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第三章
146話目
しおりを挟む「全く苦労したわい」
「ちゃんと鋼からOK貰ったぞ」
「……だいぶマシになったよ」
「魔法にも耐えられますよ」
健康体そのものの見た目な倉敷さんとマッヘンさん相良さん。
反対にげっそりと痩せ細ってる菅井さんなんだかプルプルしてる。
身を呈して実験してくれたんだね。 感謝。
庭にまわって幌馬車を見ようとみんなで移動する。
「って、あれ? 幌馬車じゃなくなってる?」
見せられた物は幌馬車から馬車に変わっていた。
「ん? あぁ……幌馬車に座席を固定するより座席が付いている馬車の方が早かったんだ」
「ほうほう」
さっそく中を見てみる。
「……わざわざこれ買ったんですか? なんだか高そうですよ?」
馬車に乗り込み内装を見る、ゆったり座れば四人、詰めて乗れば六人は乗れそうな広さだ。
座席に腰を下ろし触ってみるとふかふかしていて座り心地が良かった。
倉敷さん、マッヘンさん、菅井さんと一緒に乗り込み相良さんはドアのところに立った。
「臨時収入があったんじゃ」
「臨時収入?」
マッヘンさんが人差し指と親指で丸を作りいい笑顔でそう言った。
「……それは俺から説明しよう」
「え?」
相良さんの後ろから現れたのは領主の護衛である長谷川さんだった。
領主の館の一室にて
幌馬車改造後の話
「急ぎの報告?」
「はい」
そう言って部屋に入って来たのは、橋沼桜の監視兼護衛を担当している三人のうちの一人、女性のリュシカだ。
子爵家の三女で侍女ではなく騎士を選んだ武闘派だ。 髪は短く性格は真面目でキリッとした面差しだ。 そんな彼女が騎士の制服ではなく冒険者が着るような服を身につけているのは監視兼護衛で市井に紛れるためだ。
……定時連絡より大分前に戻ってきたな。
しかもなにやら焦っている様子、いつも冷静なリュシカにしては珍しい。
周囲に人の気配が無いのを確認し、念のために盗聴防止の魔道具を起動する。
「報告を」
「はい、本日のターゲットの行動はまず魔道具店に行き店主と共に商業ギルドへ赴き会談、その後魔道具店へ店主と共に魔道具店へ戻りました」
それだけ聞くと特に問題はなさそうだ。
「その後庭を監視していたところ何故か幌馬車が空に浮き空を漂いました」
「……は?」
「現状追跡可能な高度でしたが、高度が上がれば追跡が出来ない恐れがあります、対策を講じる必要あると判断し報告に参りました」
自分が見てきたものが信じられないようで困惑が顔に出ている。
問題あったわ。
「そこからは私が説明します」
リュシカの後ろから登場したのは先ほどの会話に出てきた店主、相良だった。 さっきまで誰も……と言うか気配すら無かったぞ。 と言うか盗聴防止の魔道具を起動してたのになぜ内容が分かった。
「えっ? ……!!」
リュシカは急に背後から声が聞こえたことに驚きを隠せないようだ。
だが直ぐに我に返りすぐさま携帯していた武器を抜き相楽へ突き立てようとした。
「リュシカ!! 待て」
声よりも先に魔法で防がれてしまった。
「ぐっ……」
剣はライトシールドに当たり止まる、リュシカは渾身の力を入れたようだがヒビ一つ入らなかった。
何事もなかったかのように微笑む相良、取り敢えず話を聞くかとリュシカを部屋の外へと下がらせた。
「……で? 説明とは?」
「はい、この間教えて頂いた廃村へ行こうと考えてまして、時間短縮の為に空を使おうと改造してました」
「……それで実際に空飛ばせるのがすごいわ」
なんだその熱意。 どうしたらそうなるんだ。
「それで? ここにはそれを伝えに来たのか?」
「一応護衛が付いていたのであらぬ疑いをかけられる前に行き先について報告に来た次第です」
「配慮感謝する」
「護衛をそのまま付けるならカタログギフトの存在もその護衛に知られる可能性があります。 かといって使わない選択肢はありません、 この街では使わない、そちらの要望は満たしてますので。 ……それを言いに来ました」
要するに俺らの言う通りにはするが、バラすバラさないの判断はしないと。 護衛に話すかどうかは俺らで決めろと言うことか。
「分かった、相談する。 その結果は店でいいか?」
判断は領主に任せるか。
返事を寄越す前に手を差し出して来た。
「それに伴ってこれ買いませんか?」
「……イヤーカーフ?」
そう言って差し出した手の中には小さな箱が二つあり、その中には一対のイヤーカーフが収められていた。
「魔道具です」
「……どうやって使うんだ?」
「一人一つ使い片方耳に付けて話すともう片方を他人がつけると離れた場所からでも会話が出来ます」
「通信の魔道具の小型版か。 よく作ったな」
素直に褒めると表情が幾分人間臭く和らいだ。
「腕の良い職人がいますので」
二箱手渡されその内片方の箱からイヤーカーフを手に取り一つを耳に付け、対になるほうを相良に渡した。
「領主に報告しておく、相談結果はこれを使うわ」
「かしこまりました、良い返事お待ちしております」
そうして用が済んだ相良はその場から消えた。
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