているようだ。
しゃがみ込んで釘が打たれている箇所や軽く叩き強度を測っているみたいだ。
公爵って最初に案内した時もそうだけど、建築様式とか造りの方が気になるタイプなんだね。
「このソファーも座り心地も良いですね。 レオノーラも座ってはいかが?」
「ありがとう存じます」
室内の白いソファーにサフィリア様が座る。
流石に外には出たくないみたいだ。
ウッドデッキを見慣れない人からしたら怖いかもね。
手すりもガラスだし。
アルフォート様とオリヴィア様はサフィリア様達が座っている後ろで控えている。
「遠くに見えるのは海か?」
「そうみたいですよ、美しい景色ですね」
「そうだな」
皆でリビングを堪能するのは良いよ。
確かに綺麗だもんね。
でも、問題は解決してないんだけど!!
一人やきもきしていたらサフィリア様から声が掛かった。
「では問題の部屋を見せてもらおうかしら」
ソファーから優雅に立ち上がると綺麗な姿勢でこちらへ振り返った。
「陛下、部屋へ参りましょう」
「おお、母上、かしこまりました」
「陛下」
「失礼致しました。 公爵夫人」
陛下の気がすっかり緩んでいるようだ。
問題の部屋を見て回る。
2つは露天風呂付きの部屋。 1つは露天風呂無しの部屋。 最後の一つは和室だ。
「私はここが良い」
「私もここが良い」
和室を見た瞬間陛下と公爵の声が被った。
被った瞬間陛下と公爵の間で静かなる戦いが繰り広げられた気がする。
どっちがこの部屋を使うか。
「確かにこの部屋は異国情緒溢れていてこの間の宿とも趣が違うな」
アルフォート様がそう感想を述べる。
気に入ってもらえるのはありがたいがこの部屋お風呂無しなんだよ? 隣に露天風呂あるけどさ。
陛下も公爵もそれでいいの?
口には出せないが内心やきもきしてしまう。
陛下優先? それともベルゲマン公爵優先? そうなったら王妃様とサフィリア様は?
どうすればいいの?
「陛下も旦那様もこの部屋が気に入ったのですね、アルフォートはいかがかしら?」
「は、私もこの部屋は素晴らしいと思います」
サフィリア様の問いかけにアルフォート様はそう述べた。
「そう」
そう言ってサフィリア様がにっこりとほほ笑んだ。
「なら決まりですね。 私とレオノーラがお風呂付の部屋の一室を使用します。 もう一部屋はオリヴィアと桜で使用しなさい。 お風呂無しの部屋は長谷川が。 陛下と旦那様とアルフォートでこの和室を使用なさい」
サフィリア様が判断を下した。
「父上と相部屋ですか?!」
「ふふ……まあ……いいか」
陛下は驚いたような表情を浮かべたがベルゲマン公爵は楽しそうに笑っていた。
巻き込まれたアルフォート様は静かに諦めたような顔をした。
思いがけず一人部屋を獲得した長谷川さんは満面の笑みを浮かべた。
4
お気に入りに追加
744
あなたにおすすめの小説
異世界に召喚されたんですけど、スキルが「資源ごみ」だったので隠れて生きたいです
新田 安音(あらた あのん)
ファンタジー
平凡なおひとりさまアラフォー会社員だった鈴木マリは異世界に召喚された。あこがれの剣と魔法の世界……! だというのに、マリに与えられたスキルはなんと「資源ごみ」。
おひとりさま上等だったので、できれば一人でひっそり暮らしたいんですが、なんか、やたらサバイバルが難しいこの世界……。目立たず、ひっそり、でも死なないで生きていきたい雑草系ヒロインの将来は……?
転生王女は現代知識で無双する
紫苑
ファンタジー
普通に働き、生活していた28歳。
突然異世界に転生してしまった。
定番になった異世界転生のお話。
仲良し家族に愛されながら転生を隠しもせず前世で培ったアニメチート魔法や知識で色んな事に首を突っ込んでいく王女レイチェル。
見た目は子供、頭脳は大人。
現代日本ってあらゆる事が自由で、教育水準は高いし平和だったんだと実感しながら頑張って生きていくそんなお話です。
魔法、亜人、奴隷、農業、畜産業など色んな話が出てきます。
伏線回収は後の方になるので最初はわからない事が多いと思いますが、ぜひ最後まで読んでくださると嬉しいです。
読んでくれる皆さまに心から感謝です。
異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました
ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。
会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。
タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。
没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。
亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。
さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。
南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。
ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。
異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~
ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ
以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ
唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活
かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし
25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい
こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。
社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。
頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。
オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。
運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。
憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。
異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる