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第三章
221話目
しおりを挟むドルイット侯爵領のドルイット侯爵の館
こちらもフォルラーニ侯爵と同じように移動に時間がかかる故移動はグリフォンで済ませた。
今にも倒れそうなほど顔色の悪い樋口を、戻ってくるなりそのまま執務室に連れて来させた。
「樋口それでは本当に回復したんですね」
座り心地の良いソファーに横にならせて早速報告を聞く。
樋口は筋肉痛なのか恐怖心からなのかよく分からないが子羊のようにプルプル震えていた。
この男は行きも帰りもグリフォンは嫌だと叫んでいた。 嫌だ嫌だ言いながらも暴れずに大人しく乗る姿は奇妙でそれはとても可笑しかった。
思わず笑ってしまい、恐怖で錯乱状態の樋口に『バーカバーカ』 と語彙力のかけらもない言葉で罵倒をされた。
だが樋口はちゃんと落ちずにブリウスト領にたどり着けたらしい。
賢いグリフォンには後でご馳走を用意しておこうと思う。
この樋口という猫背の男は治癒魔法の使い手だ。
理由は痛いのが嫌だからなんだと。
臆病な性格だが、あちらの世界にはない魔道具に興味があったようで、魔獣の素材もこわごわと触れたり文句や悲鳴を上げながらも加工するすべを学んでいる。
警戒心があるのかないのかよく分からない性格で、ここに来た当初はけんか腰だった。
初対面で私に対し自らここに来たのにも関わらず『俺は貴族の奴隷にはならない!!』 と断言された。
目が点になるという経験は初めての経験で興味深かった。
その様子はまるで子猫がいろんなものに対して警戒するようで見ていて面白かった。
だが、誰かが怪我をすれば、自分が怪我を見るのが嫌だからと言う理由で飛んでって怪我を見て卒倒しながら治す。
よく分からないが非常にひねくれて素直で人間味のある面白い人物だ。
「はい、確かに回復致した。 とても怖かった」
「それはグリフォンに対してかな? 何に対してかな?」
「全部だ全部。 グリフォンはまず顔が怖いし、ふさふさなのに撫でようとすると嘴鳴らしながらキシャ―って威嚇するし高いし早いし寒いし死ぬかと思った。 ふさふさは良かった」
「全部グリフォンに対してだね」
真顔でそう報告する樋口。
取りあえずふさふさは気に入ったようだ。
「付いた途端帰りもこいつに乗らなくてはならないのかと絶望したが手触りの為に耐えた。 俺は凄いと思う」
何がだ。 何が凄いのかよく分からん。
ただ手がワキワキと動いているのでよほどグリフォンの毛並みがお気に召したのであろう。
よし、次も行けそうだな。
「それでどうやって回復したのかは見れたのかい?」
「見れなかった。 ……見れなかったというか怖かった!! あれめっちゃ怖かった!!!!」
樋口はソファーの上でガクブルと震え出した。 一体ブリウスト領で何があったんだ。
尋常ではない震え具合を見てそう思う。
「部屋に入ったら手を拘束されて目隠しと耳栓、口にタオルを巻かれた拉致された奴がいた」
「!?」
「え? 何この変態って思ったら俺もその場で手を拘束された。 その時点でこれは罠だったんだな、俺の人生終わった、侯爵に騙された死ねって思った」
「!?」
「目隠しと耳栓と口にタオル巻かれて担がれてソファーに座らせられた。 めっちゃ怖かった。 侯爵のくそ野郎って思った」
「!?」
「そしたら急に立たせられて歩かされて拘束を解かれた。 そしたら隣の奴も拘束を解かれてて熊みたいなでかいやつで死ぬ、侯爵死ねって思った」
「!?」
「んで今魔力確認したら回復してた。 俺はやり遂げた。 俺は凄い」
そう言うと樋口は力尽きた。
結局何一つとして分からないままだ。
……と言うか今魔力確認したのかこいつは。
さんざん人の悪口言って倒れたぞ、私は何度死ねって言われたんだ?!
理解が追い付かなくて多少怒りも込み上げてきたが、青い顔して白目を剥いてソファーに倒れた樋口を見て、なんだか無性に笑えてきた。
だがそれはそれだ。 次回はもっと怖い目にあわせてやろうと誓った。
「まぁ、魔力が回復するのが分かっただけでも良しとするか。 お疲れ様です、樋口」
そう言って次回はどうやって怖がらせようかと考えながら執事に指示して樋口を部屋まで運ばせた。
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